28.引き続き神器船パンドラ。キッチンにて。家族の語らいを。
――――親子四人での未来を、望む。
普段パンドラで使うキッチンに来たら……。
「お母さま。お父さまも」
「クエル。そこで伸びてるのはシフォリア?」
「おなかへったのー……」
食堂で伸びてりゃいいのに、キッチンで椅子出してぐったりしているシフォリア。
そしてボールに粉を入れてるクエル。
とりあえずストックが渡してきたエプロンをつけ、手を洗いに行く。
「おうどんがいいのー……」
「小麦粉なら一緒でしょ」
クエルは粉を水で溶こうとしている。
今始めたばかりなのかな?
太麺がお望みかぁ。
さっきは芋と豆にしようっつったけど。
ストックをちらっと見る。彼女が頷いた。
よし。
「エル、それ焼こうとしてる?」
「え、はい」
「うどんあるから、揚げにしてほしいけど。頼める?」
「おうどんあるのやったー!」
「あったんですか?」
ん。反応は悪くないか。ならうどんにしよう。
とりあえず鍋を取り出し、水を入れて焜炉にかける。
「こんなこともあろうかと、ね。ちょっと待ってて。
火を見て置いて」
「「はーい」」
隣の、製麺室と化しているところに、寝かせておいだうどん生地を取りに行く。
怒りのそば打ちをやったときに、さすがにちょっと反省した。
常に需要があるとは限らないが、ある程度は寝かせたものを各種作っておくべきだと。
現在は毎日ある程度作りながら、売れ行きを見つつ量を調整している。
ボクが全部やってるわけじゃないが、どのみち結構な量の飯は作らないといけないからねぇ。
備えあって憂いはないのだ。
とはいえ、この人数規模だからいらないと思ったけど。
食料自給が結構いいし、専属の料理人……雇ってもらった方がいいかなぁ?
「ストック、揚げ手伝ってあげてね。ボクはこっちやってくから。
「わかった」
「クエル、分量わかる?」
「あ、はい。覚えてます。大丈夫です」
「おうどんだぁ。お母さまのおうどん~」
別にシフォリアは食い専じゃないんだけどね??
必要な時は率先してやる子なので、手伝えとはいわない。
たぶん、頃合いになったら皿や飲み物の準備を始める。
台に打ち粉をさっとして、持ってきた生地を置く。
取り出しましたるは麺棒。さささっと伸ばしまして。
さくさく切る。
ある程度の量をこさえたら、湯が沸くまでストックの手伝い。
ちょ、こいつ芋しか切ってねぇ。そんなに芋食いたかったのかよ。
でもお子さんいるんだから、葱系とか他の根菜も切れや。
しょうがねぇから、赤・白・焦の根菜やらから切っていく。
玉ねぎも取り出してっと。これ、他所の国では白葱って呼ばれるんだよな。ややこしい。
鼻から飛沫が入らないように気を付けて、がががっとざっくり薄切りにする。
あっという間に、ボールに野菜の山が。
鳥が育てられるようになったら、もうちょっといろいろ増やせるんだけどなぁ。
うし。
「クエル、麺茹でお願いできる?
だいたいシフォリア好みのやつだから……時間はわかる?」
「はい。ばっちりです」
「よしよし。じゃあかき揚げたっぷりやってくね」
別の焜炉に油壷を用意。
野菜を溶いたお粉の中に投入。
おたまを準備し、揚げの開始だ。
クエルは追加の鍋を出して、つゆの準備まで始めた。
シフォリアも案の定、器を棚に取りに行った。
飲み物もちゃんと用意するつもりみたいだ。
二人とも、えらい子。
「…………皆、連携がとれているな」
「んー?ああ、うん。そうねぇ。
言ったように、ボクにはこの子たちの記憶が入ってきたし。そのせいかな。
ストックも特に問題ないと思うけど?」
「お父さまはいつもと変わらないですよー?」
「はい。いつも通り黄土根から切ってますね」
ふーん……。
「ストックは芋好きだからな」
「私は10年変わらないのか……」
「20年だろ。ボクらは8歳で、この子らは10歳だ」
何かストックが愕然としている。
アラなんとかって呟いているから、あれか?
この子らの知ってる自分は、実年齢50くらいってのが頭をよぎったのか。
若々しくていいというか、良い年の取り方してると思うけどね?君は。
「おおおお。いい感じ。その照りだよ照り」
うどん好きのシフォリアが歓喜の声を上げた。
クエルがうどんをざるに上げて、流水で締めている。
そして冷ます間に、出し汁の仕上げに入った。
その時なぜかほんの一瞬。
クエルがストックの方を見て。
それからシフォリアの方を見て。
二人が目配せして。
頷いた。
「二人とも」
「「ひゃい!?」」
「おうどん、食べてからにしようか」
しようのない子たちめ。
「……ハイディ?」
怪訝なお顔のストックを見て、答える。
「二つある。
まず、ボクはまだうどんの湯で方は教えてない。
教えたのは、そばとラーメンかな?
クエルはシフォリア好みの時間は知ってるはずだが、そも生地で当然違う。
ボクが専用には調整してない生地で、ベストの時間を茹でた。
教えてないことを知っている」
「「……」」
「二つ。クエルが『黄土根』と言った。
生まれたときから王国民なら、『芋』だ。
外国に長くいたボクは混ざるから、その兆候と同じとみる。
だが二人を国外に出した覚えはない。
ストックはこっちで会った時、すでにその癖がなくなっていた。
そこから考えて少なくともクエルは、最近まで外国で生活していたと見える。
というわけで」
前のかき揚げをバットにとって、次を揚げにかかる。
「ごはん食べたら、お話ね?二人とも」
「油断した……」
「こんなので気づかれるなんて……」
「何言ってるんだ二人とも。気づいたのは最初からだ」
「「は??」」
そんなにびっくりするようなことか??
次の投稿に続きます。
#本話は計5回(約10000字)の投稿です。




