21-2.同。~過去の遺物が不穏に佇む~
~~~~広まっていやしないだろうな?へたれ呼び。本人が気にして治しちゃうから、自重してほしい。
「過去の例を三つほど知っているけど、いずれも自然妊娠されたそうよ。
方法は知らないけどね?
あと、アウラの方は分からないわ」
「そっちは誰に聞いてもわからないでしょうから、当のアウラと対話を進めます。
まぁそれ以前に、人間側の都合をどうにかしないといけないですが」
「でしょうね。あなたを王家に戻す前に、公爵にしてしまうのが早いでしょう」
「ふぁ!?」
気づかれないと思っていたのか妹よ。
この人も長く貴族社会にいる人なんだから、アウラが出た時点でわかるって。
「アウラがボクの声に応える」のだから、契約が成っているのも察しがつくだろう。
「戻してからだと、やっぱり契約が面倒ですか。
孤児の平民が精霊にたまたま見初められた、のほうが楽と」
「ええ。その上で、王家の追認という形で公爵位を授けるの。
王国の公爵は、コンクパールとか特殊な家向けだから、それが通るわ」
「で、ストックを公爵にする場合は、とても手間がかかる。
現在存在しない貴族家に、養子入りさせることになるから」
「そうよ。だから、まずあなたで家を再興させ、それから嫁入りね」
「む。私が嫁か」
「婿入りとは言わんやろ?気持ち的には、ボクが嫁で合ってるけど」
「どのみち私は、ロイドからは出なければならない身。
ならその方が自然か」
ストックは魔力がないから、普通には精霊と契約できない。
だから、王国の貴族の家は継げないし、興せないんだよね。
アウラは車両契約経由でそれを行ったのか、事情が特殊なようだ。
「ご挨拶先とかは、特に変わらんけどね」
「そうだな」
スノーがあわあわしている。
「スノー」
「はいあねうえ」
「ちゃんと相談しようね。みんな君の味方だから」
「ぁ……はい」
んむ。素直で大変結構。
「では早速相談なんですが、姉上」
「なんだね妹よ」
「エルピスを止めましょう。前方をご覧ください」
んん?
とりあえず速度を落としつつ、前を……。
「建造場のドックが、全部閉まってる」
「今は試験中の時期だったのでは?」
「うん。外にも出したりするから、昼間に閉めとくのはないね。
『緊急事態につき招集。制御室に来られたし』」
艦内に放送を流しつつ、軌道変更。
ちょっと岩場の影になるようにしつつ、舟を進ませる。
三人が操舵室から上がったので、ボクもそれに続いた。
エリアル様がすでにいた。
ほどなく、マリー、ダリア、マドカとアリサ、エイミーにマリエッタがやってきた。
船首側の壁に状況を映す。
「まずいわね……」
ダリアがすぐに気づいた。
マリーもその隣で、険しい顔をしている。
「今作業中、のはずですよね?」
「うん、そう」
「皆の者、聞いてほしい」
スノーが前に出た。
「王国所属の神器船、パンドラの建造場に、異変が見られる。
同神器船エルピスの設備および人員をもって、これを速やかに明らかにしたい。
建造場の人員、資産が脅かされている場合は、原因を迅速に排除。
ビオラ」
「はい。
まだ正式に入ってない子もいるけど、全員パンドラ所属の者として従ってほしいわ。
そこはいいわね?」
マドカとアリサ、エイミーとマリエッタが頷く。
「結構。私とスノーは、万が一のためにエルピスで待機。
火急の事態に備えます。
エリアル、補佐して頂戴」
エリアル様が静かに礼をとり、ビオラ様の背後に控える。
まぁ……この人の場合、突入班に入れても当然に役割があるけど、制圧が苦手だ。
一度聞いたことがあるけど「意識を斬る」みたいな真似はできないらしい。
あくまで表出している物体や、エネルギーを斬り落とすとのこと。
素手も普通に使えるが、注意してないと切っちゃうとか言っていた。
それはだいぶ危ない。ミマスでは危なかったのでは??
通りで、この人がいる割には手こずっていたわけだよ。
実力通りなら、スノーとエリアル様の二人で、人さらいはあっという間に片付いたはずだ。
一方で、ヒーターゲーターの迎撃は見事なものだった。
もし事件再現……モザイク兵の仕業である場合。
中にいるのは、連邦人やそもそもドックで働いている人たちだ。
エリアル様にやってもらうと、大変なことになってしまう。
加減の効きやすい、素手や魔導を得物とする者たちでやるべきだろう。
「他、全員で建造場に向かって頂戴。
現場指揮は、ハイディ」
「承りました。ストック?」
「まず、あの神器船工場の構造を確認したい」
よし来た。
「進入経路だね?
シャッターが下りている場合、脇についている非常階段からまず登る。
上層付近についてる、メンテ用の入り口から入るしかないんだ。
入り口自体にはキーはないから、入るのは容易だ。
入ると下まで続く階段があるだけ。
非常階段と入り口は計四か所あるけど、どこでも下層のドックまで出られる。
むしろ、そこにしか出られない。
おすすめは北側についてるとこだね」
本来はもっと出入口ついてたんだけど、だいたいが機能喪失している。
工場になってからつけられた、常に出入りできるところが四か所だ。
しかしこの入り口、面倒なんだよねぇ。
なんで20mくらい登って、また中で下らなきゃいけないんだろう。
次の投稿に続きます。




