27-7.同。~友が高く、立てるように~
~~~~友達が悉く重い。いや戻ってやり直すくらいだから、そらそうなんだろうけどね??
「そうか。じゃあ細々と、できることは手伝って。
あるいは、彼女の癒しのために世話をお願いして。
そうしてベルねぇを、王にしてしまえ」
「……あなた、ずいぶん物騒なこと言ってない?
私が言うことじゃないけど」
「誰が王国の王にしろと言った。
ベルねぇ向きのところがあるだろ?
そこを乗っ取って、彼女の国にしてしまえよ」
「ベル向き……………………ロード共和国?」
「当たり」
あそこは評議員による投票議決ですべてが決まる、議会制の国。
王と言えるものは実はいないのだが、特別な身分が少しだけある。
例えば議長。これは持ち回りで、評議員でない人がやる。
そして評議員そのものは一部公選挙で選ばれ、一部持ち回りで共和国民が務める。
この評議員職に例外がある。
まず三人だけの、常任議員。
常任議員は改選がない。様々な条件をクリアした者がなる。
ただ辞職は可能で、たいがいは何らかの目的があってなって、終わると辞める。
ただその中でもさらに特別な、永年議員は別だ。辞職禁止である。
しかも、議決権も与えられる。生前に議決基準を特定の手段で残し、以降死んでも票がカウントされる仕組みだ。
現在の永年議員票は2票。しかも、議決基準判断が拮抗した2票で、いつも完全に割れる。
3票目が誕生した場合、共和国の政治は一変するとすら言われている。
王と呼んで……然るべき地位と名誉だろう。
「何が正しいかを判断できる、彼女にとって最高の環境だろう。
政治とは正しいか正しくないかでは収まらないが、正しさがあればそれもまた良い影響を与える。
もし彼女の能力を、自身で研究して解明できれば。
永年議員の史上3票目……それはベルねぇの手のモノとなるよ」
ギンナは……音もなく静かに立ったのに。
ベルねぇよりもずっと、ずっと存在感があった。
暦よりも長く生きる、巨木のようだ。
この子の印象が山だったのは……山というより、ただの大きな種子だったんだな。
それが根を下ろす場所を見出して。
芽吹き。
一気に。天を衝いたのだ。
「黄金果とお茶、御馳走様。いくわね」
「ん」
「ハイディ」
「ん?」
令嬢が静かに礼をとって、直ってから。
「やっぱりあなたには、ドキドキさせられるわね?」
「ベルねぇには内緒にしといてやるよ」
「ふふ。ありがとう」
普段あまり笑わない彼女の微笑みは。
はっとするほど、やわらかで、華やいでいた。
おっとそうだ。
ちょっとこの流れで聞くものでもないが。
内緒と言えば。
「ストックに内緒で、一つ聞きたいことがあるんだけど」
扉へ向かおうとしていたギンナが振り返り、ボクを珍しそうに見る。
「どういう風の吹き回し?まぁいいけど。何?」
ちらりと、顕微鏡を見る。
ボクが三年前、引っかかったアレについて……聞いておこう。
「君、ゲームのことって知ってるだろ?」
「一応。興味ないけど」
色付きの結晶を得た者は、ゲーム『揺り籠から墓場まで』の知識を得る。
ボクとストック、ギンナとメリア、エイミーとスノーやビオラ様。
あとはマドカとアリサかな?娘たちは違う。ただゲームのことはある程度教えてある。
ボクが聞きたかったのは、あるものへの認識。
興味がないというならなおさら、それがすぐ出てくるかどうか、だが。
「お誂え向きだ。神器ってゲームにあったか?」
「?あるじゃないの。役立たず扱いだけど」
…………やはり。ギンナはボクと同じ。
「お金がいるから、ってのもあるよな?」
「みたいね。こっちじゃそう高価ってほどでもないのに。
変なこと聞くわね?」
「ごめんね。で」
「内緒、と。わかったわ。
それじゃ、私は行くわね」
そしてギンナは音もなく、しかしあっという間に研究室を後にした。
来るときも去る時も静かだなぁ、あの達人は。
メリアも気配なく現れることがあるし、精霊魔法使いはこういうもんか?
「ハイディ?」
おっと。ベルねぇが出てったほうの扉から、ストックが入ってきた。
もう帰ってきたのか。
「おおっ、ストック。なんだどうした。新王都行ったんじゃないのか?」
「行って帰って来たよって……叔母上あたりに聞いたか?」
「うん。あれか、日帰りだったからってのもあって、黙ってたのか?」
「まぁな。私は今日は受け渡しの立ち合いだけだから。スノーはしばらく向こうだがね」
「ああ……引き渡す相手が、スノーなのか。然るべき人たちが来たら、スノーから渡すと」
スノーも王族だし、王都引っ越しを推進する中心人物の一人なのだろう。
あとは彼女から、本来の責任者である王と王妃に渡されるのだろうな。
ま、納品が無事に済んだようで何よりだ。相棒。
「そういうことだ……どうした?」
「いや、何でも。ほれ、これ要求の品だ」
なんかいろいろあって当てられたからじっと見てたら、気取られるところだった。
顕微鏡作業の合間に作ってたやつを、ストックに渡す。
「イスターンで預かった時に、データは入れてある。
今後は、腕輪自体はいつも通り渡して、中身はそいつに複写してあげるから。
だから普段つけてるのはそっちでいい」
少しだけごつめの、青い腕輪。植物の蔓のような装飾を施してある。
こういう彫金くらいは、ボクだってできるのだ。ちょっと鍛冶場借りてやった。
「使える機構としては、再生だけだな。録音はないから。
ここ、玉のようなのがついてるだろ?これをだな」
邪魔になりにくいところに、玉のような装飾がいくつかつけてある。
これが縦にカチカチっと回せて、まぁご要望の機能を実現してくれるわけだ。
「繰り返し再生のON/OFFや、再生するメッセージの頭出し。
あと、ランダム再生のON/OFFだな。
とりあえず思いつくところで、このくらいつけておいた。
まだ増やせるから、使ってなんかあったら言ってね」
言って、自分も同じ……赤い腕輪をつける。
「おお。便利だな」
ストックも右腕にはめた。
そして早速聞いてるし。
ふふ。よく似合う。
次投稿をもって、本話は完了です。




