24-4.同。~暴かれる宿業~
~~~~みんなすごいね。ボクの仕事?そりゃパンドラを作ったことさ。
「ベル」
「はい。構えを」
ギンナが前に出る。皆が、その前を空ける。
液体執事を右に、お仕着せ侍従を左に従え、ギンナが腰を落とし、構える。
左拳を、前へ。
「2.0、upしてください」
景色が歪んでて照準がつけづらそうだけど――。
ベルねぇならば正しいかどうかが、わかる。
彼女の言う通りにすれば、きっと急所に当たるのだ。
ギンナが僅かに身じろぎする。
「……したわ」
「0.2、down……はい」
待ちに入った。ギンナはぴくりとも動かない。
風は関係ないから……大気中の魔素の流れを読んでるのか?
根は完全に固まって……だが身を震わせている。
無数の目が、恨みがましくこちらを見ている。
「0.01up。チャージ開始」
ギンナが深く息をする。
「『大地・絶唱』…………」
水の精霊なのに、どうして技は明らかに地属性なんだろ?
そんなどうでもいいことが頭をよぎる。
というかそもそも。いつものやつじゃなくない??
「って!」
「地声!!」
ギンナが右拳を突きだした。拳先から、光が溢れ出す。
青い奔流が、照射鏡に吸い込まれ――紫の線となって、根に到達する。
それは見事、丸い部分……核とみられる球根に当たった。
刹那、膨大な岩が現れ、ねじ込むように根のすべてを包み、捻りあげた。
あ、そう。魔力光が青なんだ。
珍しいね。だからウンディーネなんだ。
岩出たけど。岩?
「コアの位置、確認できました。
0.02down。チャージ開始」
「……いつでもいけるわ」
右拳を前へ、左拳を溜めている。
「……って!」
「絶唱・天声!!」
ギンナの左拳が突き出され、もう一度、青い光が走った。
それはまた紫の輝きとなり――岩に到達した瞬間、岩も砂も根も何もかもが消し飛ぶ。
後には、赤い小さな点のような、光が残った。
「コアの露出を確認!」
液体執事がなぜかポーズをとる。ダブルバイセップス、だっけ??
ギンナが両手を構えると、赤い光の周囲に、巨大な二つの青い手が出現した。
ギンナの手に合わせて、青い手が赤い光を捻りつぶそうと――――
「「待って!」」
?
マリーと……ストックだ。なんで?
「……ギンナ様、お待ちを」
「ん。いいけど」
「どうしたのストック。何があったの?」
ストックが、すごくつらそうな顔をしている。
そして。その瞳に確かに怒りの色を浮かべ、言った。
「すまない。行ってくる。
絶対に許せない。
これは――私の戦いだ」
え。まってどういうこと?
君は何を見たの?
ストック?
駆けだし、飛び出す彼女を追いかけようとして……マリーに肩を掴まれた。
振り向いて彼女を見ると、首を横に振られた。
ストックが飛び立つ。中空で赤い膜を潜り、呪文を唱え、紫の竜に変わる。
一直線に赤い光に飛び込んでいって――――消えた。
……え?
「大丈夫。大丈夫だから、ハイディ」
「なにがだいじょうぶなの?すとっく。すとっくがいないのに……」
「しっかりして!あの子は、あなたの子どもを助けに行ったの!」
…………は?こども??
「私も整理できてないけど……よく聞いて、ハイディ」
彼女の説明は難解だった。
あの呪いが力を振るうのに、足掛かりとなるものがあるんだそうだ。
決まっていない不確定な未来の一つを足場にして、様々なものを引き寄せているというか。
その足場にされているのが……ボクの子ども、という『可能性』らしい。
このまま倒すと、この場の根はもちろん、足場も未来もその果ても敵も、全部消えてしまうとか。
確かに何か――なんだろう?
赤い光の奥に、子ども、が見える。
髪が、紫っぽくて。瞳の色が、見えない。
「……あの根を撃破すると、ハイディは一切の子を持てなくなると。そういうこと?」
「……はい。ビオラ様」
「女同士なんだったら、そもそも養子でいいんじゃないの?」
「ダメです、マドカ。その可能性も、対象です。縁のすべてが切れます」
でもそんなの、ストック本人には代えられないよ?
――――養子でもいい。ずっと二人でもいいしな。気楽にやろう。
ほら、ストックもそう言ってたし。
――――絶対に許せない。
……ストックは、何にそんなに怒ったんだろう。
わからない。わからなくて――――
――――ほしい。お前と、私の子が。
不意に、ボクは膝から崩れ落ちた。
維持ができなくなって、マリエッタに渡せていない魔導が消えていく。
ビオラ様が権限をとったのか、防御陣は消えなかったみたいだけど。
「ハイディ!?」「ハイディ!!」
みんながボクを呼ぶ声が、遠い。
意識が遠のくほど――――強い怒りが、湧き上がってくる。
「…………ざ、けるな」
「……ハイディ?」
歯を食いしばる。
床を踏みしめる。
膝に力を入れる。
「ボクの未来の子ども、ね。
つまりそれは、ストックの子でしょう?」
立って、彼方の赤い光を見る。
濃厚な赤い光の奔流が、ボクの体から立ち上る。
ボクの最も強い宿業が、花開く。
ボクのことなんて、どうでもいいじゃないか。
君の未来に、手を出したことに比べれば。
「それを盾に取っただと?
――――許せない」
握り締めた右の拳の掌から、血が滴る。
ようやくわかった。
ボクの宿業は、弱くなったんじゃない。
解消された、わけでもない。
ただ――――向きが変わったんだ。
今生を謳歌する、ボクの友達から。
ボクのすべてとなった、彼女へ。
君と、同じように。
「ビオラ様。後を頼みます。
ストック……」
皆の返事を待たず、ボクは一歩を踏み出す。
「今行くからね」
パンドラから、ボクの姿が掻き消えた。
ご清覧ありがとうございます!
評価・ブクマ・感想・いいねいただけますと幸いです。




