25-4.同。~家族と天を舞う――――荷電粒子砲、発射!!~
~~~~貴様の敗因は、ボクらに時間を与え――――怒らせたことだ。
まだらの空間を突き破って、ボクの黒い愛車が現れた。
『神器車!?いったい、どこから』
素早く運転席に乗り込み、各ドアを開けた。
ボクの意図を読んでくれたようで、ストックと娘たちも乗り込んできた。
『チッ、逃がさん!』
アクセルを吹かし、ディレクションギアを――右方進行へ。
ロケットスタートし、ドラゴンの吐いた熱線を交わす。
「ストック、超過駆動準備。
シフォリア、呪装火砲は教えたね?
クエル、重魔力収束鏡だ」
「はい、お母さま。リア!」
「はいよ!エル、行くよ!」
━━━━『天の、星よ!』
シフォリアが呪いの超過駆動を実行する。
━━━━『一二三四五六七八九十。布留部、由良部、祓い給え!!』
火砲が整う。サンライトビリオンの外殻が、赤く染まる。
「オーバードライブ!『神力 災害』!!」
クエルの制御で魔力流が卵型になっていき――外が歪んで見えるようになる。
「ようし。やっちゃえ、旦那様!」
「だっ!?ええい、オーバードライブ!『再生の炎!!』」
収束鏡に反応した魔導が、大いに拡大する。
山のようなドラゴンに、倍する火の鳥が降誕した。
『なぁ!?なんだそれは!
くそッ!滅茶苦茶な奴め!!』
さすがに身の危険を感じたようで、ドラゴンが羽ばたきを始める。
「お母さま、逃げられる!」
「落ち着きなよシフォリア。ボクがそんな手抜かり、するわけないだろう?
『こんなこともあろうかと』ってやつさ」
右手は先ほど血濡れたままだが――新しく十字の淵で親指の腹を切って、鮮血を追加する。
キーボックスに、指を押し付けた。
二人が超過駆動を使ってくれたから、ボクはまだまだいけるぜ!
「『涅槃の 獣よ。立て』!!」
魔力流がさらなる出力を得る。
『イクヨ、ハイディ』
炎の羽ばたきも混ざり、まさに――――
「飛んだぁ!?」「ビリオンにこんな隠し機能が!」「うわぁ……」
今日の涅槃の獣は、火の鳥バージョンだ!
精霊の力のふわっとした理屈で、空を飛ぶのも楽勝だぜ!
クエルはテンション上がってて、シフォリアは逆に引いてるようだ。
『や、やめろォ!!
来るな!!!!』
飛び上がったドラゴンが、熱線を吐こうと力を溜める。
シフトレバーをニュートラルへ。
アクセルを踏み込み、吹かす。
上がる気炎と共に――鳥の嘶きのような音が響き渡る。
「いくぞアウラ!!『螺旋殺し』!!」
ボクの拙い詠唱を受け、魔法が起動。
一気に出力が高まる。
シフトレバーを、前へ。
まだらの空を、赤い閃光が駆ける。
竜に、不死鳥が一気に迫る。
陽光よ!輪廻を打ち破れ!!
車体が、熱線を、巨大な魔物の肩口を貫く!
『ぎゃああああああああ!?
くそっ、くそおおおお!!』
だがまだかっ。焼き尽くすには至らない。
ドラゴンは炎に関する呪いを、持っていると聞く。
…………ならここは、あれしかないな。
すかさずシフトレバーを変更、アクセルを吹かし、車体を竜の肩から虚空へ跳ねさせる。
足場はないが、なんとか振り向くように車体を制御。
傷が俄かに再生していく、奴と再び対峙する。
「アウラ!」
『マダイケルヨ』
よし!
「それからストック!」
「な、なんだ!?」
じっとその目を見る。
「愛してる」
「――――私もだ」
ボクらの間に、赤い光が渦巻く。
深い業が混ざり合う。
ボクの魔素と重なり合い。
濃い紫となって我が愛車に宿る。
「『災厄よ、箱より出でて――――。
広がり!
天に舞い!!
獣となれ!!!』」
宿業の再充填。
災厄の再装填。
そして――――声が、聞こえる。
『『『『『『『「ハイディ!!」』』』』』』』
獣よ!
我が友と伴侶の力よ!
今こそ来たれ!
<――――縁 雷・成就。>
届いた!
世界の言葉が響き渡り、その法則が大きく書き換わる。
サンライトビリオンの車体が、細かい粒子となり――――
<――――神性・解法!>
翼の生えた、結晶の巨狼となった。
その身は滑らかで、結晶でできているとは思えない。
黒い身の内から徐々に力が溢れ、それに伴い、色が透け、紫になっていく。
瞳が強い呪いを宿し、赤く光る。
『ひゃぇ!?』
ドラゴンの目が……頭部ごと砕け散った。
翼は……動かせる。
はためかせ、高空に舞い上がる。
「こ、え?魔獣?」「違うよ、確か呪いの獣……」
みんな結晶の中だし、姿は直に見えないけど。
不思議と、クエル、シフォリア、ストックがいるのがわかる。
暖かい、命と力を感じる。
天に坐するように翼を大きく広げ。
「そうじゃないよ二人とも。
こいつは祝いの獣――愛の結晶さ!」
ストックと、目があったような気がして。
確かに二人、頷いた。
━━━━『『祝言。』』
ボクらの言葉が唱和する。
黒いまだらの空間――――そのものが、口腔に収束していく。
さぁ、クラソーに食らわせたやつとはわけが違うぞ!
━━━━『『荷電粒子砲』』
技術と!
業と!
想いのすべてを乗せた!
━━━━『『発射!!』』
ボクらのフルパワーだ!!
暗闇が、一気に消え失せ……なんと、地上に戻った。
大地付近の奴が、ようやく再生した頭をこちらに向ける。
『まっ――――』
何かが奴に収束し。
その身が圧壊し。
一つの点になり。
消えた。
翼を動かし……地上に滑空していく。
降りたところで。
「『災いよ、また箱の開く日まで』」
獣が、愛車に戻り。
ボクらは元居た座席に、ふわりと降りた。
驚くほど、静かだ。
少し遠くにパンドラ。
あの巨大な根も、もうない。
ふぅ……獣の矢は隙が大きいから、なかなか撃てないが。
ここぞという時は頼りになるな。
しかし荷電……粒子?あれじゃ縮退とかそんな感じゃねぇか???
まぁいいか。
不思議パゥワーの勝利ってやつだ。
ボクを破滅させる乙女ゲーとも、おさらばだな!
「Good。これであの獣面を、二度と拝まなくて済むね。
ざまぁ見ろってやつだ、クソゲーめ!」
「んああああああ!お母さまかっこえええええええ!!」
「ふぎゅ」
こらシフォリア。座席越しに後ろから抱き着くなし。
君、謎の液体でべっとりしてるんだし、後にしろや。
「リア。緩めないと、お母さま首締まってるから」
「いやいや。このくらいお母さまなら抜けてく……あ、あら?
腕動かんのやけど??」
しようのない子め。
シフォリアの腕の適当なとこをつまんで、のける。
「スキンシップは、君らを丸洗いしてからね。
ボクを置いてったストックは、後でお説教。
だけと今は……」
左の拳を、彼女に突き出す。
「勘弁してあげる」
何せボクはとっても満足だ。
君の危機に、駆け付けられた。
それを共に、乗り越えられた。
大事なものを、二人で取り戻した。
三年前、届かなかったところに、手が届いたんだ。
「お手柔らかに、相棒」
ストックがそっと、右の拳を合わせた。
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