27-2.同。~きっとこの二人も、手を取り合っている~
~~~~嫁が黙ってお出かけでござった。何かこう、今すぐ酒を飲みたい。
「…………ボクが何も聞かされてないのは、なんでだね」
「『これは研究所パンドラの話ではないから』ね」
「ごもっとも。そりゃ言いもせんか。
所長も、知ってるだけで関わってはいないと」
「そりゃあね。姉さんは関わってるけど」
「なるほど」
新王都、か。
王都の。王国の、あの話を改めてしておくか。
「ビオラ様。王国が飢饉になるのって覚えてます?」
「ええ。あれ何でなるのかしら?」
「ボクもこの時間に来たときは、方法と犯人しかわからなかったんですけどね」
東のウィスタリア聖国が、法術で水脈の変更を行っている。
これはなぜか?というと、自国を守るためという理由が一つ。
もう一つが、他国に被害を与えるため、だった。
ただ、それでどうやってあの飢饉につながるのか?がボクにはわからなかった。
理由は……エリアル様に聞くまで、「人が呪いを使う」という考えが、なかったからだ。
「え、それがわかるだけでもアレだけど。
原因やメカニズムもわかるっていうこと?」
その観点から、改めて調べた。
ダンジョンの扉に貼ってある、あのお札も。
三年もあったから、十分な情報を得て、論を組み立てるに至った。
「はい。あれは土地を呪って腐らせるんです。
呪いにかかった土地は魔素が魔力にならなくなり、精霊の加護が受けられない。
で、犯人は聖国です」
「…………」
ビオラ様が、ボクに視線を向けてくる。
「今、あなたに初めて言いました。
他の人には喋っていません」
「物語によっては口封じされそうね、そのセリフ」
「しますか?」
「むしろハイディが喋ってくれないと、困っちゃうわ」
上司殿が嬉しそうだ。
「前も話題に出たけど。
聖国が呪いを使う、というのは……知ってる人は知ってる話よ。
ただ、それで具体的に何をしているか、は分からなかった」
「あれは初めてボクが、キース様にお会いした時ですね。
諜報員の送り込みと、信者からの情報収集が話題に出ました。
あとこの、水脈を介した大規模な呪いでの他国への攻撃ですね。
他はいまのところ、確認できていません」
「結局、全部呪いの産物で間違いないの?」
「はい。名前とかはわかりませんが、類似の事例を見つけたんです。
やはり法術との組み合わせで、使っているものと推測しています。
どうします?」
「……ちょうどいいわね。王都でのあなたの再会のとき。
少し話させていただきましょう」
「向こうに話を預かっていただけるなら、ありがたいですね。
で……ボクが喋ればいい、と」
「任せるわね」
資料にまとめて、ってわけにもいかないからなぁ。
「ただ、聖教徒の方……具体的には、ファイア大公閣下がいた場合。
先に彼の呪いを解いてからお話しないといけません」
「解けるの!?」
「その場にキース宰相閣下が同席していれば、確実に。
もちろん、3人ほどうちの魔導使いがいれば、門で飛ばせますけど」
「両方の用意があったほうがいいわね。
私やあなたも含めていいのよね?」
「はい。ビオラ様、ボク、ストック、スノーあたりはいるでしょうから。
事前に話だけ、しておいたほうがいいでしょう」
おや?なんかビオラ様が……何か珍しく、悩ましげだ。
「……なんで私に先に話したの?」
「スノーに話したら、また悩んじゃうでしょ?
ストックにまだなのは、たまたまですね。
いれば今日、呼んだ上で話しましたし」
「そう、ね……。
私は頼りにならないのか、おひとりでよく悩まれるようだし」
「そういうわけじゃないでしょう」
「そうなの?」
ビオラ様とスノーって、なんだかんだでまだ付き合い浅いからな……。
互いに、わからないところが結構あるのはしょうがない。
「ダンと似てるんですよ、あの子。
なんでも自分でやろうとするの、癖なんです。
だから先回りして、そこにいてあげてください。
一緒に悩んで。場合によっては、先に引き取って奏上して。
上に立つより、ビオラ様ってそういう方が得意でしょ?」
「ん……それはそう、ね」
ボクも、一番上より、その直下くらいの方が得意だ。
そのボクに仕事を教えたこの人も、同じである。
「わかったわ。ありがとうハイディ。
ちょっと出すぎるかと思って、控えていたけど」
「あの子、クレッセントを潰した女ですよ?
控えてどうします。一緒に暴れてください」
「っ。くく……ちょ、笑わせないでよ。
でもそうだったわ。
私少し、目がくらみ過ぎていたわね」
「恋で?」
「そうよ」
こんな気持ち知らないっとか、先日言ってたと思ったんだがなぁ。
強かなお人よ。
スノーが悩みながらも進んでるとき、ビオラ様だって同じように進んでいたんだな。
それが互いに見えていなくても。
二人、手を取り合って歩むように。
「私、やることできたから。いくわね」
「酒造の件、お願いしますね」
手をひらひらさせながら、ビオラ様が部屋の外に出て行った。
たぶんだけど。
あそこはもうきっと、大丈夫じゃないかな。
あとは二人で、支え合っていけるだろう。
次の投稿に続きます。




