21-10.同。~そして勇気を振り絞る者也~
~~~~やっぱり君はここぞというとき……必ずボクを助けてくれるね。ストック。
こちらの硬皮もまた剥がれ、それは黒い霧となって集まり……一台の神器車に戻った。
あ。これだめ。もう体力の限界。
膝をつき、そのまま倒れ伏す。
ストックも片膝をついているが、耐えている。
ってよく見るとディックも気絶してねぇ!
こいつらタフだな!!
ディックがこちらを……いや、ストックを睨んでいる。
「俺の名は、ディックだ。亀じゃ、ねぇ。
忘れるな、予備品」
「私の名は。紫羅欄花だ。
予備品じゃなく、花だ。間違えるな……ディック」
「ケッ。似合わ、ねぇ」
「俗語と被る、貴様よりマシだ」
「ディックだ。ディックと一緒にするな」
「紛らわしい」
それディークじゃねぇの?
蒸し返すとややこしいから、言わんけど。
「っ、貴様!?」
ストックが声を上げた。
なんとか顔を持ちあげ……おや?
「くら、そー?」
『こいつはもらっていく』
「「は?」」
いつの間にか、黒い結晶がいた。
クラソーが、ディックを肩に担いでいる。
「何のつもりだ、クラソー」
『こいつをこれ以上、神主共の好きにさせる気は、ない』
お。そうだよすっかり忘れてた。
なんでディックがここにいるんだよ、って話。
ディックは三年前、ドーン襲撃で一度捕まってる。
その後は帝国預かりだったはずで……。
つまり、領地など諸々放出して、自由を得てやがったのか、こいつ。
そこをまた神主のどれかに拾われて、改造されたってことかな。
「離せ、俺はこいつらにッ」
『また挑みたいなら、そうさせてやる。
だが力を得たいなら、奴らに頼るな』
「……………………クソッ」
何とか息が整ってきた。
身を起こす。
「クラソー。そいつが、悪事を働く、なら。
君ごと、始末するぞ?」
『もしそうなったなら、好きにするがいい』
こちらが何も言わないと見るや。
クラソーは剣の引き金を引き、いずこかへ消えた。
「やられた」
「いいよストック。
ディックは普通に捕まえたら、また神主のとこに取り返されてたろう。
この方がまだマシだ」
王国内のことじゃないから、王国で責任もって捕えるというのは、無理だ。
連邦が捕まえたとしても、どこからか身柄を掻っ攫わねかねない。
クラソー以上の結晶兵で、こちらに挑む気満々となれば、向こうも使い勝手が良いだろうしね。
前回のときはまぁ……あいつ、腐っても公爵だったからな。
王国で勝手に牢屋にぶち込むって決着は、難しかったんだろう。
所属の不明なクラソーが、秘密裏に確保している……くらいがちょうどよかろう。
こちらとしては、神主にまた差し向けられなければ、それでいい。
「後始末はいいよ。それよりこう……しんどかった」
「認めるのは業腹だが、掛け値なしに、強かったな」
「うん」
力が、とかじゃない。
とにかく結晶を支配下においた、あれがすごい。
当たり前だが、普通死んでる。ボクらだってそうだ。
精神力程度でどうにかなるものなら、ボクとストックはコンクパールで死んでない。
何がきっかけでそうなったのかは知らないが。
偽物は、確かに矜持を見せた。
アリサやギンナを思わせるような、不可能を覆す、戦士になっていた。
再戦とか、できれば勘弁願いたい。
ボクは戦いなんて好きじゃないし、これっぽっちも強くないんだ。
やめてくんないかなぁ。だめかなぁ。
ああいや、そうじゃない。違うんだよストック。
「強かったけど、しんどかったのはそっちじゃなくってね」
「うん?」
立ち上がる。
ストックも、ゆっくりと立った。
その身を、抱きしめる。
ごめん。もうむり。
「お、はい、でぃ?」
言葉が出ない。
怖かった。
君が、失われるところだったのが。
「ハイディ……」
ボクを抱きしめ返す彼女の暖かさに。
身の震えが、止まらない。
…………けど。
これは、喜びの震えでもある。
振り絞った勇気の、反動でもある。
やっと必要なとき、君のそばにいられた。
君のために、力を尽くせた。
結局助けられちゃったけど、それはいいや。
三年経って、今更だけど。
ボクはやっと、胸を張って。
君の相棒を名乗れる気がするよ。ストック。
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