28-3.同。~この半島にはまだ、破滅の未来が残ってる~
~~~~正直その……ボクの知る二人は、ここまで仲良くないです。まぁいいけどさ。
ボクの記憶には、公契約翌年の7の月3日までのことがある。
ややこしいが、二人は本来15と17の年のどこかまで過ごしていて。
精霊に記憶されている公契約の瞬間の体を起点に、この時間に戻ってきた。
ボクの方と記憶に齟齬があるのはおそらく、本当に「分岐」が始まるのが、その7の月3日だからじゃないかな?
そして二人とも……15を越えているのに、10歳の姿で戻ってきた、ということは。
二人の未来では、成人契約はできなかった――精霊からの認識は更新されなかったということだ。
王国は、なくなっているのだろう。
「なんで二人で話し合ってて全然わからなかったことが、すらすら出てくるんですかね……」
「お母さまだからよ。諦めなさいよエル」
「そっか……そうかぁ」
君ら実の母に対する認識おかしくない?
「しかし、何がきっかけでそんなに未来がわかれるんだろうな」
「逆だよストック。決まったのは、この子たちがいるという未来までなんだ。
それ以外のことは何も決まってない。
だから状況が流動的になっている」
「流動的……二人が来たから、その情報をもとに、未来を変えられるのか?」
「無理だよそんなの」
「「「は?」」」
正直、すでに変わりすぎていて、参考にもならないんじゃないかなぁ。
話は聞くけど、そこに集中して対策するんじゃなくて。
もっと広く、対応能力そのものを上げるべきだろう。
「二人が歩んだ人生は、数年程度で状況に差異が生まれている。
これを加味すると、個別の対策は無意味だ。
詳細は後で聞くが、二人では話し合ったんだろ?
どのくらい違って……そうだな。
酷なことを聞くが、自分と相手の死因をそれぞれ教えなさい」
「「っ」」
二人がそれぞれ、別々の痛ましい顔をする。
ごめんな。だが先を見るには、そこは聞かないといけないんだよ。
「おいハイディ……」
ストックがボクを嗜めるように言う。まぁ気持ちは分かる。
「このやさしい、そして理性的な子たちが口論までしたんだ。
相当なことがあると踏んだ。
何が?ってとこはあてずっぽうだが、ちょっと年に差があることに引っかかってね」
「…………僕は、餓死です。シフォリアが先、ボクがその、四年後に。
魔力が世界からなくなって、食べ物が、なくなったので」
「魔力が!?」
ストックが反応する。
…………記憶の中でつながるのは、クストの根だが。
しかし、あれが消えないとこの子たちは生まれない。別の要因がある。
「シフォリアは?」
「魔物が溢れて。クエルは13の時……その。魔物に。助けられなくて。
私は15の時に。みんないないし、もういいやって。
自殺、になるのかな?」
思わず聞こうとした様子のストックを、目で制する。
しかし……これ。
おそらく分岐点以降、ボクら二人は存在が疑わしいレベルだな。
真っ先に死んでるか殺されてるんじゃなかろうか。
「ストック。
魔力の枯渇。魔物が溢れ出る。
同じ原因の現象だと思うか?」
「いや、難しいだろう。近い話は共有してもらったが……あれではないしな」
ゲームの魔物災害、魔物が溢れる現象は、クストの根が地下に潜ったことで起きていた。
魔物を消していくこいつがダンジョンすべてを破壊すれば、魔力は消えるだろう。
だが先の通り、こいつとボクの娘たちは同時に存在しえない。
「つまり滅びは複数の理由で来る。およそ20年後あたりからまずいことになる。
ボクらが呪いの子として時間を遡った、あの頃よりしばらく後だな」
「個別の対策を考えていると、難しいことになる、と」
「もちろん二人から詳細は聞いて、やりはするけどね。それだけじゃダメだろうさ。
共通の根本原因があればそれが楽だが、それがあるとするのは楽観だろう。
どうしても対策自体が実らない場合だけ、絞り込みを行えばいいだろう」
「あるのか?対策が」
「あるよ一つは。君がやったじゃないか」
「は?」
「二人とも、亡くなるまでに半島……いや、この大陸から出たりはしたいかい?」
「えっと……東方までは行きました。外までは出てないです」
「私も」
「ああ、半島から出ればいいのか!
でも、それで収まるのか?」
「収まるよ。
クエルの方で魔力が枯渇してるのに、シフォリアの方では魔物が暴れまわってる。
このことから、共通した滅びではないと考えられる、ものの。
一つ、共通してこれを起こせそうなものが、あるな?」
「…………事件、再現。だが、クストの根は」
「そうだけど、周回が終わるまでは結構……たぶん2000年くらいはある。
その間はまだ、螺旋輪廻がなくなっても、前回までの周回を引きずるんだよ。
当然条件が整えば、過去の周回で発生した現象は、再現し得る」
例えば……ボクらが一番最初に体験しただろう、過去の事件の再現。
お忍びで王国にやってきたカレン・クレードル皇女が、魔物に襲われたというもの。
あれは時期・場所・人物等の条件が重なって起きたモノ。
『アーカイブ』という力は関係がない。
そしてこの再現現象は、魔素が過去の記憶情報を持っていることに由来して、起こるもの。
クストの根が直接引き起こしているわけでは、ないのだ。
言ってしまえば、あくまでも自然現象の一つである。
しかし自然……まぁこの世界の法則のようなもの、だろうか。
ちょっとなんか、引っかかる、ような……。
「それで、半島を逃げ出せば済むかも、と」
「まぁね。洋上で事件なんて、起きたわけないだろ?」
もちろん、過去の周回で実は2000年後は人類は洋上文明を築いていました、とかだったらアウトだが。
ただまぁ。
「あと20年はそういうことは起こらない。得難い情報で、恵まれているな」
「ん?ああ……起きるなら、二人の年が10歳以前になったかも、と?」
「そう。赤ちゃんだったかもね」
次の投稿に続きます。




