B.クエルの真面目な話:ハイディ一味新人に聞く、ハイディ評
――――これ恒例行事にするの?やめよう??
ある日のパンドラ。
正直、ボクは煮詰まっていた。
実は重大なことに気づいたんだよ。
ほら、前の聖域ジュノーでのこと。
事件再現で「滅んだジュノー」が現れたら。
本物のジュノーとそこの人が「いないことになった」。
ここを考慮するとだね。
せっかく滅亡を免れた聖域ドーンとイスターン連邦。
いずれ、人々から認識されなくなる。大変なことになる。
なので今、ボクは神器に関する研究、ナノマシンの製造。
それに並んで、あるいはそれらを使って。
「なぜ役から外れた人が認識されなくなるのか?」を究明している。
これが例えば、人々に役を強制していた破滅の存在・クストの根のせいなら安心できる。
もうそいつはいないからだ。
だが違うというなら、緊急事態だ。早く解消手段を見つけないと、まずい。
とりあえず、これが呪いなのかどうか?というところから当たっている。
呪いなら、クストの根の可能性が高いし、対策もできる。
この当たり外れを早くはっきりさせたいのだが――まだうまくいっていない。
「人から認識されなくなる」という状態の人が、今いないせいだ。
元はビオラ様がそうだった。
だが彼女は認識が戻っている。調べられない。
だから仮説を重ねながら検証しているわけだが……。
煮詰まったところにストックが帰ってきたので、今はブレーク中だ。
そして思いっきり愛で回していたところ、部屋のドアがノックされた。
二人、服の乱れを整えて、入室を促す。
入ってきたのは、クエルだった。
「お母さま方」
仕事部屋にやってきた娘は、少し真剣な顔をして切り出した。
娘……クエル。ボクとストックの実の娘の一人。
「ウィスタリアの子ができる可能性」を人柱にしていた、クストの根。
そこから取り返した、我が実子。未来から来た、大事な子。
ちょっと年が上なのはしょうがない。
いろいろと事情があってね。
そう……事情。この子には事情がある。
帰りたくない、滅びの未来が待っている。
飢えて死に、そしておそらく――妹のシフォリアに命をつないでもらった、未来。
この子もある意味、呪いの子に違いないということだな。
呪いにかかっていて、それと合わない結末を迎えた。
そして未練を果たすため、過去へ飛んでいる。
…………そいえば、マドカとアリサは何の未練で過去へ飛んだんだろう?
どうもあの二人は、未来の記憶があまりないようなんだよな……。
ボクやストック、クエルやシフォリアとは、何が違うんだろう。
それはともかく、今はクエルだが。
…………何かいやぁな予感が、するんだよなぁ。
クエルはとても深刻なお顔だが。
こう、とんでもないものが飛び出す、勘が、だね。
「どうしたクエル。何か相談か?」
おいパパ上。迂闊に聞くな。
多分今は、雑談で流すのが正解だったぞ。
すごいのが待ってるぞ。ボクは詳しいんだ。
「こ、これのことです!」
ほら、やっぱり。
クエルが出してきたのは、いくらかの……って八本目があるぅ!?
その腕輪どっから引っ張り出した!おいストック、目を逸らすな!!
管理杜撰すぎるだろ!!!!
「ハイディ、その」
「後でお仕置き」
「はい」
「あー。それでクエル。ちょっと話が見えない。
その腕輪については覚えがある。
その様子だと、内容も知っているんだろう。
君の話を、聞かせてほしい」
嫁が頼りにならないので、ボクは腹を括った。
もう踏み込むしかあるまい。
「なんでマドカちゃんたちのがないんですか!!」
…………。
なんでそこにおこなの?
「いくら探してもなかったので!!」
おいクエル。追加で取り出したそっちの六本は何だ。
「直接聞いて、録音してきました!!」
ボクの娘一号はあほの子だった。
「よぅし。君が確かにストックの娘だとよくわかった。
それで今からボクはそれを聞かせられるんだな?」
「はい、是非お聞きください。
まずはアリサちゃんから!」
得意げに構え、クエルが腕輪を回す。
…………あのさ。
何年か前、ストックがやった悪ふざけはだね。
「ハイディを恋人にできるか?」「特定の相手と比べてどうか?」という質問なのだが。
ほんとにそれ聞いてきたのかね、娘よ。
「なお、ストックお母さまはいらっしゃらない、という前提で聞いております。
ではカチッとな」
ほんとに聞いちゃったのか。
そしてボクの何かもちゃんと受け継いでいるようで何よりだ。
『ん……ハイディか。ストックがいない前提で?
恋人、は無理だろう』
何か含みがあるような感じだが、まぁいいだろう。
たぶん第一関門はクリアだ。
よしよし。今の隙にお茶が飲めそうだな。
『だが……ふふ。慕ってはいるとも』
「「ブーッ!!」」
二人して吹いちゃったよ!
えっとハンカチ、二枚出して……。
いったん止めようとしたクエルには、手でそのままでいいと促す。
さっと拭いて、姿勢を正す。
気構えが足りなかった。迎え撃たねば。
『ん?ああ。私があの人のお相手は無理だろう。務まらない。
かわ、や、その……ありがとう。クエル。
はぁ。思いの丈、って言われてもだな。
マドカ?マドカは私の太陽だ。いつも煌々と照らしてくれる。
でもきっと、手を伸ばせば壊してしまう。
それと比べて?
そうだな、ハイディも太陽には違いない。
だが多彩だ。朝日のようでも、夕日のようでもあり。
冬に雲間から覗く柔らかな陽光でもあり。
夏の晴天に輝く容赦ない光でもあり。
そしてきっと壊れない。
…………抱きしめたい。抱きしめて、ほしい』
ストックがお咽になっている。
「はい、終わりです。コメントをどうぞ!
まずはハイディお母さまから」
「はいはい。
あの子は破壊の力の制御に、今取り組んでる。
これが扱えるようになれば、あの子の中の太陽は一つになるだろうね。
まぁそれで、恋愛に進展するかは別問題だけど」
アリサには、何かを壊してしまわないかという強い恐れがある。
それを乗り越えられた時、きっと花開くだろう。
どんな花になるかは、さすがにまだわからないけど。
きっとそれは、彼女の太陽を真っ直ぐに向いて咲くのだ。
「はい。ではストックお父さま!」
「うぇっごほっ、わ、私もか!?
ん”ん”。そうだな。アリサたちは親もないなか、大人に騙されながら過ごしてきた。
そこに希望を与えたハイディは、そりゃ太陽だろうさ。
様々な光を見せる、というのは私もわかるぞ」
「ありがとうございました。
ストックお母さまは無難なコメントですね」
「いやハイディも変わらんだろ!?」
「続きまして」
ストックを無視して、クエルは次の腕輪を取り出した。
次の投稿に続きます。




