B-3.同。~ハイディの光に灼き尽くされた女たちのコメント~
~~~~マリエッタのせいで、マドカの内容飛んじゃったよ。
「はい、以上です。マリエッタさん気持ち悪かったです。
お母さま、コメントをどうぞ!」
「容赦ねぇなクエル。
マリエッタはこんなだよ。概ね予想通りだし、大丈夫」
「お母さま平気なんですか!?」
「?特に実害もないし。マリエッタは変な視線は向けてこないし。
個人が内心で楽しんでることは、尊重するよ。
彼女が言う通り、言われたくらいじゃ気にしない。
その欲望に沿って、ああしてほしいこうしてほしいって言われたら、断るけど。
それにほら、結局マリエッタが愛でてんのはエイミーだしね」
「お、お強い……。
ストックお母さまは……刺激が強かったみたいですし、やめましょう」
「ハイディは私のだもん。あげないもん」
もんとか言っちゃってるかわいい。
しょうがないので椅子を持ってきて、隣に座ってあげる。
テーブルの下で手を握るのは……まぁ許してやろう。
人前で娘前だが、しょうがあるまい。
何せまだ三人。半分残ってる。
「続きまして、帝国第二皇女。
マリエッタさんの何がいいのかさっぱりわからないエイミーさん!」
娘の毒が強い。
ボクも多少同じ感想を抱いてはいるが。
『こい、びと……ハイディ、と。
その。
よろしくお願いします』
ストックが目元を押さえている。
『ああごめんなさい今のやっぱなしで!
え、録音始まってる!?
ああええええええっとじゃあ、じゃあ!
私溺れちゃうから、ダメです!』
ストックの顔が一瞬明るくなって、やっぱり沈んだ。
『だってぜったいしあわせだし……。
ハイディの隣にいる私は、もう私じゃない。なくなっちゃう。
でもそれでもいい……私のお星さま。
ああああいまのやっぱなしストックごめんなさい!!
へ?マリエッタ?』
お。声の調子が完全に変わった。
とても濃厚な、情念を感じる。
高く立とうとする女の、本性が出てくる、予感がする。
『ああ……そうね。マリエッタは私のすべて。
私を作ってくれたのが、彼女。
空っぽだった私を、お母さまと一緒に組み立ててくれた。
でもお母さまはもういないから、私の世界はマリエッタだけなの。
私、マリエッタにはちょっと依存してるの。自分でもわかってる。
でもそれは、あの子の好みじゃないの。
あの子は知らない私がいてほしいの。
自分で組み上げた私が、予想や期待を超えることに歓喜するの。
その時の顔がたまらない……愛してる』
あー。なるほど。だからマリーがお友達言うたんだな。
真逆だからっていうのもあるけど、それだけじゃなく。
本当に歪んでるんだ。
マリーが下水煮込みで咲く美しい花だとするならば。
エイミーは虚空に咲くガラスのような花だ。
元は外からの輝きを返すだけだった彼女。
それがなぜか、内から光り輝くことがあった。
マリエッタは、それを見てエイミーに陥落したんじゃないかな。
とてもきれいだ。
そしてその内から溢れる謎の輝きが、彼女の魅力なんだな。
道理で。ただ明るいだけじゃなく、人を惹きつける子だなぁと思ったんだよ。
そしてマリエッタは惹きつけられて……あんなんになったのかぁ。
悍ましい魅力だな。
『ふふ。ハイディと私が恋人になったら、どんな顔をしてくれるかしら。
ああでも……それは予想通りと受け取られそうね。
ならしない。ちょっともったいないけどね』
そしてそこに出てこないソラン王子。
振られちゃったのはある意味、予定調和じゃったか。
良い人だけど、エイミーの世界には、入ってなかったんだな。
「ハイ、エイミーさんでした。怖かったです!
お母さま、コメントをどうぞ!」
「あのマリーが『お友達』ってはっきり言った女だ。さもありなん。
ただ彼女の本性はなるべく見ないように。これはまずいものだ。
本人もわかって、見せないようにしてるんだろうけど。
なぁ?ストック。帝国女は業が深いな?」
まぁ君は生粋の帝国人じゃないけどね。
「そこで私に振るのか……。
実はエイミー、ラスト皇女はな。前の時間でそりゃあロックな死に方をしてるんだ」
「どんな?」
ロックねぇ。まぁエイミーだしな。
さすがに今の彼女の音声より、やばいのが出てこないと思うけど。
ちょっとお茶を含む。
クエルも喉が渇いてきたのか、ボトルに口をつけてる。
「追い詰められて、皇帝を暗殺した」
「「ブーッ!」」
く、この……気管に入った。
拭きながら自分の咳を落ち着け、クエルのとこに行って背中を撫でる。
彼女の服にもちょっとついてるな。拭いとこう。
「帝位を簒奪するのかと思ったら、そのままどこかへ行方をくらましてな。
帝国は滅茶苦茶になったらしい」
なんだそれ知らん話だぞ。いつだ?
ボクは前の時間、コンクパールに登る直前くらいまでは、それなりに情報を得ている。
皇帝が暗殺されて、しかも帝位が継がれず滅茶苦茶になったなら、いくらなんでも噂になる。
さすがに引っかからないレベルじゃない。あったなら知っててしかるべきだ。
ストックよりは広く収集してたはず……なのになぜ、ストックはボクの知らない事件を知ってる?
ちょっとかねてよりの懸念が現実味を帯びてきたな……。対策をとらなくては。
きっとストックは、前の時間でボクより後まで生きている。
しかも、まだかなりのことを隠してる。
秘密は良い女の証だ。だがそれでボクの目的に支障が出るなら、対応は必要だ。
暴きはしないが、備えはしておくか。
「す、ストックお母さまも、鋭いコメントありがとうございました」
そう締めるんかい。
次投稿をもって、本話は完了です。




