27-6.同。~ならばせめて、そっと背中を押そう~
~~~~この主従はこう……動と静って感じだな。いろいろと対照的だ。
「…………特に聞かないし言わないのね」
「もう言わなきゃならないこともないし、事情もあれで全部でしょ?」
「そうね。ありがとう……私では、少しも聞き出せないから」
「そりゃ君は雇い主だからな。君が聞くと、かえってこじれる。
ボクのとこに来てくれてよかったよ。
ああでも、一つだけ聞きたいんだが」
「なんでも聞いて」
「……いつからこだわって、じゃないな。
ギンナ。何のために戻ってきた?」
「それは、何のために赤子からやり直しているのか?
という意味ね?ハイディ」
「そうだよギンナ」
ボクはストックを救いたくて。
ストックはボクを救いたくて。
メリアはおそらく、ミスティに会いたくて。
ダリアは連邦……いや、マリーのために。
スノーはもちろん、ビオラ様だ。
それぞれが、呪いの子として時間を遡るにあたって、抱えた未練がある。
では戻ってこなかった側はどうだったのか。
ミスティは、そばにいた『カレン』が求めていたメリアだと、確信が持てていなかった。
もう何度もやり直してメリアを探していた彼女は、戻ってやり直す強い未練には恵まれなかったのだろう。
マリーは今でこそダリアに強く執着しているが、前はそもそもそこまでではない。
彼女には元から、戻ってでもやり直す強い動機がない。
ベルねぇもたぶん、同じだったと思う。
そしてそれは……ギンナも。
王国が滅んだあとのギンナは、気丈には振舞っていたが、疲れが見えていた。
王国を再建するとか、そういう強い情熱は残っていないようで。
ただただ、魔物を狩り、人を助け。でも空っぽの人形のようでもあった。
さすがに心配で、ボクが自分の出自を知る前の頃、一度話に行った。
そしたら、その時はもう、不思議と元気そうだった。
その後彼女は長めの任務に出てしまって……再会したのは、あの山の上だったが。
だからあの時、何かを見つけたと思うのだ。
この子がやり直してでも、掴みたいものを。
長めの沈黙から、深く息を、吐いて。
「国を作ろう、って言われたの」
「え。まさかベルねぇに?」
「そう。王国が滅んで、毎日ぼんやりしてた私にね。
魔物を倒しても、人を助けても、何の感慨も湧かなくて。
ふらふらしてたら……あの子に船の廊下でぶつかって。
倒れても無気力な私を見て、ベルが確かにそう言ったのよ」
「意味が……でも、あの子の力、なら」
「それが正しいということ。私の力になるということ。
確かに不思議と、国があって、それを守るなら。
そう思ったら、私は気力が湧いたわ」
あ、そうか。
この子は魔力や魔素経由で感情が認識できるから、結構人間に関心が薄いんだ。
むしろ街とか国とか、見えるけど想像が難しいものの方が、気持ちが向きやすい。
「それでも、その時の私は……恥ずかしながら、ちょっと捻くれていてね。
『私にそんなことはできない』って拗ねたのよ。
そしたら『私があなたのための国を作るから、そこを守ってください』だって」
ベルねぇほんとに何があったの!?
いやいや、前と今のベルねぇは別。
え。なのに前のときも、そんなにギンナに関心が向いてたの?なんで??
ギンナは……胸に手を置き、目を瞑り。
静かにその時の光景を、思い返しているようだ。
「私の君主。小さな王。でも、それが成る前に、私たちは死を迎えた。
ああ、あなたに恨みはないわよ?
自身が不甲斐ないとは思うし、そもあなたと戦いに行った自分が許せなかったけど」
「そりゃどーもというか、まぁ君ならそうだろうねぇ」
「ん。倒されて……正直、嬉しかったわ。
ドキドキっていうの?あれはあのとき初めて感じたわね。
でも、薄れゆく意識の中で、湧き上がったものは……別のこと」
カップを静かに置いたギンナの目が、遠く果てを見る。
「あの子の小さな国が見たかった。
そこを守ると約束したのに。
果たせないなんて……ごめんでは済まないわ。
このままでは死ねない、って思っていたら。
小さくなって、お母さまに抱えられていたのよね」
「なるほどねぇ……。
それで君あれか、スノーとは微妙にそりが合わんのか」
「こっちの勝手な理由で申し訳ないのだけれどもね。
国王陛下だから、という理由だけで、私を傅かせることには納得しない。
せめて私を破ったハイディくらいでは、あってほしい。
できないというのなら」
息をし、小さく、しかし決然と呟く。
「私はベルに跪く。彼女が私の王よ」
何でボクの友達はどいつもこいつも、こんなにロックなんだよ。
最高か。
「今の時間でも、それは変わらなかったのか?
君の知ってるベルねぇとは、別だが」
「驚くほど、変わりないわ。
三年ずっと、そばにおいて様子を見て来たもの。
でもダメね……もう限界。あの手に、触れてしまって。
その手を取って、頭を垂れたい。あの子にすべてを捧げたい。
そういう気持ちが、抑えられないわ」
おっも。
まぁでも……生粋の王国貴族令嬢のギンナが、こうなっちゃうのはわからんでもない。
ボクの持論だがこの国の王は、自身は武力に恵まれずとも、強き王妃を愛し抜ける者がなる。
ベルねぇは、戦い以外は超ハイスペックだ。
そしてギンナに「あなたのための国を作るから、そこを守って」とまで言い放った。
ボクから見ても、王の資質十分と感じるよ、それは。
王族にさえ生まれていたら、実際に精霊に選ばれていたんじゃないか?
まぁそうじゃないから……これは他所をあたるしかないね。
次の投稿に続きます。




