C-3.同。~肉の一:丸羽鳥の焼き鳥~
~~~~そういや今生で共和国に来るのは初だ。久しぶりって感覚だが。
「今日はこっちの、ウェイ通り沿いを行きますね。
川辺で、いい感じのお店が結構あります」
ロード共和国の都市は、だいたい確か名前のついた通りが5つあるはず。
そのうちの一つだったかな。
水源から流入した小川が、近くを流れてるんだよね。
「こちらです」
そうしてベルねぇは、一台の屋台……屋台?を示した。
木造の、荷車を改造したような屋台。
やはり木造のベンチが一つだけ出ている。四人は座れそうだ。
のれんがかかっていて、○の中に羽って書かれてる。
連邦でもこういう屋台は何度か見たけど。
どういう文化発祥なんだろうな……。
明らかにこう、世界観に反する、ような。
まぁいいか。生きてる人間にとっちゃ、些細なことだ。
というかここ、昼間っからやってるような店なのか?
ボクの心配を他所に、ベルねぇとギンナがのれんをくぐっていく。
ストックもそれに続いたので、ボクも端に座りに行った。
「おお、待ってたよベルちゃん。
仕込みは十分。今日はたっぷり食べて行ってくれ」
「ありがとうございます。
でもほんとによかったんですか?」
「いいのいいの。
どうせ実家で余ってる丸羽を、買い取らされてるだけなんだから。
でも長持ちはしないからね……なんとか食いつないではいるけど。
おっと、お初の方に話すことじゃなかった。
お嬢さん方、焼き鳥は分かります?」
「ああわかる。食べたこともある」
何せボクが作ったからな。
パンドラの丸羽鳥を捌いて、思いつく限りの鳥料理は作ってる。
焼き鳥もその一つだ。わざわざ焼き台とたれをこしらえてやったぞ。
さぁ本場共和国の焼き鳥、堪能させていただこうじゃあないか。
「ボクもあるので大丈夫です。
とりあえずハツ、ナンコツ、カワからいただけますか?
タレと塩で」
「そこから行くのか!?こっちはモモとネギマ、あとレバーだな。
こちらもタレと塩をそれぞれくれ」
「あ、私たちもそれで」
「あいよ。ちょっと待ってな。
何本ずつだい?
ギンナちゃんのにそろえていいのかい?」
「ええ。私より食べる子たちだから、まずはそれで」
「いいねぇ。今日の分、売り切る気でいくからね?」
「支払いと胃の容量は大丈夫ですから、お任せを」
ボクが答えると、満足そうにうなずいた店主が焼きに入った。
十分に温められた焼き台に、たれにつけられた串が並んでいく。
さりげなく置かれた手拭きをとり、手をきれいにしながら待つ。
串にささった肉、そしてかかったたれに徐々に火が通り、匂い立つ。
――――これは。
炭火の向こうの、匂いの鮮度が、伝わってくる。
鳥だけじゃない。この感じ。
「長い期間を経たつけだれが、共和国焼き鳥の主流と聞きましたが」
「おお、よく知ってるね。
だがありゃダメだ。たまに客の腹壊すやつがいる。
もうちょっとからっとしたとこなら、いいんだがね。
管理に気を付けてりゃいいって面もあるが。
なら最初から手間を惜しむなってとこでね」
魔導も加味すれば、保存方法は確かに十分にある。
だが衛生面を言い出すなら、そも仕込みから消費までは近い方がいい。
寝かせたほうが味がよくなる、という利点も当然あるわけだが。
ここの店主は、味と衛生なら、衛生をとるということか。
いや……それはそれとして、味を落としてる感じはないな。
たれの製作自体に、十分な工夫があると見るべきか。
さては、それでたれがダメになりやすくなってるな?
だから他店より気を遣っている。
何を使っているかは、まだわからんが……はて。
遠めの火で、脂がじっくりと落とされていく。
……実家から押し付けられる、ということは。
かなり大量生産寄りの丸羽だな?
なるほど。
脂に癖があるから、よく飛ばす必要があり、さらにたれにも工夫がいるのか。
「まず皮からね。軟骨、ハツの順で出すから」
皿が置かれていく。
ボク以外の子はネギマからみたいだ。
「「「「いただきます」」」」
一口。
……ミルキーな皮だ。
臭みがない。食感もいい。そして……タレの味がしない。
とても香る。もちろん味は十分。だがタレじゃない。
塩の方も一口。
……塩は十分。だが塩ダレの味ではない。
とろみと濃さはある。
タレは香り、触感、風味をつけるために使っているのか。
それを炭火でじっくり焼きこんでる。
味は丁寧に、下味をつけているんだな。
いい仕事だ。
そしてこれは――――
「おじさん、エールレッドってあるんでしたっけ?」
「ああ、聞いたから用意したよ。
あれ飲んでくれるのは嬉しいねぇ。
ファイアもそうだけど、勧めても飲んでくれなくってさ。
ちょっと待ってな」
なんと。共和国であれを飲めるとは。
王国のカクテルなんだよなぁ。
一応、レッドの方はだいたいどこでも作れるが。
そういや、共和国の農産は麦が主流だ。
連邦は穀物全般で、麦もかなりやってるが、麺向きなのよな。
こっちはパンとかでの消費が主だ。
そして連邦の酒と言えば清酒――米から作る酒で。
共和国なら、エールだと聞いている。
王国を始め、諸外国とはまた違ったものになっているのだろうか。
こう、地球の知識があると。
明らかに和食系の食文化なのに。
米じゃなくて、パン食が主なの、脳がバグリそうになるが。
ああいや、米文化もちょっとあるんだっけ?
難しくて、あまり生産できてないだけで。
確かそういう、宗派があったはずだ。
聖女が食通だったらしく、米を好んだという逸話があり。
これに則って、米を愛する人たちがいるんだと。
次の投稿に続きます。




