21.連邦最北、イアベトゥス郊外。神器船建造場。再戦。
――――怖くとも。前へ。
あれから。
補給の積み込みも済んで、無事出港と相成った。
首都イスターンを離れ、連邦最北の街イアベトゥスへエルピスを走らせる。
ただ街には直接行かず、さらに北の郊外のパンドラ建造場に寄ることになっている。
イアベトゥスそばにエルピス停めるくらいなら、建造場直行したほうが楽だしね。
建造場に停めた上で、神器車で街まで行けばよか。
今は昼下がり。すでに遠めにその建造場が見えてきた。
ここの神器船建造場は、中型までを建造するために、古い聖域を利用している。
第三世代設計の聖域で、この頃は逆三角錐の形ではない。
長方体型なのだ。それゆえ、こうした再利用がしやすい。
第四世代以降は、壊れたらもう横倒しだからね……。
誰だろうね、あんなデザイン考えたの。
見えてはいるがもう少しかかるので、エルピスを建造場に向けて進ませながら、だらだらと過ごす。
助手席のストックは――ここのところの習慣なのか、また録音の青い腕輪を弄っているようだ。
後部席にはスノーとビオラ様。
操舵できる人間が三人そろっているわけだが、今動かしているのは運転席のボクだ。
雰囲気のために操舵室は制御室下にしてるけど。
こうして過ごすには、ちょっと不便かなぁ。
位置はここでいいけど、もうちょっと過ごしやすいように考えようかしら。
向こうについたら下層のドックに舟を入れさせてもらって。
それからお昼にでもしようかね。
そういえばビオラ様が集めたクルー、もう来てるんだろうか?
ボクの運転の師匠のアっさんとか、いるかな。
ゴージさんとダッジさんの兄弟とか。
貴族で細々とした政治が得意なモブリンさん。
経理畑のゴズロウさん。法務で駆けずり回っていたオージルさん。
クレッセント黎明期の人たちなら、この辺を中心に10人くらいかなぁ。
前は少人数ゆえ、特に航行始めた頃はひーひーいいながら運営してたけど。
今度のはそもそも航行には人数が必要ない。
前も船自体を動かすのは神主一人だったが、それ以外にたくさんの手間が必要だった。
何せ、最初から魔境航行を想定した船ではない。
機能が足りてないし、簡単に壊れるし、艦内設備も不足していた。
今回はその辺を鑑みて、豊富な魔力を前提に、いろいろ仕込んである。
しかも、後からの追加も容易だ。設備変更すら簡単にできる。
聖域クラスの予算とエネルギーで、中型用のデザインをしたので、快適さマシマシだ。
パンドラでは、のびのびと活動することができるだろう。
「ちょっとスノー、なんかハイディとストック、様子が変なんだけど」
「私は何も…………いや。お前が何とかしろ、上司」
「無茶ぶり!?」
小声で喋っても聞こえてっから。所長と妹。
しかし変……変かねぇ。
確かにいつもより、ちょっとこう雰囲気がしっとりしてるというか。
湿度お高めというか。
そんな感じかもしれないけどね?
別にぎくしゃくしてるとかはない。
「なるほど。
そっちが普通なのは、まだ何の相談もしてないからだね?スノー」
「ほぐっ!?」
少し振り向くと、何かスノーが抉られたような顔をしている。
ビオラ様が、横からスノーをめっちゃ見てる。
「わたわわわわわたしたしたちには!
まだはやいというかなんというかそういう感じで!」
「こっちだって早いわボケェ。でも……」
ストックの方に、手を伸ばす。
彼女がボクの手をとって、指を絡める。
「ストックは話したら、ちゃんと答えてくれたよ?」
「お”!?
…………ストック、あなたやるわね。
正直へたれだと思っていた。見直したわ」
お前もか、妹よ。
「どこかと思ったら、やはりお前の差し金か。スノー。
だがいい話ができた。ありがとう」
「どういたしまして!?」
「スノー…………」
ビオラ様がスノーににじり寄ってる。
「ひゃい!」
「かわいらしい……」
「ひゃい!?」
訝しんでるのかと思ったら、愛で始めた。
高度な趣味だな所長。
「ビオラ様。スノーは確証がないから、まだ話したくないんだと思うんです。
でもボクは、あなたの方が詳しいんじゃないかと思って」
「王と王妃が同性同士の場合、次代はどうなってるか、ね?」
「そうです」
「バレバレ!?」
この流れでばれないと思ったのか妹よ。
たぶん、ビオラ様は最初からわかってて振ってるぞ。
君は一度、引いてみたそうじゃないか。
それが普通に戻ったんだから、誰かに相談したに決まってる。
あとは大事そうな話で、早いだの早くないだの言ったら、内容は絞られる。
特にこの二人の場合は、婚約や成婚事態に特に問題はない。
精霊の後押しがあるからね。
その上で、我々二人と共通していることはといえば、そのくらいだろう。
次の投稿に続きます。
#本話は計10回(約18000字)の投稿です。




