28-2.同。~異なる未来からやってきた、娘たち~
~~~~10歳までの君らなら、何でも知ってる。違う君らがそこにいれば、そりゃすぐわかるよ。
「ボクの君たちに関する最後の記憶によれば、服は普通に寝巻のはずだぞ。
なんで服、しかも貴族用の平服着てたんだよ。
うちで過ごすなら平民服だろ。二人とも動きやすいって、そっち着てたんだから」
「「あぁ~……」」
「だからなんか粉焼きでもいいかと思ったけど、うどんにしたんだよ。
思ったより普通にぽろっと言ってくれて、助かった。
ああ、別になんか疑ってるわけじゃないからね?
どうせトラブルなんだろうから、素直に白状しなさい」
「「はぁい」」
「結構」
……なんでそんなに楽しそうなのだね、ストック。
「母になっても、変わらずいい女だな。ハイディ」
「なったけどまだなってねぇよストック」
自分でも認識がおかしくなりそうだが。
ボクはまだ八歳だ。
四人でうどんをがっつり食べて。
今はシフォリアが後片付けをしてくれてる。
「そもそも二人とも、なんでお昼食べ損ねてたの?」
今日はメリアが作ってたはずだが。
ボクは用事があったので、控えさせてもらった。
ボクが控えるなら、まぁストックも一緒だ。
「ちょっと議論が白熱しちゃって……」
「ははは……」
二人そろってバツが悪そうにしている。
あとでメリアには一言わびをしておくかぁ。
二人を呼びに行ってくれたけど、口論中だったとかかもしれんし。
……あり得る。お気遣いの人だからな。
キッチンに僅かに見えるシフォリアが、最後に鍋を洗って、少し拭いて洗い物カゴに入れた。
手を拭いて、エプロンを外し、ボクらのテーブルにやってくる。
では、よさそうだな。
「なるほど。情報交換し、意見衝突。
口論になって収集つかなくなって。
エネルギー使いすぎてごはん食べようとなった、と。
勘だけど、君たち抱えてる事情がそれぞれ違うね?」
「う”。なんでわかるのよお母さま……」
「君はボクのうどんは飽きたっつったぞ?」
「ごめんなさいでした」
9歳のときだ。発端はストックが作ったやつを食べたことである。
ストックのはうまいに決まってるだろ。
以降、ボクのは嫌と言い、ストックに作ってもらいたがった。
そして、それが今、謝れるくらいに……この子はいろんなものを見て、成長したんだな。
「……怒らないんですか?お母さま」
んむ。ちょっとニヨニヨしすぎたか。
ボク別にそんなに怒る方では……いやむっちゃ怒ったか。
危ないこといっぱいするんだもの。かーちゃんは結構心配してたのよ?
今もだけど。
「怒るものかよ。娘の成長が見えたというのに。
いいごめんなさいだったね」
シフォリアがうるっとして……まくった袖口で目元を拭ってる。
横からそっとクエルにハンカチで拭かれてるし。
「お父さま。お母さま」
「なんだい、シフォリア」
「言って御覧」
二人見合って。頷いて。
「私たち、未来に帰りたくない」
「できればずっと……ここにいたいです」
「……それはどういう」
「内容次第だな。君らの知るものより、ひどいことになる可能性もあるんだぞ?」
「「!?」」
怪訝そうなストックを向いて、言葉を加える。
「本当にどういうふうになってるかは、神のみぞ知るってやつだがね、ストック。
この子らのいた未来と、ボクらの今いる時間。決定的な違いがあるんだよ。
なんだかわかる?」
「…………この二人が今ここにいること、自体か」
こう、時間移動での矛盾というか。
ややこしい周りのお話だ。
この子たちの知っている<ハイディ>と<ストック>は。
自分らで産む前、この八歳頃。
二人に出会っていては、おかしい。
そうでないケースも考えられるけど。
二人の反応を見るに、特に間違ってはなさそうだな。
「そうだ。二人が体験した時間の流れでは、今の時点ではボクら四人が会っていない。
どうやってかクストの根を無事倒し、ボクの可能性を取り戻し。
しかし二人を引き寄せなかった『最初の時間』。
それが存在し……二人のいたところはそこ。今からつながる先とは、少し違う」
この子たちは、クストの根との戦い自体は知っていた。
ボクは教えた覚えがある。それが記憶にあるのだろう。
自分たちがそこに引き戻されるとは普通、思わないところだが。
何か意図か……覚悟に近いものを感じる。
そう例えば、この子たち自身が、強い未練で過去に戻ろうとした、とか。
「だから、先々になればなるほど、我々の至る未来とは内容が違って然るべきなんだよ。
そして二人それぞれの間でも、差ができると考える。
その上で内容が変わらない、二人が10歳の時点。ここが起点になったと見られる。
ボクに流れ込んだ記憶、二人の記憶、この三つが一致する流れが10歳までは続くということだ。
二人ともその先、実際は何歳までの記憶がある?」
「僕は17です」
「私は15」
「しかも、10歳以降の状況が違うから、すり合わせをしたんだね?」
二人が頷く。
「二人は公契約を受けているが、その翌年にあたる一年は、学園に入ったりするわけでもない。
二人そろって平服を着て出歩く用事なんかないだろう。
とするなら、その起点は公契約の日。
魔力なしである二人が、確実に精霊から認識されていた、最後の日だな」
次の投稿に続きます。




