29-2.同。~時を越えての再会~
~~~~最近とんと聞かない男女間……他所より問題しか感じない。なぜだ。
「じゃあボクが言っておきますので。
大丈夫ですよ。ベルねぇも、母親の恋愛どころでは、ないでしょうから」
「ああ……いやまってやっぱりちょっと怖いわ」
「怖気づくなし。大公家辞めてまで突っ走るんだから、覚悟決めてください」
「くぅぅぅぅぅ」
おっといかん。話している間に、予定のとこまでほど近い。
目の前に迫ってきた船の魔力流に……そのままゆっくりとパンドラを合わせていく。
このスピリッティアという新型聖域は、多数の中型神器船で構成されている。
その一つ一つの型が、基本的にパンドラと同じ。なので、簡単に接舷した上で、内部から行き来できる。
一度魔力流が接触し、船体が停止。
そこからゆっくりと近づき、魔力流自体が聖域に組み込まれていく。
ぴたりと合わせて、端末から接合の魔導を起動。
これで、パンドラ下部のドックとつながったはずだ。
『パンドラ、聖域スピリッティアに接合。
本艦はこれより予定通り停泊いたします。
スピリッティアと行き来する場合は、5番ドックを使用してください。
停泊中、船外に出る場合は8番ドックからです』
さて。ボクもいかなくては。
「エリアル様は、ビオラ様に着くんですね?」
「ええ。私は謁見はしないけど。また後程」
「はい」
ようやく、感動のご対面ってやつですよ!
◇ ◇ ◇
ええ、感動の対面ではありました。
時間をかけて整えられたドレスは、今ぎゅっとされてくしゃっとなりましたが。
涙とかべったりついてそうですが。
かーちゃんよ。ノータイムでこうこられると、娘はどうしていいかわかりません。
思考が思わず、ここ数時間のことに飛んでいく。
まだ街並みもほとんどできていない、新王都を行き。
スピリッティア中央あたりに鎮座している、新王城に来た。
もちろん、船の上、甲板にあたるところは魔力流が出ちゃうので、下の構造の中にある。
元の王城ほど背が高くないが、それでもご立派な建物だった。
ボクらは正装に整えられた上で、謁見の間へ。
そこは、広くはとってあるが、兵や重鎮がずらっといるわけでもなく。
いるのは関係者だけだった。
まずロイド家。ヴァイオレット様と……宰相のキース様。
灰目、後ろに撫でつけた灰髪、伸びた背筋と堂々たる態度。あとめっちゃ美形。
お会いするのはしばらくぶりだ。聖域ユリシーズにもたびたび来ていた。
それからもう一人。ストックのお兄さま、アスロット様。
キース様に似ているが、もうちょっと背が高い。
貴族服の正装ではなく、国防の青い制服、しかも儀礼用か。
それからファイア家。
っつっても奥方のケイト様は来てないので、コーカス・ファイア大公閣下おひとり。
ダンの後見だし、この聖域建造の立役者の一人だ。そらいないとね。
で、王子三人。ダンとカーティスとバイロン。
ダン、ボクを見てめっちゃ目を丸くしとる。
まぁかーちゃんがボクにノータイムで抱き着いたら、そうなるわな。
あとはまぁ、こちら側だ。
ボクとストック。スノーとビオラ様。
メリアとミスティもいるが、これはメリアがロイドの子だから。
大公がいるので、娘のギンナもいる。ベルねぇやエリアル様は外だ。
そして後は、クエルとシフォリア。
よかったよ、君らの着飾った姿が、あっという間に崩されなくて。
でもなんか、紹介したら同じ目に遭いそうだなぁ。
この場の名目は、ボクと家族の再会だ。
それに加えて、ストック、クエル、シフォリアの紹介。
スノーからビオラ様の紹介。
紹介ぃ、したいんだけどねぇ。
これは、もうちょっと無理かなぁ。
めっちゃ泣かれてるし。思わず頭なでなでしてるよ。ボク。
その涙の止まらないかーちゃんの肩に、とーちゃんがそっと手を置く。
「アリシア。あまり娘を困らせてはいけない」
「んぐぅぅぅぅ。でぇもぉ」
顔が涙まみれた。鼻から出たモノが、やっぱりボクの服から繋がってる。
さっとハンカチを二つとりだし、一つでとりあえず互いについてるものを拭う。
もう一つをお渡しする。
いい勢いで鼻をかまれた。三枚目を出して交換し、しまう。
しまったなぁ。あと三枚しかないんだけど。大丈夫かしら。
おや、涙止まったぞ。
「……大丈夫ですか?」
「あまりに娘がおかんみ溢れるので、我に帰っちゃった。すん。
ありがとう。何て呼べばいい?」
「ハイディ、と」
ウィスタリアと名付けたのは、エリアル様だ。
王国では名づけ前に浚われているので、本当は名前がない。
そして聖国の浚われた先では、名を呼ばれてはいなかった。
ボクを連れ出すとき、その家では絶対呼ばれない名前として、エリアル様が名付けたのだ。
まぁ、あの方の力で役の名を見抜いた、という点もあるだろうけど。
連れ去られていた先は、ウィスタリア聖国の特別枢機卿、エナー・オフ・ウィスタリアの家。
家名がウィスタリアだから、その家の子がウィスタリアという名前になるわけもない。
で。その役はもう終わったので。
ボクはこれから、正真正銘の「ハイディ」だ。
「アリシア。アリシア・ロズ・エングレイブよ。ハイディ」
「オズワルド・フル・エングレイブだ。会いに来るのが遅くなって、すまない」
金髪碧眼の二人が、丁寧にボクに自己紹介してくれた。
彼らは王家精霊との契約により、生まれと髪や目の色が違う、らしい。
「いいえ。ただいま戻りました。お父さま、お母さま」
改めて……柔らかく、二人に抱きしめられた。
王族って、こういうことするイメージじゃないんだけどなぁ。
……とても、暖かい。
25年以上もかかって。
やっと、帰ってこれたんだ。
次の投稿に続きます。




