23-2.同。~集まる友。動き出す時代~
~~~~ミスティは仕事が早い。そして甘味を食べるのも早い。
「でもそれ……いや、まさか飲んだのか?」
「上は。あとは貴族層を納得させられれば」
うげぇ。皇帝は帝国の発展的解散、または従属を飲んだのか。
何でだよ。何を餌に?
いやもうこれ、理屈で飲める話じゃないし、できる決断でもねぇぞ。
ちょっとミスティたちが何をしたのか、予測がつかない。
「ある種の大ナタじゃろうな。楽な暮らしを与え、地位を返上させる」
「帝国じゃ名誉と労苦がセットだからな。
両方同時なら、捨てる人間が大勢いるか」
皿を並べるストックが納得している。
「しかしほんと君は、こういう仕事が得意だね。ミスティ」
「私は冒険したいんですけど。メリアと」
「お前の進めた構想によって、半島民の世界は広がるだろう。
東方や西方どころか、海洋にも出放題になるぞ?」
「おっほ!夢が広がりますね!!」
この半島と地続きの東方・西方も、事情は似たようなものだ。
ダンジョンがある。魔物があふれる。
魔境ができ、作物が枯れ、人が食われる。
その中の、川に囲まれた小さな生存圏で生きるのが、この世界の人間だった。
まだ大陸の外というのは、はっきりしたものがないが。
もしそこに出て行ったとしても、その生きづらさが変わることはないだろう。
だが魔物を、それに怯えるしかない世界を、乗り越えた人類なら。
きっと希望が持てる。
「ん~~~~!!」
そんな未来は。この、いい顔して夢に悶えてる冒険家には。
何万……あるいはもっと長い時の果ての。
幸福の訪れだろうな。
「ただいま……」
おや。
「なんでギンナはそんなくたびれてるのん?」
「ちょっとスノーが手強くて」
食堂にやってきた大公令嬢は、お疲れのようだ。
珍しく令嬢みが薄れ、ぐったりと椅子に座った。
…………なんだ。ここに来て早々、再戦でも挑まれてたのか?
一緒に入ってきたベルねぇが、ギンナを座らせてる。
ボクはまだ生クリーム混ぜてるので、メリアに目配せした。
彼女が、冷蔵庫から冷たいお茶を出し、カウンターに来たベルねぇに渡した。
「スノー姫か。どうなのだギンナ、彼女の実力は」
「そうね。実力は、まぁ。
雷獣しか使えないし、さっきはそれも封じての手合わせだった。
ハイディみたいに、びっくり人間じゃないから、何か出てくるってわけでもない」
そんな評価か、ボクは。
「でもそう……手強い、わね。
前にエルピスで会ったときとは、全然違う。
力が、武力が足りなかろうとも、目的を果たしてやろうという。
深い執念を感じる。
何かあったの?ハイディ」
「いや?特には。連邦であった火急の事態では……そこまで。
でも、見てて理由は分かるよ」
「愛の力とか?」
おや。冗談のつもりで言ったのかもしれないけど、正解だよギンナ。
ドーンで出会い、そして連邦を一緒に旅してきた二人。
長い時間ではないが、絆は十分育まれているように見える。
「そうだよ。たぶん、それがこの国の王の資質だ。
伴侶……というか、王妃かな?に対する情念。
これが強く持てる者。そしてそれが原動力となる者」
「そんな馬鹿な」
「まぁほとんどは勘だよ。けど、歴史を見るとそういう傾向はあるし。
あと、エングレイブ王国は王妃がめちゃくちゃ強いでしょ?」
「そうね。今代のアリシア様も、長き名を持つ精霊の加護を得ているわ。
しかも、大層な武人だと聞くけど」
そこんとこの詳細は知らんかったわ。
ボクのかーちゃんとんでもねぇな。
「ビオラ様は分野は違うけど、魔物に対して必滅の戦略兵器足り得る人だ。
足りない分は、ボクらで補った。
ちなみに、装備条件を同じで戦うと、ボクは負ける」
「「「「「は?」」」」」
「なんだそんなに意外か?あの人がボクの先生だぞ?」
「「「「「あぁ……」」」」」
「で。その一方で、王が武で名を残すことはないんだよね。
だから、最強の女を王妃に迎えられる人間が、王になる、というのはボクの持論」
「「「「「なるほど」」」」」
なんか超納得されたんだが。
「最初はあの二人、だいぶギクシャクしてたから。
ビオラ様はずっと真っ赤になってて。
スノーは愛情は溢れてるんだけど、どう接したらいいかわからない感じだった。
君らを迎えに行く前は、とっても落ち着いた感じだったよ。
二人に会ったんでしょ?どうだった?」
メリアたちが顔を見合わせてる。
「確かにお母さまも穏やかだったし、スノーと仲睦まじそうだったな」
「むしろ熟年感あって、どうしたのかと思いましたよ。あの二人」
「そうだったの?ミスティ。確かに落ち着いた様子ではあったけど……」
「いやギンナ様。手を握って見つめ合って、めっちゃラブラブだったじゃないですか。
ドーンでお二人を見かけたときは、確かにハイディの言う通り、すごい緊張してましたよ」
人前で何やってんだよあの二人。自重しろ。
メイドに見られてんぞ。
「そうなの?うぅん。ちょっとよくわからないのよね」
「おぬし、相変わらず恋愛沙汰はさっぱりわからんのだな」
「ピンと来ないのよ。気分が想像できないというか」
「え。こう、ドキドキしたりしないんですか?ギンナ様」
「しないわね……」
「戦闘の時もか?」
「しないわね」
そっちは断言なんか。
君、戦うときはすごい落ち着いてるしな。
次の投稿に続きます。




