表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/518

23-3.同。~見える世界が広がる~

~~~~ひょっとして皆、ビオラ様の戦闘見たことないからそういう印象なのか?そうかぁ。


「ギンナは見えてる世界が違うんだから、そんなもんだよ」


「世界が?どういうことです?」


「魔力や魔素が、目に見えてるんだよ、ミスティ。


 魔力光じゃないよ?」



 ボクは、魔素を空気中にばらまいたときだけ、それがはっきり知覚できる。


 でも視覚情報とは違う。


 目で、光としてそれを捉えられるというのは、ギンナ以外に聞いたことがない。



「そうなんですか?ギンナ」


「ええ。魔力光って目に見えるし。


 魔素や魔力が見えるのも、当たり前のものだと思ってたわ。


 前の時間の時にハイディに詰められるまで、知らなかったのよ。


 みんなが目に見えてないって」



 あの時は興奮してつい詰め寄ってしまった。


 ギンナにはすごい引かれた。


 とても反省している。



「魔力が目に見えたところで、感性が変わるものなのか?」


「……変わる、と思います。メリア様。


 私やマリーちゃんも見えてる世界が人と違うので、その。わかります」



 知り得ないことを知ることができるマリー。


 正解を知ることのできるベルねぇ。


 当然それは、知性や感性に影響のある世界だ。



 おそらくギンナの世界とは。



「魔力……はわからないけど。魔素って、結構感情を反映するんだ。


 だからそれらが目に見えるということは、人の心の動きはよく見えている。


 ボクらは人の心が未知だから、驚いたりドキドキしたりするけど。


 ギンナにとって、それはとても当たり前で、あるべき世界なんだよ」


「そうねぇ」


「えっと抉り込んでしまいますけど、それにしては人の心の機微に聡くはないですよね?ギンナ」



 一応、オブラートに包んでるあたり、えらいなミスティ。


 中身見えてるけど。


 んっとそうだな……ボールの中を見ながら考える。



「ミスティ。ボクらは触れれば空気の温度がだいたいわかる。


 では、その温度に常に関心を払うか?」


「ああ……当たり前だから、関心が向かないのですね」


「そうね。私にとって人の心の動きとは、確かに空気のようなものだわ。


 そこにあるのが当たり前で、そう動いていることに不思議はなくて、自明で。


 そこがわからないと、恋愛とは難しいものなの?」


「そんなこたぁないよ?


 君が理解できているのは、魔素などに現れる、目に見えるそれだけだろ?」


「ほかがあるということ?」


「人間の体が、いろいろ反応してくれるよ。勝手にね」


「覚えがあまりないわね……。ハイディは、どんなときにそうなるの?」



 ストックを探し……ああ。パンケーキ焼きに戻ったのか。


 そうだなぁ。わかりやすいのだと。



「肌が触れた時に、いろいろ。快かったり、逆に不快だったり。


 暖かかったり、冷たかったり、柔らかかったり、滑らかだったり」


「それは触感とかの感触そのものじゃないの?」


「だけじゃないよ。


 というかそれに察しがつかないあたり、ギンナはあまり人肌には触れてないな?」


「殴り飛ばしたり締め上げたりすることはあるけど、そうね。


 穏やかな接触は……ああ。もう少し子どもの頃なら」



 そういや、ギンナも赤子の頃に戻ってきた勢か。



「そう、ね。そう。確かに、目に見える以外の、心の動き。覚えが、ある」



 ギンナが……何かちょっと、堪えるように手を、握り締め。


 解き。


 顔を上げて、己の侍従を真っ直ぐに見た。



 なんだろう?



「ベル、ちょっと」


「はい。なんでしょうギンナさ……様!?」



 ギンナがベルねぇの左手を手に取って、両手でにぎにぎ、すりすりしだした。


 えぇ~……?なにごと?どういう情緒??



「少し冷たくて、肌もかさついてる。水仕事してるからね?


 ここ荒れてる。爪も、少し」



 目を細めて、手の、指先の感覚に集中し、ベルねぇに触れている。


 ベルねぇは顔が一気に赤くなった。



 半島の女にとって。特に武に触れるものにとって。


 素手をとられる、というのは。相応、特別だ。


 そう教わるし、それが当たり前と認識する。



「あのあのあのあのああああの!!??」


「ああ……なのに。なんでこんなに、暖かいの?」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



 ベルねぇからこう、かなりの勢いで気が抜けて行ってる感じだ。



 ギンナはとても興味深げに……ベルねぇの手に触れ続けている。


 ベルねぇはそんなギンナから、目が離せなくなっているようだ。


 これもまた……新たな世界の花開く、瞬間だろうか。



「ギンナ、さま……」



 ベルねぇがおずおずと、右の手も、差し出した。


 どういう、心境だろうか。


 彼女の目が、惑うような、うつろうような、色を見せている。



 ギンナがベルねぇの両の手をとり。


 それを比較するかのように、優しく撫で、感触を確かめている。



「ああ。ドキドキ。してるのね?ベル。わかるわ」


「はい……」


「伝わる……。ただ見てるだけのときは、あんなに味気なかったのに。


 こんなに、色鮮やかで」



 二人、ひたすら指を、手を、すり合わせている。



 誰も二の句を継げなくなった。



 もうあきらめて、メリアはお茶を淹れるのに集中してるし。


 ミスティはひたすらパンケーキを食ってる。


 ストックが戻ってこないのは、たぶん空気を読んでるからだな。



 ボクも生クリームを混ぜる仕事に戻った。



 意外に音はするのに。


 とても静かな午後となった。

次投稿をもって、本話は完了です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

――――――――――――――――

幻想ロック~転生聖女は人に戻りたい~(クリックでページに跳びます) 

百合冒険短編

――――――――――――――――

残機令嬢は鬼子爵様に愛されたい(クリックでページに跳びます) 

連載追放令嬢溺愛キノコです。
――――――――――――――――
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ