C-6.同。~肉の二:パン粉での揚げ各種~
~~~~見えない誰かのために。そういうのはもっと、責任ある方の仕事だ。ボクのじゃねぇな。
…………お。
音が変わった。
そして油から上がり、冷まされ、切られて断面を見せていくそれ。
皿に盛られ――――。
「まずは四足のカツからだ。ほかにもいくつか、四足に限らず出して行く」
出て来た。
茶色でパン粉をまぶし、揚げた――カツ。
地球で言うならトンカツってやつだ。
匂い、色。そして……わずかに踊るような衣。いいね。
付け合わせは甘葉の千切りか。
これがなくっちゃな。
ん?何のソースもない。
これは。
皿を受け取り。
躊躇いなく、カツを一口。
――――やはり。
肉は噛み応えがあり、染み出すような旨味がある。
肉汁というより、これは脂だ。
下味もついているが、柔らかめ。
メインはこの、パン粉。
うまい。さすが麦――否、パンの国。
仄かな甘み、食感。素晴らしい。
そして確かに油のうまさを感じるのに、まろやか。
これはいくらでも入るやつだ。
甘葉を間に挟み、次に移る。
いい。味変も考えるところだが、この一枚はこのまま食したい。
「ハイディ、何もつけないのか?」
「言ったろ?ボクは最初と最後は一番好きなものにすると。
これで正解だよ。
パン粉がたまらない。
次からは、ソース各種も試したいね」
「……お嬢ちゃんも揚げるくちか?」
およ。店主に聞かれた。
「拙いながら。
このパン粉は仕入れ先が聞きたいくらいですね……」
「自家製だ」
「ん、もしかして麦からですか?」
「そうだ。だがこの国は土地がやせてて、あまりうまく育たん。
王国産の麦を食べたことがあるが、あれは最高だった。
いただいた種を改良してここまでたどり着いたが、及んでいないな」
なんと。
「それはもしや、北東領ライム家の、噂の黄金麦では?」
王国では麦の生産は少ないが、高品質種を作っているところがある。
それが北東メラルド侯爵領のライム家の、黄金麦。
またはライム麦と呼ばれる種だ。
「おお、知ってるか。食べたことは?」
「あります。パンにしたものを、一度だけ。
あれの常食は危険ですね……」
正直、小麦粉のような何かでできてるんじゃないの?と思ったくらいだ。
「同感だ。このくらい調理した形で、ちょうどいいだろう。
が、あれで作りたくても、輸入するとちょっと店に出す値段じゃなくなっちまう」
ギンナとベルねぇの方を見ると。
二人、こくりと頷いた。
「まぁいい。今は食べてくれ。
王国民だって聞いたが……口に合うかね」
出て来た皿に乗っていたのは――まさか!
平べったい、丸いパン粉揚げの……芋揚げか!!マッシュの!!
王国民のソウルフード!下手なものを出すとマジ戦争になるやつ!!
いわば「コロッケ」というやつだ……これを出すとは。
だがこの男、同じものをギンナにも出したことがあるだろう。
この子の舌をうならせたということだ。
なんと挑戦的。そしてすでに香りからして蠱惑的だ。
出て来た皿を引き取り。
箸で持って。
一口。
さくり。
…………やはり主体はパン粉。
芋は王国産じゃないな。
だが丁寧な仕事だ。ほろりとした食感。甘味。
そして……この香り。
なるほど。これか。
油が違うんだ。
「しっとりとした、いい芋揚げです。
きっと、誰も争いにならない。
皆、納得するでしょう」
「そうだな。優しい味だ。
ソウルフードとは、こうあるべきだろう」
それぞれ特色のあるものを求めがちな、王国のマッシュ。
あれもいいんだが、これが原点と言われても、納得する。
いい腕だ。
うまい。
「最高の誉め言葉だ。
じゃあ次を出して行こう」
◇ ◇ ◇
食べ終わり、先に店を出て待つことしばし。
「さすがに食べ応えがあったな」
「半分埋まったよ。うまかった。
何より、いくらでも入った。
それがすごい」
かなりの量を食べたはずなんだがなぁ。
もちろん、店の一日の供出量は全部いただいた。
ああ……もう夕暮れ近いな。
「お待たせ」
「良いお話もできたし、次にしましょうか」
二人が出て来た。
「次は楽だよ。何せお隣」
「隣って……」
長大な塀の向こうに、屋敷のようなものが見える。
「お高いけど、おいしいから」
「今日は貸し切りにしてもらったけど。
払いは大丈夫?」
「「余裕」」
次の投稿に続きます。




