26-5.同。~互いに向き合って。並び立って~
~~~~ふふ。ついに言ってしまった。こんな変態に引かないとは、君も大概だね?ストック。
「ん。まぁ二人のことがあるからねぇ。
でも、開発周りはあんまりなかろ。
マリーのクルマ作ってあげるくらいで」
「そうだった。
……娘たちも欲しがりそうな気がするが」
「んむ……言われそうだ。どうしよう」
「存外、自分で開発してくるかもしれんな?」
んん。
それは……大人しい顔してるけど、クエルが危なそうなんだよなぁ。
ボク並みにやらかしそうだ。
「…………ないと言い切れないところが恐ろしい」
「年齢的に、学園には行かせるのか?」
「基本的には」
「王都は学園ごと移設になるし、安全に通えそうだな」
「うん。ああ王都と言えば、飢饉や革命の根本対策はそろそろしないと……」
「そういえばコンクパールで、解明したとか言ってたな?」
「そう。よく覚えてるね。
ちゃんと防げるから……これは実家を巻き込んでやってくか。
子どものすることじゃねーわ」
「頼れるなら、親を頼るべき、だな」
とりあえずビオラ様に話しておくかなぁ。
ぐだぐだしてるうちに、ちょっと眠くなってきたな……。
「人、来ないね」
「いたとしても、制御室に用はなかろう」
ん。出て階段上がって、すぐ部屋か。
あー……でも。寝る前に。
今がチャンスってやつだ。
「ストック」
「ん?」
ボクは少し座り直し、彼女の方を向き直った。
そうして、左手を差し出す。
さぁ。
ボクが来た時、慌ててしまったものを、お出し?
「敵わんな」
彼女が右手の中の指輪を持ち直して……左手でボクの手をとる。
「受け取って、くれるか?」
「いいけど、その前に?」
「……………………愛してる、ハイディ。
一生、私のそばにいてくれ」
「ボクも愛してるよ、ストック。
でもいいの?一生は短くないかい?」
「では永遠に」
「欲張ってきたな。大変結構」
彼女が指輪をボクの薬指に――はめようとしたところ、右手でストップをかけた。
ストックがきょとん、としてる。
そんな彼女の前に、服の内袋から二つ、小道具を出して見せた。
「これは……指輪、の魔道具か?」
「そだよ。学園は婚約指輪、御法度だって知らない?」
「あ”。そうか……少し先だからと、失念していたよ」
「あと四年くらいだぞー?婚約期間の40%は学園なんだからな?
見せびらかすわけじゃないけど、その間だってしてたいよ。
そこで備えた」
「本当に……敵わんな。貸してくれ」
「ん」
まだ外輪をつけていない方をストックがとって。
それに指輪をはめ込んだ上で。
改めて……ボクの左手薬指へ。
ふふ。まさに売約済みってやつか。
「じゃあこっちの番だけど。
ごめん、ちょっと上でやっていい?」
「ん?ああ」
二人、のそのそと操舵室から、制御室へ上がる。
落ちないように閉めておいて。
周りも……誰もいないな?よし。
本当は、まだ早い。決まったわけじゃない。
それでも誓いと覚悟と胸に。
いざ。
淑女ハイディ、一世一代の礼を見よ。
そっと袖を咥え、瞠目し、紫の魔素を解き放つ。
それを最大活性させつつ、再度体表に凝集し、この身のすべてを我が物とする。
ドレスではないので不足だが……それでも。
左足を大きく引きつつ、左手でスカートの裾をつまみ、回るように翻し。
膝を折り、深く頭を垂れつつ、手のひらを天に向けて、右手を彼女に差し出す。
「エングレイブ王国モンストン侯爵令嬢、リィンジア・ロイド様。
――――ストック」
滑らかに、謳い上げる。
少し顔を上げ、彼女から見えるようにする。
「叙爵も未だならぬ身ではございますが、このハイディ・シルバ。
王国の精霊に身を捧ぐ者の一人として。
貴女様を妻に娶りたく思います。
貴女一人に、永遠の愛を誓うことを、お許しいただきたい」
君と同じだ。
ボクだって、忘れない。
精霊式がいい、って言ったもんな?
なら婚約だって、その作法でやってあげよう。
「っ……わたくしには、もったいのないお方です。ハイディ・シルバ様。
お顔を上げて……いえ、わたくしにそのお顔を、見せてくださいませ」
顔を上げ、彼女を見る。
彼女が、見ている。
濡れて、揺れる瞳で。
「それが必要であるならば。
あなたに許しを。
わたくしもまた、永遠の愛を誓うことで、与えましょう」
ストックが、そっとボクの手に手を置いて重ねる。
左手で……彼女の薬指に、ボクの用意した指輪を、通す。
ゆっくりと立つと。
本当に珍しく……ストックが、涙していた。
……ふふ。
そこも、お揃いだね。
「……なんだ。お前も泣くのか」
「君を幸せにできて、涙しない理由がどこにあるんだ」
「ないな。よく、わかるよ」
手を重ねながら。
しばらく二人、噛みしめるように。
穏やかに、泣いた。
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