27-5.同。~自ら立って、進むしかない~
~~~~騎士爵や勲章はかなり厳しい。王国じゃ、戦えるのは当たり前だ。
「では、内部試験申請をしときな。あそこの試験改訂は夏だから、そろそろ終わる。
次の試験を『本気』でやるんだ。
ボクの予測だと、ちゃんと勉強してれば1800くらいに届く」
「そんなに!?」
「あ、無理だと思ったな?ならあとは勉強しだいだ。
マリーにも同じ指示を出してるから、一緒に頑張って。
二人とも、1700とって講師から始めるといい」
「あ、マリーちゃんも。
そっか……って予言があるのに、全問正解しないの?」
彼女たちの能力は、万能ではない。
遠い情報を検索すると、予言は激しく消耗する。
正語りにも近い性質があり、正解が遠いとめっちゃ頭を使うらしい。
能力を磨くのもそうだが、知識そのものを多く蓄えておくことで、これらの消耗は軽減できる。
ただ、1800点から先……全体の10%の問題は、本当に最先端のとんでもないのが出てくる。
専門家じゃないとわからない、あるいは専門家間で意見が割れることを普通に聞いて来たりする。
彼女たちの感触だと、それに挑むのはちょっと大変だろうなぁ。
「しないんだよ。君の正語りもだが、何か知の限界みたいのがあるみたいでさ。
それを越えて力を使うと、分かるけど力尽きるんだ。
何十日もかければ別だろうが、あの試験は一年に一回しか受けられないし、時間制限もある」
なお、受験した人間には契約で記憶のロックがかかるので、外に漏らしたりはできない。
無理に漏洩した場合、精霊に検出され、罰を受けることになる。
「まず秋になったら試験を受けて、講師資格を取る。
助教になるために、研究および論文に着手。これはパンドラでやっていい。
助教になれたら、教壇にも立つ。
教授になるには講義実績がいるからね。
教授は遠いけど、在学中に助教まで行けば、コーカス様もお話聞いてくれると思うよ?
家の者が魔導省に近いとこの要職にいるのは、利益が大きかろう」
普通なら在学中に助教授とか無理筋だが、この子は研究所の職員。
6年もあるなら、余裕だ。
小粒で成果が出やすいやつで、いくらか挑戦してもらおう。
「助教授になれば、ギンナ様と……?」
「たぶん、教授の椅子が見えたら、だ。
新型神器船を世に送り出して発足した、パンドラの研究員。
王立魔導学園教授。
ここまで揃えば、王国大貴族だって頷く。
学園の教授には平民出の方が結構いるけど、伴侶は貴族が多いよ」
「教授に……」
「まぁそれまでに何年かかるかわからないけどね?」
「ぐ。何か、方法は……」
「あるよ?」
「あるの!?」
「とはいえ、最短で三年だ。わかるかね?」
「三年連続1950点の取得……永世教授」
彼女の黒い瞳が見開かれ。
その奥に……確かに、炎のような揺らめきが灯った。
「そ。あれなら点数だけで教授だ。実績は問われない。
とってすぐ、なれる」
「ごちそうさま!」
お茶をぐーっと飲み切って、ベルねぇが席を立った。
少し大きくたった椅子の音が。
さながら、決意を示す鐘のようでもあった。
「勉強するなら、マリーを探しな。
10年前以前の、公開されてる学園考査、持ってるから。
それができたら、1800点から先の取り方、教えてあげる」
「わかった!」
ベルねぇが、入ってきたときと同じように、駆けないけど慌てた様子で出て行った。
すぐ戻ってきた。
「どしたの?」
「いや、さすがに気になって。
なんでハイディはそんなに詳しいの?」
「前のとき、近いことをやったからだよ。
在学中に、助教まではとったよ。
その後、学園が物理的に無くなったけど」
ボク、高等部からの入学だったし。
革命が起きて、卒業前に学園はなくなっちゃったからね。
その短期間でなんとかなったのは、それまでの間に何度も論文を寄稿してたからだ。
神器船クレッセントは、学園とよく共同研究をやってて、それにも噛んでたしね。
「ほんと、さすがねハイディ」
「ボクはできることをやってただけさ。
でも君が高みを目指すというなら」
「そうね。同じこと、して見せるから」
「期待してる」
にこやかに手を振って。
今度はベルねぇも静かに出て行った。
「で……よければ、残りの黄金果。食べてってくれない?」
ベルねぇが出てった方とは逆。ボクの背後寄りの扉が静かに開いた。
暗色の装いの大公令嬢が入ってきた。
この主従はもう。
「いただくわ……いつから気づいてたのよ」
「最初から。だからそっちの扉と、ベルねぇの間に立ったんだし。
注意を向けられてたら、ちょっと開いてるの気づかれたよ?」
「面目ない、つい……」
「ベルねぇは頑張る気みたいだから、疲れてたら触れてあげな」
「それこそ、迷惑ではないの?」
「人による。そこは自分で見極めればよか」
ベルねぇと同じところに座ったギンナに、新しくお茶を淹れたカップを出す。
「ありがとう……ハイディ、腕を上げたわね」
「そりゃどーも。メリアのをずっと観察して研究してるからね。
ちょっとはマシになってる」
「あなたでも真似できないのね?」
「真似はしてるけど、同じ味にならない。不思議で、やりがいがある」
「いいわね……とても甘いわ。いい金果ね」
「ボクもそう思うよ」
せっかくだからボクも一杯入れて、はす向かいくらいに座る。
次の投稿に続きます。




