28-5.同。~呪いの根だけでなく、撒かれた種子も打ち倒して~
~~~~そもそもここは、人が生きるには厳しい場所だ。なに、その規模がちょっと大きい話なだけさ。
「…………わかった。
すまんな。私は少し、腑抜けていたよ。
これで当分ゆっくりできる、とな。
むしろこれからだったか」
いやボクだってそこはそう思ったし、責めやしないよストック。
やっとゲームとやらから、解放されたんだからな?
もう二・三年は休みたかったなぁ。
この子たちの行き先の問題もあるし、何かしらはやったろうけどさ。
「いつだって、節目ってのはゴールであり、スタートだ。
気持ちは分かるが、またスタートを切って。
計画して、適度に気を休めればいいさ」
「そうしよう。
その……ハイディ」
おや。それはさっそく、お休みというか癒されたいというかそういうやつやな?
「いいよ。もう二人とも、寝てるし」
「ん」
シフォリアが寝付いたのか、手も離れたし。
クエルも膝から落ちそうなので、枕に寝かせてあげて。
ベットの淵から立ち上がって。
ストックも……立って。二人、向き合う。
きれいな人。ボクの……婚約者。
左手の親指で、指輪をそっと弄り、なんとなく隠ぺいをとく。
なぜか、彼女も同じようにしたみたいで。
金属の光沢が、月光を少し返している。
思わず、歩み寄った。
ストックとの距離を、正面から埋める。
ぴったりと全身で触れてくる彼女が、顎をボクの肩に乗せる。
その手が遠慮がちに、太ももの下あたりから、絡めるように、背中へ。
なぜ君が大好きなとこを避けていったし。
「別に嫌じゃないんだから、いいのに。
えっちって言われたの、気にしてる?」
耳元で囁いてやると、体がびくっとはねた。
「うん、ちょっと」
「ごめんね。こないだ暴露したけどさ。
ボク変態だから、やらしいのは別にいいんだからね?
気にしないよ?」
「へ……!っ。私が、気にする」
「かわいい……」
無言でストックが、ボクをかき抱く。
そこでちゃんと尻を撫でるあたり、君むっつりよな?
ええんやで~。
ストックは、たまにかわいくなる。甘える。
普段とのギャップが、正直たまらない。
女として――――女性のストックを、好きになる。
そんなことないと、思っていたのに。
他の女の人は、本当にダメなのに。
この子の何がいいのか、じゃなくて。
ストックの何もかもが、良くなっていく。
これは儀式。
ボクが君を、選択し続けるための。
成長しても、それに負けずに、思っていくための。
「ストック……」
「ハイディ……」
こちらからも、柔らかく抱きしめる。
少し身を固くしたストックの、緊張が引き波のように消えて行く。
首筋に、顔をうずめる。深く、息をする。
不思議な、感じ。
脳が、甘く、痺れて。
恋とかじゃ、なくて。
欲情でも、なくて。
もっと、得難く、悦ばしい……。
あまり経験に、ないけど。
先のない、頂きを、思わせる……。
「いっそ裸でしてあげても、いいのに」
ボクと違って、君はとても滑らかで。
心地いい。
うっすら柔らかさがあるし。
きっと、触れたら気持ちがいい。
「だっ……ダメ。ダメになるから、ダメ」
ちぇー。なかなかお許しがいただけない。
もうちょっと、素直可愛いストックに蕩かさないとダメかぁ。
「ボクはもういろいろダメにされた後です」
「え、あの子たち以外の記憶はあんまりないって」
「記憶はないけど、後ろにダメにされた結果があるじゃろう?」
「っ。や。まだ、やだ」
「んっ……」
あんまりかわいくて、思わず身が震える。
こう、お預けとのダブルパンチはちょっと効き過ぎて、脳から汁が出ます。
やばい。押し倒しそう。自重しないと処される。
「ハイディが、興奮してるのは、珍しい……」
えっと、なんでそう言いながらきつくしたの?
もっとぴったりしてくのはなんで?
こ、ちょ!腰んとこ少しめくって撫でんなし。
「んがっ」
二人してびくっとなった。
……恐る恐る振り返ったが、二人はちゃんと、寝ているようだ。
何か猛烈にいたたまれない気持ちになってきました。
「……私たちも、寝る?」
「うん。今のを見られたらアレだけど。
寝床なら――ひっついてても、問題ないじゃろ」
「…………ハイディのエッチ」
ボクそんなエロくないやろ!?なんでや!!
変態なだけじゃ!!
……いや、落ち着こう。ちょっと脳がドピンクすぎる。
「はぁ。もう」
「……すまない、興をそいでしまったか?」
「いや、一周廻って落ち着いただけ。
寝床ではもっとイチャイチャする」
「そう……何か気になることが?」
鋭いなぁ。
なんかふと、気になっただけなんだけどね?
「いやね。二人にはああいったし、クストの根も潰えた。
メインストーリーはがっつり覆したんだろうさ」
「じゃあ……ん?『メイン』ストーリー?」
そうなんだよ。
ある人物が特定の場所、時間にならないと起こらない、事件。
こう、頭をよぎるものがあってねぇ。
「うん。例のゲーム、普通のじゃないらしいんだわ。
ソーシャルゲームっていってね。
メイン以外にも、いろんな『イベント』や『サイドストーリー』が追加される」
「ああ、それはそうだろ…………まさか。やたらいろいろ事件が起こるのは」
「そういうことじゃねぇかなぁ」
おおぅ。ストックが静かに怒ってる。
「これは徹底的にやらなければ、ダメなんじゃないか?」
「ん……まぁ子どもたちのこともあるしね。いいよ?」
今までは、なんというか逃げ回るだけだった。
ゲームなんて知らね、って背を向けて。
大人たちや、責任ある子の思惑に乗ってきた。
でも今、ボクたちは大事な責任を手にした。
未来に帰りたくないという、我が愛しい娘たち。
その願いを叶えるとなったら、それこそ。
この世界に、大きく反逆せねばならないんじゃないか?
「二人は守る。ボクらの子どもも産む。
何もかも選び取って、ハッピーエンドにしたかったら。
――――やるしかなかろ?」
右手を顔の前に掲げ、彼女を向き直る。
「ああ……やってやろう」
ストックがボクの右手をとる。
固く、強く、手を握り合った。
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