25-3.同。~二人の、皆の未来を取り戻し~
~~~~あれはまたきっと、今とは違う未来。けど……得難い、可能性。
「じゃあ、未来を」
「ああ、決めてやろう」
駆ける。
両脇から円を描くように二人、迫り。
狼の口腔に、横合いから発勁をぶち込む。
牙を折り砕き、口に取りつき、その奥に手を伸ばす。
中から雷撃を流してやったからか、狼が痺れて動きを止める。
お前は、不確定な未来を足場にしてるんだろう?
なら、その未来がたった一つに決まってしまったら、どうなる?
クストの根。
貴様がたっぷりため込んでる宿業、使わせてもらうぞ!
精霊よ!
ボクとストックの娘たちに、祝福あれ!!
天狼の赤い目の彼方に。
白髪の子どもの……赤い瞳を、見る。
膨大な宿業が、逆巻く。
「クエル!」「シフォリア!」
ボクの右手が、狼の口腔の中で、あるはずのない何かを――確かに掴む。
不確かな未来を吹き飛ばし、望むすべてをここに!
「掴まって、クエル!」
口腔の奥で、掴んだ何かが、ボクの手を握り返した。
「その手を離すなよ、シフォリア!」
ストックが向こう側で叫んでいる。
肘や肩で牙をこじ開けながら……渾身の力で引っ張り上げる。
出てきた!
ボクらより大きい子たちを抱え、離れる。
「え、お父さまちっちゃ……え、なに、え??」
「お母さま……?」
かわよ!
二人ともストック似じゃんか!
よかったなぁ。お顔が良いわぁ。
君たちの10年もちゃんと覚えてる。記憶が流れ込んできた。
よだれだか体液だかでべっとりしてるけど、これは後で身綺麗にしてあげよう。
しかしこいつは平服では……?
え。ってことはやっぱりそういう?あとで二人に家名を聞いておくかぁ。
なんか直接は二人に関係ない範疇のせいか、流れて来た記憶でもそこがあいまいだ。
いや、そもそも二人に関する最後の記憶では、そこ違うような……。
平服着る機会なんて早々……どういうことだろう。
まぁいいや。後にするか。
「二人とも、ほんと変なことに巻き込んじゃって、ごめんね。
文句は、人の子を次回作への人柱にしてたやつに言ってね?」
「え、え?はい。大丈夫ですお母さま。これ、聞いてるし。
急に来たからびっくりしたけど」
「あれ、天狼ですよね。どうします?」
さすが我が子たち。肝が据わってるなぁ。
スカイウルフは、牙とかは再生したようだ。
人の顔じゃなくても、さすがにブチ切れてるのは分かる。
「貴様が奪ったものは、返してもらったぞ」
ストックがシフォリアを下ろしつつ、言う。
なお、シフォリアは髪が長くて、瞳の右が暗い赤。装いは赤寄り。
クエルは短髪で、左が暗い。服は青寄りだな。
『なんてことをしてくれたんだッ!!
多くの人々の未来がかかってるんだぞ!!』
狼が……爬虫類の顔になっていく。
巨大に膨らみ、その姿は――ドラゴンへ。
『もう許さんッ!!
お前たちを殺し!
次の周回でやり直す!!』
本来ならドラゴンなんて、驚くべきところだが。
ボクは、それどころではない。
「っざけんなボケェ!!」
誘発されて、ブチ切れた。
クエルを下ろして、左手を掲げる。
外に出て、あとはギンナに頼もうと思ったけど……気が変わった。
ストックが人々の未来を語るなら、ボクは静かに向き合っただろう。
だが、人に役を押し付けてる貴様の話は、聞くに値しない。
――――そのすべてを、滅ぼしてくれる。
緑の腕輪を、回す。
そうそう。
最初はこいつ、救難信号って名前にしようと思ってたんだけどね。
なんとなく、気になって……変えたんだ。
今ようやくわかったよ。この場面で使うなら……お誂え向きだ。
これは輪廻の終焉を招く、光だ!
「『涅槃の彼方より、来たれ』!!」
緑の光が煌めく。
ひとしきり輝いて……おさまった。
『…………なんだ?何のつもりだ。
救援でも呼んだのか?
この空間は、私を封じるための特別製だぞ。
何かが来れるわけがない』
かもね。ここはダンジョンより遠いどこかだろうさ。
けど、仕込みは十分。
『こんなこともあろうかと』!
ストックの左腕が、青く光った。
三点――三つの、腕輪が。
さらに彼女の右手の腕輪も、緑に光る。
「こ、これは……」
ディックと戦った時、ストックが腕輪回せなかったからね。
反省して、ちょっと預かったとき、改造しておいたのさ。
合計五つも座標を示す点があれば!
「来るさ。閃光が!」
光はどこからだって、やってくる!
次投稿をもって、本話は完了です。




