22-4.同。~機会。それは後悔しないための、大事な切符~
~~~~実は20歳過ぎてから、パイプを吹かしてたこともある。ふふ。皆には内緒だぞ?
……おや?入れ替わりに誰か食堂に来たぞ。
椅子を引く音がする。二つ。
「…………ダリアはまだだめかね」
顔を出すと、マリーとダリアがいた。
ダリアがテーブルに突っ伏して、ぐったりしている。
「だめですねぇ」
何がダメかというと。
「祖国の危機が去って、気が抜けたかね」
「みたいですねぇ」
ということである。
イスターンが吹っ飛ぶ事件再現は、こないだ潰したわけで。
そしてこの手の再現はこれまでの数々の経緯から、二度は起こらないことがはっきりしている。
この点は、マドカが神主・西宮との会話を覚えていたので裏が取れている。
やつの『アーカイブ』をもってしても、同じ事件は二度再現できないそうなのだ。
まぁそうは言って何か隠してる可能性も、無いとは言えないが。
それならこないだのイスターンの事件時、こちらが再現を鎮めたあと。
もう一度『アーカイブ』を起動すればよかっただろう。
どうもこちらの様子は、能力使用にあたって把握していたようだし。
できるのならば、やらない理由はあるまい。
明らかに戦略要衝でやってこないのだから、複数回の再現はできないと見積もっていいだろう。
ダリアもまた、それがわかっているから……気が抜けてしまったようである。
たぶん、この建造場で事件再現が起きたから、「イスターン滅亡の再現はもうされない」と確信したのだろうな。
国ごと吹っ飛ばせるなら、ここを襲う必要なんてないのだから。
「前の時から考えて……20年強か?
こんだけ頑張ってきたものが片付いたなら、そらそうもなる。
しかも、連邦の問題は片付いたが、敵とかなんとかまだいるから、余計だるいんだろ?」
「…………お見通しってわけね」
「お見通しも何も、ボクは君と一緒にやってきたつもりだぞ?
気持ちくらいは分かる。
別にだるくはならんが」
「……あんたには、他にも大事なものがあるから?」
ちょっとダリアの顔が上がってきた。
しょうのないやつめ。
食堂に備え付けのカウンターに行って、グラスを二つ出す。
えっと確か、所長が勉強のために!とか言ってパンドラにも手配したのがあるはず。
冷蔵庫と棚を開け、必要なものを揃える。
「そりゃ君もそうだろうが。
ボクは手を動かすことがいっぱいあるからだよ。
午前はパンドラの試験。夜には明日の準備もしないといけない。
やっと組織法規は整ったけど、経理周りのシステム整理をしたいから、ゴズロウさんと夕方打ち合わせ。
魔境航行折衝の手間を減らしたいから、モブリンさんともちょっと話す。
ゴージさんが、そろそろ玉鋼の精製始めるっていうから後で見に行くし。
ダッジさんが提案してくれた、クルーの合同訓練も詰めないとだし。
ディマットさんが赤実と麦が取れたっていうから、これもチェックしたい。
粉ひきや精米の相談も受けてたから、今できてるものを試してもらわないと。
エイミーの出した要件は早急に真っ赤にして突っ返さないと、あの子やばいもの作りそうだし。
マリエッタとアっさんが単車もう一台組むっていうから、これも手伝わないと。
あと三食おやつまで全部作ってる」
呆れた顔をして……それからダリアが、柔らかく笑った。
「倒れるんじゃないの?あんた」
「余裕だよ。関わってるけど、ほとんど人任せだ。自分でしてることは少ない。
おまけに、マドカとアリサ、ストックが手足になって手伝ってくれてる。
クレッセントでは、これに加えてたくさんのクルーの面倒も見てたようなもんだぞ?
しょっちゅう問題起こすんだから。仲裁とか、場合によっては制裁もしなきゃならなかった。
誰も彼もが穏やかなパンドラは、天国だよ」
「それはそれとして、寝る時間があるのか気になる感じね……」
「ちゃんと寝てるよ。そこもクレッセントとは違うね」
なお、記憶整理のために一時間寝てるだけというのは内緒だ。
もちろん、ストックも一緒である。
実際の航行および運用が始まったら、今相談している相手方が実働してくれて、ボクらは暇になる。
ああでもエイミーはぁ……見てないとダメだな。
ダリアが復旧したらつけて、また一緒にやってもらうようにするか。
アウラの変身が実現できて、ボクとストックが生き延びられたのは、この二人のおかげだ。
「……ハイディ。私ね」
なんだすごい言いづらそうに。
そしてマリーは、どうしてによによしてるんだね。
「うん」
「やっぱりあんたのこと、好きよ」
「そ」
「ハイディそっけないですね!?」
なぜかマリーがいきり立ってきた。なんでや。
「そりゃ熱が籠ってないし。
マリーにだったら、そりゃあねっとり囁くんだろ?」
「んぐ。確かにダリアさんは、湿度お高めですけど」
そうそう。
ストックだったら、ボクを撃沈させる勢いでねっとり言うわ。
「ふふ。そりゃ別にラブいのじゃないしね。
それはいいのよ。マリーで満たされてるもの」
マリーはあわあわしてる。
君らこう互いに、素直に出られると弱いよな。
「――――救われた。
比喩じゃなく。
おかげで世界が、とても広く見える」
「そうか。どうした急に」
「私ね、無理だと思ってたの。
技術的には十分。
マリーだっていてくれる。
でも滅びの回避は難しいって。
自分でも、どうしてそう考えるのか。
何が足りないのか、わからなかった。
けど……落ち着いて考えてみれば、当たり前だったわ」
ダリアが、橙の魔女がボクを真っ直ぐに見る。
「あんたがいてくれるか、わからなかったから」
おう、そう来たか。
次の投稿に続きます。




