21-6.同。~そこにいたのは……宿敵~
~~~~おおぅ。ここで再会……初顔合わせとは。久しぶり、アっさん。相変わらず、頼りになる。
柱の中に入る。
構造は、先ほど非常口から降りたところとほぼ同様だ。
壁付けにされた階段、通路、また階段……と上まで続く。
「まだ大丈夫か?ハイディ」
もう二回、スマッシュを打った。
魔素は元よりむしろ増えているが、正直くらくらする。
ちょっと短時間に連発しすぎた。
「三回目は、止めたほうがいいと思う」
「わかった。ついてこい」
ストックもアリサに続いて跳ぶ。
幸いにも、ここの兵の数は多くない。
しかも一番上まで行って扉から柱を出れば、そこがエネルギー炉だ。
元はもっと複雑な構造だったはずだが、工場にするにあたってかなり取り払われたらしい。
袖を咥え、もう一度雷獣を起動。
少しゆっくり目に、ストックの後に続く。
アリサは魔導師の防御魔術を殴って破壊し、術師を的確に昏倒させているようだ。
魔力や魔素に致命打を与える、ギンナの不思議な力でもなく。
ボクの点きとも違う。
力づくの……『揺り籠から墓場まで3』悪役令嬢ナズナ・リングの破壊の力。
ストックはあれを相手に、どうやって五体満足で立ち回ってたんだろう?
クラソーは思いっきり負傷してたのに。
アリサの打ち漏らしは、ストックが昏倒させているようで、ボクは楽に上に跳び上がれる。
外の階段と同じくらい跳び上がって……最上の踊り場までついた。
まだ、下には倒せていないやつらがいて、こちらに魔導を打ち込んでくる。
「アリサ、ここ死守しといてくれる?
勘だけど。先が大変なんだ。
扉の前には立たないで。
ここがボクらが声をかけずに開いたら、逃げて」
「…………わかった」
「『ここは任せて先に行け!』ってやつね」
どこで聞いたそんなの、と思ったが。
そういやこの子もゲーム知ってる勢だったか。
扉のドアノブを回し、ストックと二人、中に入る。
だだっ広い部屋だ。
まぁ広いといっても、数km四方に及ぶドックに比べりゃずっと狭いが。
天井までは5mほど。空間は……ちょっと明りが少ないし、目視だと推し量りにくいな。
km単位はないと思うが。
エネルギー炉自体はここの一番奥で、遠めにその姿が見える。
丸い巨大な緑の結晶を抱いた柱だ。
近づくと結構大きいはずなんだけどね。
そちらの方向。50mくらいの距離に、何かいる。
胡坐をかいていたそいつが、立った。
非常に暗い緑の、結晶……人型の。
クラソーじゃ、ない。
しかも、彼よりずっと結晶が、薄い。
まずい。
『やっと来たか。遅かったな』
くぐもっているけど、ちょっと覚えのある声がした。
しかもこの背丈。
もしや。
「その声、亀か」
あっ、ストック!刺激しちゃだめだ!
くそ、油断した!
『あ”ぁ”?』
その声を聞いた刹那、恐ろしさに身が竦みそうになった。
彼女が失われると、強い直感が駆け巡る。
結晶の姿が霞んだ。
――――っ。怖いなら、前へ進め!
しっかりしろ、ハイディ!
今こそ!一瞬の勇気を振り絞れ!!
三度目だが……全力だ!もってけ!
ボクは頭の中の引き金を引いて、全ての魔素を解き放つ!
黒い瞳に、ゆっくりになった世界が映る。
すでにストックの目前に、結晶の拳が迫っていた。
くそっ、ストックはまったく気が付いていない!カバーに入る!
ボクはストックと拳の間になんとか身を滑り込ませ、すべての力を練り上げる。
空間に散っていく魔素が、濃厚な輝きを放つ。
『負けないで!』『踏ん張り時だぞ!』
『頑張ってください!』『凌ぎなさい!』
『あなたならできる!』『死なないで!』
『『『『『『ハイディ!!』』』』』』
どこかから、頭の中に友の声が届く。
あらん限りの力を使い、猛然と拳に拳を叩きこみ続ける。
髪を伸ばし、蹴りを放ち、雷光を発し、点いて打って殴る!
拳の軌道を逸らす……よし!
そのまま結晶を……砕け
「ぎゃん!?」
拳を振り抜かれた。止めきれなかった。
猛烈な勢いで、後方へ吹っ飛ばされる。
ストックの横をかすめ、一気に離されていく。
彼女がこちらを振り返ろうとしているのが、見える。
奴の左の拳が、ストックに迫っていく。
血が、沸き立つ。
世界が赤くなるのを、感じた。
次の投稿に続きます。




