26.連邦北東魔境、神器船パンドラ内エルピス。夜、戦いの後に。
――――成し遂げた今……だからこそ、君と二人だけで。
えー。船まで戻ってきたのはよかったんだが。
その後、ボクは気を失った。
謎の宿業パゥワーでなんとかしていたが、力の使いすぎだったのだろう。
しばらくし、医務室で目を覚ました。
体はうまく動かないが……なんとか上体を起こす。
目の前に、二人の、子。
その向こうに、ストック。
「お母さま、改めて見るとちっちゃいねぇ。
え、私らこのおなかから出てくんの?えっぐ」
「そんなわけないでしょ……おっと」
起き上がって二人に飛びつき、抱きしめる。
「ん……ごめんねお母さま。ちょっと緊張しちゃって」
「エル、リア……。ぐす。
改めて、よく来たね。会えてうれしいよ」
この子たちのことは。
未来のことだけど。
ぜんぶ、全部覚えてる。
結局、産んでみたら双子で、とっても大変で。
ばたばたしてるうちに、えいやって名前をつけてしまって。
よく考えついたよなぁ、ストック。四人合わせられるなんて、洒落た名前だ。
最高だよ。
「クエル。寝ぐせついてる。後で直してあげる」
「ん。すみません。そこはちょっと直しにくくて」
知ってる。
頭を撫でる。後頭部にちょっとはねがある。
シフォリアの面倒ばっか見てるから、この子のここはよく跳ねてる。
クエル――エルは、短く髪を切り揃えている。
明るい白……というより銀髪で、目は赤。右目だけ少し暗い。
服は青いのが好きだ。よく似合う。
「シフォリア。ぐしゃってなるから袖適当にまくんなし。
服、合わせようね」
「やった。お父さまが出してくれた服、適当でさー」
そうではない。
暑くなくても、君は袖をまくる癖がある。
そのくせ体冷やしたりもする。ストールを用意しようか。
シフォリア――リアの方は、髪は伸びるに任せてる。でもちゃんと整ってるな。
色はいわゆるホワイトブロンド。マリーに近い。目の赤は、左だけ暗い。
この子は赤が好きだ。平民服だけど、それもかわいいね。やっぱりストックはセンスがいい。
「ストック」
「……ハイディ」
うん、夢じゃないよね。よかった。ちゃんといる。
彼女は穏やかで、すっきりとした顔で――
「えっち」
思いっきり吹かれた。
なんだ、ボクは正当な発言をした思うのだが。何が不満だ。
君はどうかわからんが、ボクには未来の記憶がばっちり入った。
そういわれてしかるべきそうすべき。
「あと、良いと言うまで部屋の隅で正座」
「はい……」
「お母さまつっよ。お父さまだってがんばってたし、かっこよかったよ?」
「知ってる。ボクのストックは、世界一かっこいい。
でもそれはそれとして、こやつ最初、ボクを置いて行ったんだよ。
そら減点だろ?」
「「あ~……」」
二人に見られつつ、ストックが部屋の隅に小さくなりにいった。
大人しく正座している。
なお正座とか土下座は東方の文化だが、たまに半島人も知ってる。
ボクとストックはどちらかというと、ゲーム……地球の記憶が大きいかもなぁ。
さて……二人のことは、何でも知ってるっていうくらいにはわかる。
でも今の状況はよーわからんな。
入り口からひょっこりこっち見てる、彼女に聞くか。
「ビオラ様」
「もう大丈夫?」
「体は大丈夫で、感動の対面的なやつも大丈夫です」
ビオラ様が誰かに言伝して――あれベルねぇかな?どっかに走ってった。
みんなに報せてくれるのかな。
上司がそそくさと医務室に入ってきた。
「よもや部下にこんな大きな子がいたなんて……」
「いるけどいるわけねーだろ。今この子ら10歳やぞ」
「しかも旦那が女の子……」
「そうだけどあなたのとこもそうやで」
「ぐふ。こんなでかい子産めない。むりぃ」
いやそうやけど。ボクだって無理やわ。
クエルとシフォリアはボクらより大きい。
ボクに入ってきた記憶では、この子たちが10歳までの分しかない。
けどその記憶と照らし合わせても、二人は10歳で間違いないと思う。
なお、もちろんなにをどうして授かったのかは知っているが、断固黙秘する。
「で、まず一番気になるのは――ああ。確認できたからいいや」
空きっぱなしのドアの向こうに……走ってきたらしい、マドカとアリサが見える。
無事だったか。事態が収束した場合、この子たちがどうなるかはわかんなかったからね。
「よう、自称娘。気分はどう?」
「上々。でも、もう二度と名乗んないわ。
ハイディこそ大丈夫なの?」
「だいぶ元気」
体はほとんど動かんけど。
ここんとこ無理しすぎだかなぁ。
「…………なんでストックは正座させられてんの?」
「破廉恥だから」
「はぁ?」
「他のみんなも無事よ。特に問題ないわ。
赤い光は消えて、クストの根は念のため、元あった場所を確認中。
ここからだと離れてるし、しばらくかかると思うけどね」
ビオラ様が解説してくれた。
元あった個所、大穴でも空いてるんだろうか。
見えたり見えなかったりしたらしいし、何もないという可能性もあるな。
「ビオラ様、なんか後始末とかあります?」
「クストの根については必要ないわね。
あとは……あなたの娘たちの今後、くらい」
ふーん。
ボクは関わらなくていいってか。
OK。妹は頼りになるようだ。
次の投稿に続きます。
#本話は計5回(約10000字)の投稿です。




