25-2.同。~遠く友に導かれ~
~~~~そもそもなんだこの謎空間は。なぜこんなとこにいたしこいつ。
跳ね回りながら、腕の中のストックを見る。
彼女の目が、ボクを見ている。
困った時の、相棒頼みだ。
「ストック。戦略目標」
「……子どもを守る」
「そうだね。ボクと君の子だ。
作戦は?」
「いや、お前の子の可能性なんだが……。
作戦、か。どうしたものか」
……ストックでもちょっと難しそうだ。珍しい。
ボクの方も、どうすればいいかはちょっと思いつかない、な。
いやだが、そんなことで諦めるなハイディ。
ストックの子を、その可能性を。
ボクは一瞬瞠目してから、すべての魔素を解き放った。
瞳が黒くなり、紫の魔素が空間に飛び散る。
あいつの動きは、より分かりやすくなった。単調で、罠もない。
だがそれ用にやったわけじゃない。
魔素をさらに活性化させる。
黒いまだらの空間に、ボクにしか見えない紫の光が広がっていく――
「これ、は」
お?ストックが反応した?何でだろう。
この子は魔素が見えるわけじゃないのに……。
『――――?』
『そうですね。私もそのように聞いています』
皆の……声がする。
え。なんで?
「今のはミスティと、その前はもしかして、マリエッタか?」
君にも聞こえてるのかよ!?
おっと、また狼が跳んできた。避けるのは忘れないようにしないと。
走り、跳び、逃げ回る。
『――――!――――!!』
『魔導での解消は難しいわよ。
呪いそのものというなら、門の展開でも厳しい』
「エイミーと、ダリア……」
みんな、何か検討してくれてる??
『――――?――――!!』
『――――。――――』
『二人とも、落ち着いて』
『大丈夫、必ず方法はありますから』
「マドカ、アリサ。
ベルと、マリーも……」
いやその。ベルねぇとマリーはむしろ方法考えてくんない?
『不確かな未来。足がかりに必要なのは、それなのね?ベル』
『はい、ギンナ様。えっと、それが何か……』
『問題は、どうやってそれを、伝えるかだけど』
『なんだそんなこと。何も問題はない』
「ギンナと……メリア。いったい、なにを?」
いや確かに伝わってるから問題ないけどさ。
どういうことだよメリア。
『私を取り戻してくれた、あいつがいるのだ。
やってくれるさ。
――――なぁ、ストック?』
一瞬、背筋が泡立つ。
見られた。
精霊契約の線が、ボクとメリアの間にあるからか?
「そういうことか、メリア」
「……思いついたようだね。それで行こうよ」
「聞かなくていいのか?」
「君の目を見ればわかるよ。それで――――
彼女の瞳の向こうに見える、おだやかな、彼方の一つ。
ボクは今よりずっと成長し……おなかおっも。腰がいたい。
そして、そばの椅子に座る彼女は、かつて未来で見た頃よりも、ずっと穏やかで美人だ。
お互い、落ち着いているように見えて、気が逸っているようで。
彼女は人名を始め、いくつかの辞典を一生懸命読んでいる。
ボクは……ふふ。揺り籠はまだ早いって言われたけど、買ってしまって。
――――まだ悩んでるの?
――――そりゃあ、どんな子かわからないからな。
――――生まれてからでもいいんじゃない?
――――生まれてすぐに、呼んであげたいだろう。
――――仮に……ボク似。藤色の髪ならどうする?
――――ウィスタリアで。
――――却下。そもそも、男の子だったらどうするのさ。
――――えぇ~……。うーん。名前ならやっぱり植物系がいいよな……。
――――藤ではない、紫のほかの植物は?
――――よし、紫陽花でいこうか。
――――まって。それ被る。めっちゃ被る。
――――いいじゃないか。いっそ私を公式に『ストック』にしよう。
――――改名って大変だからな?これ、双子とかだったらどうするんだよ。
――――……お前にはいろいろ諦めてもらう方向で。
――――おい。何を諦めろっていうんだ。もっとまじめに考えろ。
――――じゃあ……これはどうだ?
――――紫関係なくなったぞ。だが君似ならOKだ。
――――よし、じゃあそうしようか。……待ち遠しいな。
――――ほんとにね。ボクたちの……
――――ボクらの大事な子。名前は、決まった?」
「……ああ。ばっちりだ」
また爪を避けて、彼女を下ろす。
正面、10mほど向こうに巨大な狼。
息、荒くなっとるし。運動不足が過ぎるだろ。
あとふらついてるのはあれか。
転移で酔ったな?慣れないことするから。
姿だけ魔物になっても、中身はずっと人間寄りってことか。
本来なら人の方が、より完全な魔物であるというのに。なんて体たらくだ。
そんな情けない奴が――――ボクの相棒の子を、人質にするんじゃねぇ。
ぶっ飛ばしてやる。
次の投稿に続きます。




