X-4.同。~旅を終えて、祝われる~【スノー視点】
~~~~東宮の暗躍継続は気になるが、そんなことよりビオラがかわいい。
…………。
ちょっと落ち着こう。運転に支障を来す。
この夏の旅路を振り返る。
あのとんでもない姉と同じことは、私にはできない。
今回の旅で、それがよーくわかった。
再戦した上での感想だが、ギンナにはとても敵わない。
互いに力を制限すると、それが本当に痛感できた。
そいつの全力を鮮やかに制するとか。あの姉、意味がわからない。
あの技は後で聞いたが、理屈がさっぱりわからなかった。
魔素を体の外に全部出す???
それは死ぬのでは????
そうでなくても動けるわけなかろう?????
おまけに元からああだと思っていたら、この旅で強くなっているそうだな?
素直に引く。ドン引きだ。
あんなとんでも発明など、もちろんできようもない。
しかも、どれだけ切り札を仕込んでいたのだか、わかったものではない。
エルピスやパンドラ、ビリオンには、聞いてなかった機能がたくさんある。
まさか、旅の途中で追加された……?
あり得る。恐ろしい。
さらに、次の発明まで生まれようとしていて、同類が集まっている。
こわい。あれらがいる時代に、王になどなりとうなかった。
王国に集まらないでほしい。いや、他の国にも行かないでほしい。
…………正直、だいぶ腰が引けているが。
大事なものがすぐ隣にあるのに、私のすべてがここにあるのに。
臆してばかりもいられない。
だから私は、敢えてできる範囲で、彼女の真似をしようと思う。
やって得るものがとても多い。
ビオラとの二人旅は、きっと得難いものになる。そう、予感するのだ。
あるいは我が太陽と月の精霊が、そう囁いているのかも、しれないな。
パンドラまで戻った私が、二人の姪に度肝を抜かれるのは、数時間後のことである。
真似、無理ぜったい。
◇ ◇ ◇
謁見では思わず悲鳴を上げてしまって、恥ずかしい限りだ。
……いや、あれはあげるだろう。私、悪くない。
都市全域の通信網だと?それはこの世界の話か?地球のことじゃないのか??
姉を見ていると思うが、この世界はやりすぎた。
どれほどの時を重ねたのかはわからないが、煮詰めすぎてとんでもない存在を煮出してしまった。
無理やり止められていた時代の針は、一気に進み、しかも速やかに浸透するだろうな……。
その時代を、私は王として進むことになるのか。
胃が痛い。いや、重い。
「……まだ、おなか重いですか?」
仰向けでベッドに横になる私の隣に、少し薄着のビオラが寝ている。
私と同じく、仰向けだ。
……正直、まだちょっと消化しきれない。
「食べ過ぎたな」
「食べ過ぎましたね」
謁見の後、会食が二回あった。
今はそれも済み、皆と別れ、ビオラと二人。
用意された寝室で、休んでいる。
会食一回目は、普通の……普通の?王侯貴族としての、会食だ。
母「が」姉に甲斐甲斐しく世話されていて、脳がおかしくなりそうな光景だった。
作法で劣るのは百歩……一万歩譲ってまぁよし。よし?として。
主催が主賓に世話されてどうする、母よ。あと父も。
とてもいい光景なんだが、ダメだろ。
二回目はその後、「楽な恰好をしてくるように」というお達しの元、着替えて別室に移動し。
行ってみれば、「では王国民として、皆さまの埋まっていない腹を埋めさせていただく」とか姉が言い出して。
サルベーションコールで新しい神器車を出し。それがなぜかキッチンになって。
恐ろしい勢いで料理が量産され、始まった。意味がさっぱりわからなかった。
姉よ。
なんだそのキッチンカーは。いつの間に作った。
「こんなこともあろうかと!」で済む範囲を越えている。
もう突っ込む気力もなかったので、自棄になってひたすら食った。
何か見覚えのある欠食令嬢……エイミーとかが増えていて。
さながら、作り手と食べ手の戦場のような有様だったが。
不思議と、腹がはち切れんばかりになるまで、手が止まらなくて。
話と……笑いも止まらなくて。
だが無作法でいいかというと、むしろそうではなく。
どちらかというと、姉が母に礼法の指導をする場になっていた。
ついでに弟たちも叱られていた。
私はセーフだった。何度もヒヤッとしたが。
「不思議な会食だったな。
ああなったらふつう、無礼講とかではないのか?」
「ハイディには私が礼法を教えました。
礼は場にふさわしいものをとればいいだけ。
格式を重視すればいいというものでは、ありません。
ですが一方で、無くなることもありません」
「王侯貴族にたらふく飯を食わせる場、という感じか」
「はい。上流階級には、相応の生活、文化があります。
彼らが不快を感じることがないようにするのが、貴族の礼というものです。
そしてあそこは家族の再会の場。伴侶の紹介の場」
「そのための演出と、快く過ごせるようにする作法。
両方必要で、両方やったということか」
「そういうことです。
しかし……弟子にしてやられました」
「?何をだ」
してやられたとは、穏やかではないが。
何かあっただろうか。
次投稿をもって、本話は完了です。




