21-8.同。~その名は人。完成された魔~
~~~~さぁ。王国の失われた王女の魔法、見せてやろう。
ってかこれ、かなり目線高い。高くない?
前の時間でも、ボクこんな身長高くなかったからな……。
たぶん、カレンくらい?高くて落ち着かねぇな。
『これ、は』
『ストックはちょっと休んでて』
彼女は片膝をついた姿勢のまま、動けていない。
ごめんね。たぶん……君はまだ、動かせないと思うんだ。
テストもできなかったから、ぶっつけ本番だったしね。
でも、この姿に変われば、傷は治る。
呪文の力の変身と一緒だ。
『どいつもこいつも……』
人型の結晶が、苛立たしげに床を蹴り込んでいる。
『ふざけやがって!
ふざけやがって!
ふざけやがって!』
床が思いっきり抉れていくが、止める気配がない。
『あの爺も!
石を入れやがった奴らも!
人を弄りまわした奴らも!
貴族も!愚民も!使用人共も!!』
結晶越しで目は見えないが……なぜだろう。
その目が見ているのが、現実ではないように、見える。
ぶれた時間を、見ているように、見える。
『俺を殺したあの予備品女も!!!!
この俺を!タトルとか、亀とか!』
……やっぱりだ。
こいつは「ストック」を、知らないはずだ。
殺したとか、混濁するのもいいところだ。
おそらくこいつ自身は『再生の炎』の効果で、結晶化しても生きてられている。
先ほど見せた魔導は、間違いなくストックが幾度も使っている、アレだ。
だが、ここまで圧縮され、鎧どころか布のような質感の結晶は尋常ではない。
これを実現した影響は……むしろ、内臓に出ているのではなかろうか。
例えば、脳とかに。
こいつ自身は方法は間違えようとも、大真面目に生きてきたに、違いないのに。
……下種め。ふざけたことをしやがって。
『おい、ディック』
亀と呼ばれて怒った男が、動きを止めた。
『覚えていないかもしれないし、姿が全然違うが。
ボクは三年前、お前を蹴り飛ばした女だ』
ゆっくりと、ディックがこちらを見る。
……結晶越しの目に、不思議な光があるのを、感じる。
『覚えている。忘れもしない』
拳を握り締め、構える。
明らかに、人の動き。
『偽物の矜持を。叩きこんでくれる』
その姿が霞む。
真っ直ぐに突きこんできたのが見えたので。
正面から、受けた。
よぅし。びくともしない。
『……』
その拳が、燃え盛る。
ボクの全身が燃え上がり――炎は、すぐに掻き消えた。
蹴り飛ばす。
『ぐっ』
20mくらい飛んで行った。
が……やはり硬いな。結晶は砕けなかった。
では、ちゃんと力を出して、お相手するとしよう。
サルベーションコールのphase3は、あまり意味がない。
2をそのまま進めた形なので、魔力流の出力が大きくなってくれるだけ。
魔導拡大を乗せれば、規模が膨れ上がりはするが、根本的な使い勝手は変化がない。
しかしビリオンについてはなぜか、機能は乗せたのにphase2までしか起動しなかった。
アウラとの対話でわかったが、phase2の時点でこの子に制御が渡っていた。
そしてphase3は、精霊アウラの力を、最大限に発揮させるキーになっていた。
サルベーションコールは、神器本来の力・魔力流そのものを強化する超過駆動。
魔力流とは、魔素でも、魔力でも、魔導でもない。
魔導の先。精霊魔法でいうならば、精霊の起こす奇跡そのもの。
濃密な魔力流を実現する、サルベーションコールのphase3行きついた先は。
精霊アウラの、権能強化。
その存在を、三節忌み名の精霊王に並ぶほどに――強くする。
その代わり、この子の認証を通らないとphase3は起動しない。
精霊アウラの認めた二人の契約者が、魔力をもって精霊に認識されること――それが条件だ。
あの腕輪が、ある種の目印になっている。
最初からストックに教えてやっとくんだった。
おかげでいらんピンチを招いた。油断はいかんな。
その上、精霊がめっちゃ強くなってはいるが、契約者側のボクの方がよわっちぃ。
魔法使いとしては、初心者もいいところだ。
だから出せる力は、ここまで。
━━━━『ウィスタリア・アウローラ』。
今完全に失われ、霊となった役の名が、響き渡る。
我が身が、二節忌み名の精霊の力を、得る。
最大限の発露ではなくとも。
アウラはボクを、完全に押し上げてくれる。
これは。この姿は。
完成された魔物、そのものだ。
次の投稿に続きます。




