27-4.同。~望む人の隣にいたければ~
~~~~できないとは言わないが、おててつないだまま仕事してるの、控えめに言っておかしい。
「君は半島中の貴族個人専属使用人たちに、喧嘩売ってるのかね?
伴侶が世話をすべて兼ねてるったって、そこまではせんわ」
「じゃあ私はどうすればよかったのよ……」
そこで途方に暮れるなし。
そうだなぁ……。
「そもそも、何でちょっと暇をもらって出て来ちゃったのさ。
どの点が嫌だったの?仕事ができなくなるところ?」
「それはやるわよ。じゃなくて、その……」
「なんだね」
「気持ちが、落ち着かなくて」
ざ……ああいや。ベルねぇはまだ12歳だ。
雑魚は言いすぎだ。スノーとは違うんだから。
むしろ、ちょうどいろいろ戸惑う時期じゃないか?
ボクはそういうのなかったから、よーわからんが。
「なら君が伝えるべきは、待ってとかお暇をくださいじゃなくて。
気持ちが高ぶった時は、触るのをおやめください、だ。
彼女は君の心の動きが、わかるんだから」
「ぉ。なる、ほど」
「向こうも、止め時がわからないんじゃないの?
むしろ、君がずっと喜んでるから触り続けてるんじゃ?」
「よよよよよろこんよろあばばば」
壊れた。図星が当たりすぎたか。
「落ち着け。ギンナは嫌がられてるなら、それもわかる。
それなら止めてるだろうからと、ボクは当然にそう思っただけだ」
「んぐっ」
あれ?変な止まり方したぞ。
ははーん……。
「で。どんなマイナスの感情を思い浮かべそうになったのさ。
言わないと当てちゃうけど」
「ぐ……お見通しなのね。
はぁ。ギンナ様は大公令嬢。私は平民で外国人の侍従」
やっぱり重症なのは君じゃねーか。
ベルねぇとは……そういやそういう話はしたことなかったなぁ?
いや、そういう気質なら女性の専属侍従につけるのは、普通まずい。
エリアル様が気づいて、遠ざけるか何か対策するだろう。
ということは、ストレートなのに、これ、ということ??
君、呪いの子じゃないし、普通の12歳だよね?
何があってそうなったの??
思春期が気の迷いでなる感じの反応じゃないよ???
ギンナの方は……感性が独特だからなぁ。ちょっとわからんでもない。
ベルねぇも近いものはあるけど、はて。
何がよかったし。
まぁそれは、必要があれば掘り下げて聞くとして。
「ああ。帰化はまだなんだっけ?」
「それは成人の時に。だけど……」
「そうだねぇ。平民がなんとか貴族にってったら、この国じゃ騎士爵くらいしかない。
しかも時期によっては、やっと取れた頃にはギンナの方に婚約者がもういるだろう」
騎士爵ってのは、王国では一代限りの爵位のこと。精霊とは契約しない。
武勲に対して与えられるもので、領地もなし。
勲章のようなものだ。ただ勲章と違って爵位なので、ちゃんと貴族とみなされる。
騎士爵をとって、勲二等の勲章どれかを賜れば、大公令嬢もあるいは?というところだが。
騎士爵は爵位なので、この国では成人になってからもらえるもの。
ベルねぇの場合、最低でも二年先。ギンナはそのとき10歳になろうかというところ。
社交界にお披露目されるので……婚約者選びが始まる。
「はぁ~~~~。そうだよねぇ。やっぱりそうだよねぇ」
「だから教授になっちゃえ」
「は?」
ん?そんな意外な話ではないと思うんだが。
「学園、様子聞いてなかったけどどうなの?勉強ついてけてる?」
「それは、うん。ハイディがくれた冊子のおかげで、問題ないよ」
2年くらい前かな?
ベルねぇが、お仕えするのに勉強したいから、学園入りたいって言い出して。
その時、勉強用に参考書兼問題集を作って上げたんだよね。
なお、学園に通うお金は、今のところエリアル様が出している。
ただパンドラ所属になると給金が増えるから、これからは自分で払えるね。
「あれがちゃんとできるんだから、問題ないじゃなくって優秀なんだけど。
正語りは使ってないね?」
「使ってないよ!?カンニングになっちゃう」
「ならないよ」
「へ?」
「魔導じゃないから、引っかからない。
ある種の武の奥義と考えられるから、才能のうちと片づけられる。
これは学園に近い前例があるから、フル活用しても問題にならない」
カンニング自体の定義は、学園がきちんと定めてる。
魔導はダメ。あれは人が、精霊など他のものに力を借りる代物だから。
武術に類するものはOK。これは自身の力と判断される。
「え。じゃあ試験の点数、もっと上げられたんじゃ……」
学園考査のことだ。入学、卒業の指標になる。
彼女が入った経営戦略科――いわゆる普通科初等部は500点で入れる。
他の魔法科、魔術科、魔道具科、法術科は200点くらい。別途実技加点も考慮されるはず。
満点は2000点だ。
「合格はしたって聞いたけど、点数聞かなかったね。いくつ?」
「1240点」
もう卒業できるやんけ。
1000点とれると、卒業資格が発行される。
もちろん、20歳まではそのままいていい。
普通は、優秀な貴族の子弟が初等部が終わる15歳頃で1000点前後に到達する。
優秀じゃなくても、高等部まで通えば1000点はだいたいとれる。
もちろん、たまに20歳ぎりぎりまで居座って、なんとか卒業する人もいる。
初等部入学早々に卒業資格を持っている者も、少なからずいる。
次の投稿に続きます。




