X-5.同。~お前の隣にいるためならば。きっと私は、王になる~【スノー視点】
~~~~悪くはないが、変な会食と会談だった。そう……ふふ。悪くはなかったよ。姉上。
「だいぶいろいろな料理があったでしょう?」
「ああ。連邦で見たものもあったな」
「ええ。庶民のものから、貴族の席でしかでないようなものまで。
おおよそ想像し得る、参加者のなじみの食が片っ端から出ていました。
だからこう、それについての話題が尽きなかったでしょう」
「ああ。帝国に縁のある者の愚痴がすごかったな。
何度吹きそうになったかわからない。
それで?」
「私とスノーの好みは、完全に把握されていたようですね。
ここまで食べさせられるとは」
言われて見ればその通りだ。
だが、それの、何が問題なのだ。
「……何か狙いがあるかのような言い方だが」
「おせっかいされてるんではないですか?
苦しいから落ち着くしかないですし。
消化が終わるまでは、眠れないですし」
……姉上め。
「ああ――そういうことか。
これも用意された語らいの場、か」
「はい」
何か甘やかされっぱなしで、少々自分が情けなくなるな。
だが……そうだな。
そんな安っぽい矜持など、大切な者に比べたら、いか程のものだろうか。
「せっかくだから、用意された語らいの一環として聞くが」
「なんでしょう」
「ビオラ。姉上がいるときは、もっと砕けて話すだろう。
なぜ二人きりのときは、公に近い話し方にもどるんだ」
些細なことだが、ちょっと気になっていた。
「……スノーこそ、なぜです?」
「姉上の前で、威厳の維持など無理だ」
「今は、威厳を発揮してらっしゃるのですか?」
そういわれると……別にビオラ向けに威厳など向けている気は、ない。
「む?そういうわけではないな。
姉上の影響で、ちょっとおかしくなってる……と考えたほうがよいか?」
「私はそう思っていますよ。
ハイディの前だと、なんかもういろいろどうでもよくなりますが。
私は敬愛する方の前では、淑やかでいたいのです」
かわいいことを言う。
「私もだな。王として、尽くされる忠節に応えたくなる」
私といるときのビオラは、とてもこう、丁寧だ。
所作、言葉、その視線に至るまで。
淑女とはまさに、この女を示すための言葉だと……私はそう思う。
私は、王という地位に固執するわけではないが。
ビオラが妃であることは、疑っていない。
その伴侶たるならば、私は王でなければならない。
「ふふ。妹らしいスノーも良いですが……やはりあなたはこうでなくては。我が君」
珍しくからかわれているような気がするが……悪い気分では、ないな。
ふと思い立って、ビオラの方に手を伸ばす。
手を……とってくれた。
驚いて、自分で伸ばしておきながら、つい固まる。
赤くなって、なされるがままだったのに。
触れさせてはくれても、握ってくれることすらなかったのに。
今は緊張もなく――ビオラから、指を絡めてくれる。
今少し、互いの間には距離があるけれども。
やっと。
やっと、つかまえた。
辿り、着いた。
我が妃。愛しい人。
「あ、ちょ!スノー!?」
「すん。すまない。
……もう、大丈夫だ」
瞳から流れたものを、拭う。
ビオラが私の手をいじりながら、かなり狼狽えている。
「その……ごめんなさい。
こんな年増、なのに、その。
歩み寄りが、遅いというか。
なんといいますか」
「構うものかよ。私のかわいい人。
どうせあと7年は手も出せん。
その間存分に、恥じらう姿を見せておくれ」
「……スノーは、いじわるです」
おう妃。私の脳を蕩かす気か?
その赤くなった耳の温度が知りたくて。
少し、撫でる。
「ひゃ。ぁっぅぅぅぅ」
そういえば。
恥ずかしがるわりに、逃げたり避けたりはしないのよな。
……………………。
「ビオラ」
「はぃぃ」
「こういうのが、いいのか?」
びくっと体が、震える。
そして逃げずに……潤んだ目で、私を見る。
恥じらう姿ではある。
だが本人は恥ずかしがってるのではなく。
悦び悶えているのか。これは。
羞恥が良いとか、そういう高度なクチか?これは。
なんという……。
「そうだったか。すまなかったな、我が妃」
身を寄せ、撫でていたその赤い耳に、唇を寄せる。
「あ、耳がいいとかそういうのではなくて!」
――――知っているとも。
「~~~~!!」
そっと囁くと、すごい勢いで悶えだした。
だが――逃げないのだな。
ふふ。
「七年、ゆっくりと楽しめそうだな」
腕の中で震える頭を、優しく撫でる。
良い反応をする。とても楽しい。
愛でられて嫌なのではなく。
愛でられて固まっていただけなら。
お前の悦ぶところを探し、見つけ続けてやろう。
ああ……失われた時間が、幸福で埋まっていく。
かつて以前の時間で、浚われた私を救い、朗らかに笑った君よ。
その美しかった笑顔を、情けなくも私はもう、思い出せないが。
この蕩けた顔をたくさん見て、代わりに記憶に刻み込もう。
ビオラ。
もう、忘れない。
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これにて、第二章は完結です。
第三章に続きます。




