X-2.同。~二つ目の使命、果たされる~【スノー視点】
~~~~魔法がなかろうとも、我が妃が次代の頂点であることは、疑いようもない。
「は?」
神主が、砂地に倒れ伏す。
「ぎゃああああああああああああああああ!!
なんでなんでなんで」
「誰か、静かにさせておいてくれ。うるさくて敵わん」
「へいへい。クラソーは荒っぽくていけない」
細身の男が、長針のようなものを、西宮の背に差し込む。
体が跳ね、声が止まった。
「死なれると困るのだが?」
「あと二時間は持ちます。それだけあれば、大丈夫でしょ」
荒っぽいのは一緒じゃないか。
「クラソーと、ラリーアラウンドの諸君。御苦労だった。
敵船への潜入、工作、作戦の補助。満足いく仕事だ」
「俺は大したことはしていない。皆の手柄だ」
「そういうわけにもいくまい」
「いや姫さん。こいつのは謙遜じゃなくて事実なんで」
「戦力にしかなんねぇ。あとは偉い人向けの案山子だ」
「やっぱストックじゃねぇと、仕事になんねぇって」
「「「「「それは言うな」」」」」
「えぇ~……でもよぅ」
「姐さんはめっちゃ幸せそうなんだから、そのままにしとけ」
「お前、下手するとハイディが出てくるんだぞ?
……それでもいいのか?」
「…………俺が悪かった」
姉上の名が出た瞬間、皆顔を青くし、微かに身震いしていた。
……ちょっと恐れられ過ぎでは?
しかし、仲の良いやつらだ。
前の記憶もあるらしいが、敬愛するボスのために、無関係を装ってるらしい。
そしてクラソーを拾って、連れ回している、と。
クラソーが長ではなく、彼は見習いのようなものらしい。
三年ほど前、クラソーを連れてこいつらが売り込みに来た時は、大層驚いたが。
良い買い物だった。
「それはそれとして、褒美は全員に出す。
言い値でも構わんぞ?王国が責任を持って払いきる」
「さすがハイディの妹、怖ぇこと言う……」
「けど、俺らには特にねぇ。しいて言うなら、次の仕事をくれ」
姉上の周りにいたわけでもないのに、こいつらも仕事中毒か?
では、こやつらには後に次の仕事を振ろうか。
で……あと一人。かつての、私の相棒だが。
「クラソー。お前はどうする」
「……ほしいものは、自分で手に入れる」
じっとエリアルを見ている。
エリアルも、その視線に真っ向から向き合っている。
「待っていますよ、クラソー。
あなたが約束を果たしたと、そう納得する日まで」
「あまり待たせはしない。すぐに済ませる。ルーン」
前の時間、二人は偶然出会ったそうな。
クラソーはエリアルが動けない間、ハイディのことを頼まれていたらしい。
そして未熟から、それを果たし損ね、石になった。
私と出会い、動けるようになった頃には、エリアルが亡くなっていた。
今生で機会があって王城で二人が顔を合わせたとき、クラソーはいきなりそのことを謝った。
エリアルは前の時間のことを覚えていないが――それが真実だと理解したそうな。
そうしてまぁ、清いお付き合い未満のよくわからない何かを、二人でしている。
めんどくせぇ。
エリアルはよく知らない男に学園で求婚され即OK、嫁入り。
しかも娘を宿して即離縁され、その相手は後に亡くなったという、情緒がおかしくなりそうな経緯の持ち主だ。
もちろん……それは「役」としての彼女の行いではあるが。
今、真実の名を持つ彼女のふるまいも、私からは斜め上過ぎてそう大差ないように見える。
クラソーもたいがいだし、こいつらお互いどこがいいんだ。さっぱりわからん。
まぁお互いにいいと言ってるのだから、構いはしないが。
こう、この最後の邂逅のためだけに、この旅の同行を申し出るのはどうかと思う。エリアル。
私が呼びつければ普通にクラソーとも連絡はつくのだが、それはダメなんだそうだ。
乙女脳は本気でわからん。
「お前たちもこう……何か付き合わせてすまんな。
次は追って知らせる。東宮の所在は、まだわからんのだろう?」
「へい。お達しの通り、慎重にやってまさぁ」
「それでよい。気取られるな。身の安全が第一だ。
お前たちの代わりは、いない」
六人、姿勢を正した。
クラソーとエリアルは……もうほっとこう。
ふわり、と私の隣に、花が降り立った。
美しい。着地と同時にとられた礼は、まさに花の開くよう。
我が妃。離れたのは僅かな時間だが……会いたかった。
見れば、神器船エルピスは舟に形を戻している。
確かに、敵の気配もないしな。
しんしんと、祝福が降り始める。
金と銀の小さな光たち。
さて。この旅の仕上げをしよう。
私が手を西宮に向けると、その先で。
彼らが、地に伏せた奴を見た。
条件はそろっているものの、契約はまだ成っていない。
だからこれは、単純に彼らの善意というやつで。
利害の一致というものだ。
ビオラが姿勢を直し、私の隣に立つ。
手をそっと、添えてくる。
「地球より『揺り籠から墓場まで』を通じ、この世界を観測する神。
そのうち、干渉に踏み切った邪神の一柱、神主・西宮を。
滅せよ」
「――――ッ!?」
声もなく、その姿が掻き消えた。
――――あと一人。
次の投稿に続きます。




