26-3.同。~君を探して。救いたくて~
~~~~弟が変な歪み方しないか、お姉ちゃんはさすがにちょっと心配です。
四人で寝ようとなって。
最初は抱えて寝ようとして。
結局、抱えられて寝付かれて。
…………目が、覚めてしまった。
着替えて、エルピスの中をぶらぶらと歩く。
ボクらの部屋は、エルピスの中だ。エルピス上層の一室を使っている。
改めて、部屋は7室に分けた。ギンナとベルねぇも同じ部屋でいいと言ったので。
……よかったのだろうか。不穏な気がするけど、変な線踏み越えるなよ、ギンナ。
明らかにボクが変に背中を押したせいだが、その件は忘れる。
クエルとシフォリアは10歳だし、部屋をそれぞれあげてもいいんだけど……どうしようかな。
二人とも、それなりの生活能力はあるし、殊更教育を考えなくてもよさそうなんだよね。
どちらかというと、これから成人して、独り立ちしていくに向けて……生きる力をあげるほうが大事だろう。
そしたらまずは、再来年から学園かな?王立魔導学園。初等部の入学は、13になる歳からだ。
二人とも、さすがボクらの娘というか――魔力がない。
武の指導はしているが、呪法は教えていない。
だからまずは、学問を収め、力としてもらうのがいいだろう。
神器を使え、とはあまり言いたくない。まだ神器自体の負担は、解消できていない。
この子たちは結晶自体は取り込んだことはないのだが、生まれた頃から神器を操れた。
ある意味、マリーに近い存在と言っていいだろう。
神器車までは、負担分散の機構は落とし込めた。
次はマリーの聖人でのチャレンジで、あれができればよさそうだが。
そこまでできてれば、神器使いでもいいかなぁ。石にさえならなきゃいいんだよ、神器でも。
しかし、石にならない神器ね。特別製な聖人以外で、それを実現する、か。
そりゃまた意図せず、文明の針が進みそうだ。
まぁ、それもいいだろう。
この世界の、独自の行く末が始まるのだから。
ボクらにはその未来を夢見る、自由がある。
ボクらにかかっていた――呪いの子として遡るきっかけになった呪いは、クストの根とともに、消えた。
それは同時に、ボクらの未来が、ゲームに絶対つながらなくなったことを意味する。
この点は……先ほどベルねぇとマリーで確認、ビオラ様にもお話し、皆に情報を共有してもらった。
ミスティもだいぶがんばってくれているそうだし。
時間の螺旋輪廻も、無くしていけるだろう。
ボクらは『揺り籠から墓場まで』の世界から独り立ちし、ただ人として未来を歩んでいけるのだ。
……ずいぶんなことに関わってしまったなぁ。
「君が救えれば、それでよかったのに。なぁ?ストック」
空いていた操舵室。その運転シートに身を滑り込ませ、声をかける。
助手席のストックは、少し驚いた顔をしている。
先に居なくなってたからね。ここかなぁと思ったんだよ。
「君はいつだってボクを見つけてくるが、ボクだってちょっとはわかるんだよ?」
「そうだったのか」
「そうだとも。だから追いかけてって、君の元に辿り着けたわけでな?」
「……悪かったよ」
「らしくなかったね。珍しくお怒りだったじゃないか。なんで?」
それはまぁボクもだったわけだが、とりあえずおいておく。
意地悪ってわけじゃないが、ストックの気持ちを聞いてみたい。
「それは……」
なんだろう。こちらを見る目が……なんかちょっと情けないお顔をしている。
ほんとに珍しいな。
「お前から大事なものを奪おうとするモノがいて――許せなくなった。
それだけだよ」
なるほど?普通の感情の動きだと思うんだけどな。
何がそんなに気に食わんのや。
言わんかったところもわかっとるんやで?
「私のハイディから」大事なものを……ってほんとは続くんやろ??
合ってるのに。
「君が独占欲お強めなの知ってるし、そんな情けなさそうな顔しなくてもええんやで?」
「っ。女々しいだろうに」
「ボクらは女だろう。女々しいのは我らの特権だ」
そうとは限らんが、そういうことにしておく。
「ん……そうだが」
んんー?んー。
この煮え切らない感じ。ははーん。
「おいストック。
娘もできたし、ちょっと男らしくしたほうがいいとか、思ってるんだろうけどな?」
「よくわかるな。……なんだ」
やっぱりか。惹かれる性と、家族や親子の在り様は、また意識が違うものな。
それは未来でもボクら、さんざん悩んだもの。
ん……ということはストック、未来の記憶はないってことかな??
まぁいいや。今は。
隣のストックを、そっと見る。
しばらく惑った後、彼女もボクを見た。
「ボクは君が男になったら逃げる」
「は?」
シフォリアはストックをお父さま呼びしてるけど、あれはちょっと理由がある。
別に男性らしいと思ってるわけじゃないんだよね。
どうもストックはその点、認識がない――未来の二人の記憶がないと見受けられるけど。
次の投稿に続きます。




