21-4.同。~潜入即会敵。状況、開始~
~~~~あんな面倒な作りにしなくてもいいのに。特に後付けの非常階段。
扉はそう大きくはないが、まぁ単車で侵入できるくらいではある。
この先の構造を思い浮かべる。
この向こうは、一辺10mほどの広さのある空間が下まで伸びている。
今と同じような階段と、同材質の通路で形成された、広めの非常階段だ。
嫌に空間が広いのは、現役の頃の設備の名残と思われる。
階段を下りきったところ、向かって左側に扉があり、そこからドックの空間に出られる。
扉からドックの床までは、同じような鋼の階段が伸びている。
単車は結構音を立てているし……そうだな。ここは先手を打つか。
体の魔素をゆっくりと解き放ち――少しずつ、扉の向こうへ。
自分の中が空っぽになるころには中をある程度満たし、状況がわかるようになった。
……モザイク兵だ。
扉のすぐ向こうにはいないが、階段や通路に多数いる。
いずれも魔導師と考えたほうがいいだろう。
これは……また本人が直にやってったクチかな。
ボクらのロザリオやブローチは、もうすべて砕いてある。
今しているのは、別に作ったただのアクセサリーだ。
いや、してないと落ち着かなくて。
連邦のメリー・ジュピター王女、帝国のエンヴィー・クレードル皇女の方も手配はしている。
もちろんそちらは時間がかかるが……さすがに幼児を連れて来たとは、考えにくい。
もっと容易な可能性として。『揺り籠から墓場まで2』の神主・西宮が来たと見るべきだろう。
そうして『アーカイブ』の力で、過去の襲撃を再現したのだろうな。
本人はさすがに、これまでの行動からしてもう現場にはいないだろうが。
そしてこの場合、モザイク兵以外の「主犯」の存在も警戒せねばならないだろう。
中はほんのりと明るいようだ。
非常用ではない、通常の照明がつけられているとみられる。
エネルギー炉は無事だな。
すぐ下の踊り場まで単車がやってきたので、手のひらを向けて、押しとどめる。
「マリエッタ、後ろにも伝えて。
モザイク兵だ。基本的に、殺しちゃだめだから。連邦の人だ」
マリエッタとエイミーが頷く。
「ここの扉は封鎖されてない。
ボクが先に突入する。マリエッタ、後詰めを頼む」
『わかりました』
彼女の返事を聞き……息を整え。
身を低くしてドアノブを回し、扉を引く。
一気に引ききって、扉が閉じないようにした上で、中へ駆け込む。
すぐ手すり。左には下りの階段。
ボクは迷うことなく、手すりに乗って、上に跳び上がった。
天井に届いたので、足をつけ、下方を向く。
「『星 空 よ』」
空間に満ちるボクの魔素と魔素の間が、藤蔓のように結ばれた。
多数のモザイク兵を、その中に捉える。
両足に、力を籠める。
「『紫藤に 輝け 』!!」
下層に向けて飛び立ちながら、人を点いて倒し、魔導を点いて破壊する。
階段の、通路の間を跳ねまわりながら……床まで到達。
幾人か、倒すと下に落ちそうで、仕留められなかった。
殺しちゃいかんからなぁ。面倒だこと。
『怪鳥 の 軍勢ああああああ!!』
上から声がしたので、中央から退いて、階段の影に隠れる。
遅れて、単車が落ちて来た。
……ここまでノンストップで来たの?
まぁ、着地の魔力流の吹かせ方は完璧だった。
衝撃なんか、まったくなかっただろう。
いい腕だな。
上を見上げると、白い怪鳥?小鳥?が飛び回って、残敵に襲い掛かっていた。
「fire」とは言うが、火に限った魔導ではないので、いろいろ使えるように式を書き換えてある。
あれは単純な氷結等ではなく、捕縛用の薬剤だ。
次々と、モザイク兵が手足を囚われ、手すりや床に括りつけられていく。
当のエイミーはマリエッタの後ろでヘルメットをとり、吐きそうな顔で荒い息をしてるが、制御は完璧だな。
敵が片付いたのを確認したのか、ストック、ダリアを抱えたマリー、マドカを背負ったアリサが降りて来た。
「次はそこの扉だ。
ただこの先は空間が広い。
ボクの技だとカバーしきれない」
『では、私が先陣を切ります。
後詰めをお願いできますか?
サ……いえ。ダリア』
「いいわよ、マリエッタ。ここからは私たちの仕事ね」
二人が頷き合うのをしり目に、エイミーが一生懸命息を整えている。
「ふぅ~~……よし、いけるわ」
エイミーがヘルメットをかぶり直し、またマリエッタにしがみついた。
ボクは袖を咥えて息をし、雷獣を起動してフォローの準備をしておく。
ストックが扉のノブを掴んで捻り……引いて開けて、道を譲った。
単車が勢いよく飛び出していき、後にダリアを抱えたマリーが続く。
ボクも続く。様子を伺いつつ、身を低くして扉の向こうへ。
階段をほどほどの速度で駆け降りつつ、ドックの状況を確認する。
非常階段と同様、中は明るい。
こちらから見て、奥の方にパンドラが鎮座している。
見てるとスケール感がバグってくるが、10mほど下の床には多数の人が。
……階段の伸びる方向正面、隅にあるシャッターの制御盤付近の壁に、数人。
姿に覚えのある人たち。
無数のモザイク兵の魔導師たち。
その中を駆けまわる単車が……あれ、二台いる。
次の投稿に続きます。




