21-7.同。~その前で、立ち上がる救世の獣~
~~~~みんな、ありがとう。おかげで……大事なものを、守れたよ。
……………………。
どうやって動いたのか、自分でもわからない。
いつの間にか、殴り飛ばされたストックの体を受け止め、壁に激突していた。
背中いてぇ。右の肩や拳は感覚そのものがない。まだ繋がってはいるけど。
ストックは……息は、ある。よかった。
遠くに見える奴は、痺れて動けないのが見て取れる。
なんとか結晶を破壊し、殴られる瞬間。
まず露出した辺りに髪を絡め、そこからありったけの電撃を流しこんだ。
結晶はとんでもないが、中身は人間だ。
けど、流してすぐは止まらなかったあたり、人間辞めてる。
いや、痺れたから狙いがそれたのか?
ストックは左肩が砕かれてるけど……他は無事だ。
今のうちだ。
右手は……まったく動かないな。
左手首を太もも辺りに当て、なんとか腕輪を回す。
「『涅槃の彼方より、来たれ』……」
中空にまだらの空間が現れる。
中から、黒い神器車が飛び出してきた。
追加装甲がすべて展開され、濃い魔力流を纏っている。
ぐったりしたストックを抱え、運転席に乗り込み、扉を閉める。
ストックを助手席に座らせる。
……意識も、もうろうとしているようだ。くそっ。
しかも、自分もそうだが傷口に、赤い熱のような、炎のような何かがある。
あいつの魔導か?徐々に浸透してる??
いかん、急がなくては。
砕けた右拳を、なんとかキーボックスに押し付ける。
「『涅槃の 獣よ。立て』!!」
外装の魔力流が、黒い四つ足の獣になった。
『ハイディ』
「アウラ、しばらく逃げ回ってて。
あいつたぶん、炎の魔導も使ってくる」
『ワカッタ』
検証してわかったが、phase2ならアウラはかなりビリオンを動かせた。
魔導が直撃すると危ないが、防御魔術の展開までできる。
今のこの子になら、任せれるはずだ。
『っざけるなガキがぁ!!!!』
人型の結晶から、爆発的に炎が巻き起こり、飛び立つ。
こちらに向かってくるそれを、黒い獣が跳ねて交わす。
炎の鳥が、二羽、三羽と増えて、避けてもなお向かってくる。
アウラごめん、がんばって!
「ストック、ストック!返事をしろ」
ストックの目の焦点が、合っていない。
身を乗り出し、ストックの右肩を、無事な左手でやさしく揺する。
「腕輪を回せ、ストック!!」
声に反応はしているが、体に力が入らないようだ。
何か……何かないかっ。
ふと、ストックの右肩に触れていた、自分の指先が目に入った。
……魔素はまだ、戻ってきていない。
向き直り。深く息をし。
ストックの胸の中央、中丹田をそっと点く。
できる、はずだ。魔素を乱せるなら。
これで、人を癒すことも!
「――――がはっ。はぁ、はい、でぃ?」
よし!
「ストック、右手の腕輪を回せ!」
君が自分で回さないと、認証が通らないんだ!
ストックは左手を動かそうとして――動かないのを知り。
右手首を膝につけ、なんとか腕輪を回した。
車内が暑くなってきた。
外に炎が多数展開されている。余裕がない。
だが、間に合った!
「『救世の 獣よ。立って』――――」
運転席に座り直し。
遠くの、結晶を――三年前に対峙した敵を、見据える。
「『進め』!!」
車体が、ボクとストックの間で真っ二つに分かれる。
『ハイディ、ストック』
精霊の体が姿を変え、ボクら二人の身を覆った。
『フタリニ、チカラヲ』
神器車が消え、床に二人、残される。
奴の魔導の無数の炎が、ボクらに襲い掛かる。
だがその炎は、瞬く間に黒い何かに飲み込まれた。
残火の中、黒い、人型の、体になる。
全身が、結晶とも異なる、何かに覆われている。
どちらかといえば、エルピスやビリオンの、滑らかな曲面に近い。
深く、息をする。
気合を入れる。
ボクの紫藤の魔素よ。もうひと働き、してもらうぞ。
空気中に散らばっていたそれが、その体の、あるいは鎧に凝集する。
赤紫の光のラインが体中に走り。
瞳にあたる部分にも、灯った。
ゆっくりと、立ち上がる。
……よし。
人型の結晶――強大な敵を見据える。
待たせたな。戦闘開始だ。
次の投稿に続きます。




