22-7.同。~妹よ。復讐者よ。君に託す~
~~~~永世教授かぁ。前はなれなかったし、せっかくだからボクも試験受けとくかぁ。
「ところで姉上。
私、こんな話題ばっかり出してるような気がするのだけど」
「なんだね」
「やっぱりここ、同性カップル多すぎない?」
ほんとにな。
というかこう、なんだ改めて。
誰かに話し聞いて、当てられたか?
「君が言うのかね。
むしろボクは、同性愛者が少ないのに、そうなっていることが不思議だ」
「ほんとにね……実際には、三人、くらいなの?」
「んんー?ストック、マリーとダリア、エイミーで四人だ。
マリエッタは違うし」
「マリーもそうだったの?」
「そうだよ。宗教上の理由である種の忌避感があるけど、気質はそっち」
「…………あの子らしいわね」
君から見ても、マリーは性根が捻じ曲がってるのか。
というか、八人中四人がそうなのは、普通に多い方か??
「あとは……その状況で、性別違和を抱えてる子がいないのも、かな」
「えっと。体と心が違う、という?」
「そう。自認が女性でない、という子はいない」
「そういう人、そもそもいるのかしら?
ゲームの……地球、というところには、いるという話だけど」
あれ??
「そういえば、ボクも見たことがないな……」
「精霊というか、魂の関係じゃないの?
差異がある体には、宿らないとか」
「ありそうだけど、検証が難しいね」
「別に調査しろって話じゃないからね?姉上」
おっといかん。
あ、そうだ。調査と言えば。
ビリオンを調べてるときについでに作ったものを、渡しておこう。
「スノー。これ渡しとく」
左腕から、緑の腕輪を外して、一つ渡す。
これで残りは、ボクがいつもしてるやつだけだ。
「ん?これえっと、さるべーしょんこーる?だかの腕輪??」
「そうだよ」
「私、ビリオンは運転しないわよ?」
「それはエルピスのコール用だ。持っておけ」
追加の腕輪だ。
ビリオン用のはあったが、エルピス用のはなかったので、作った。
あのコール自体は船に積んでたが、呼び出す側の端末を作ってなかったんだよね。
「……………………」
妹が、ボクの目をじっと覗き込んでいる。
そしてそっとため息をついた。
「わかった。ありがたく受け取っておくわ」
右手首につけた。んむ。
では……もう一つ贈り物をしておこう。
「スノー。人型ではない魔物には必ず、弱点となる目がある」
「……?何の話?」
「まぁ聞け。
特に邪魔はそうだ。この世界を見るための目を、絶対に持っている。
ジュノー近くで遭遇した蛇の海には――瞳がなかった」
「っ。どういう、こと?」
スノーが息を呑む。
……呪いも何も使ってこなかった。
あんなの、邪魔じゃない。
強靭だが、しぶとさがまったくなかった。
この世界を見続けるという、執念がなかった。
「海っていうには、でかいだけでお供がいるわけでもなかった。
だからボクの予想では……本体がいる。
あれはただの、皮だ」
「脱皮でもしたってこと?」
脱げた皮だけが動いてたってことだが、まぁ邪魔だしね。
そんくらいはあり得る。
「そう。だから君に、それを預ける」
スノーが腕輪を、じっと見つめる。
顔を上げ、またボクを見た。
「それは、なぜ」
「君は、最強の神器使いの伴侶だ。
彼女のための武器を、いつでも呼び寄せられるように。
それを持っておけ」
その最強本人には、実はここを出る前に一本渡してある。
だが今のように、二人が分かれている場合。
これがあれば、駆け付けられる。
戦略の幅が、広がるだろう。
「私がそれに、遭遇するということ?」
「今、本体がどこにいるのか?という話さ。
奴を目覚めさせたのが誰か、という話でもある。
1の神主を、君が滅ぼしたんだろう?」
視線が少し交錯し。
スノーが、ふっと笑った。
「甘えておくわ。お姉ちゃん」
「そういうこった。君が素直でかわいくて。
できた妹だから、つい甘やかしたくなるんだよ。
……そして頼りたくなる」
「え?」
スノーが顔を上げた。
その瞳に、もう一度目を合わせる。
「我が憤怒。君に預ける」
妹が、驚きに目を丸くして、ボクの瞳を覗き込む。
何の色も浮かんでないと思ったかね?
何の恨みも辛みもないと、そう思っていたのかね?
そんなわけないだろう。奴は今すぐぶっ殺してやりたいさ。
あいつが何度、ストックを、危ない目に遭わせたと、思ってる。
許せない。
だからこそ。
1の神主を仕留めた、実績のある君に、預ける。
「確かに、預からせてもらうわ」
「ん。ボクの用意した切り札、存分に使い給え」
妹が頷き、席を立った。
お茶とお茶菓子は、きっちり全部召し上がっておられる。
「ごちそうさま。元気出たわ。
おやつ、楽しみにしてるわね」
「ん。……あれ?また誰か来た?」
「ん?」
食堂に今度は、ストックが入ってきた。
「ああハイディ。スノー、ここにいたのか。
エルピス、帰ってきたぞ」
妹が袖を咥えるのを、お姉ちゃんは肩を掴んで止めた。
「はな、離して姉上!女にはやらねばならない時がっ」
「いいから淑やかに歩いて行け。
ボクはパンケーキ作ってるから。
ストック、手伝って」
手を離すと、スノーは猛然と早歩きしていった。
ボクもキッチンに戻る。
「おやつはパンケーキか」
ストックがエプロンしながら、キッチンに入ってきた。
手を洗い、機器の準備を始めてくれている。
こちらも、お粉とかいろいろ出し始める。
「ミスティが帰ってくるからね。せっかくだし、小麦のおやつがいいかなって」
「今日帰ってくるのはお見通しだったのか?」
「そりゃあ予定通りならそうでしょう」
「予定通りじゃなかったら?」
「いる人間で、おいしくいただくだけさ。
ボクの分も、きっと残っただろうね」
「違いない」
欠食令嬢が増えて、しかもそのうち一人は甘いもの好きのミスティ。
小麦粉、残るかな?
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