20-10.同。~君の求めに、未来が恋しくなる~
~~~~君は良い淑女になりそうだね、マドカ。
メンテナンスや補充も兼ねて。
夜は、エルピスで過ごすことにした。
次の出港は、当初6人に加えて、さらに5人追加。
各人に部屋を用意したら、追加のものたちも喜んで船内泊に切り替えた。
ダリアとかマリーは、そこに普段過ごしてるうちがあるんやないの??
……正直この11人の中だと、実はマリエッタは帰ってもいいんだけどね。
実家がこの国にあるわけだし、パンドラ受け取りに何か目的があるわけでもない。
だが、就職を志望されてしまったからなぁ。
一度は国元に戻って相談してもらった方がいいが。
これはまぁ、面倒見ることになるのかな。
ふふ。何か急に、大所帯になったものだ。
マドカとアリサも、さっきの茶の席で希望された。
ボクの元で働きたいんだと。
嬉しい限りだが、条件を出した。それは、学園に通うこと。
せっかくだから、しっかり勉強してもらう。
彼女たちは、もっともっと伸びる。
礼の飲み込みも早そうだった。ぜひ一流の淑女になってほしい。
「あとはこの国の半分を渡って、それでこの旅も終わりか」
髪を拭かれてるストックが、静かに言う。
ストックと二人。部屋で、入浴を終えて、就寝準備中だ。
思わず日数を指折り、数えて。
「あれ?もうしばらくここで滞在してもよくない?
今向こういっても、受け取り出来ないよ??」
そのまま出港の気だったけど、ちょっと余裕がありすぎる。
パンドラの試験、まだ始まってもいない。
こっちも手伝うけど、その段階にゃ早すぎる。
「ならイアベトゥス観光といこう。
あそこ、結局ほとんど行ってないだろ?」
「あー……イスターンばっかだったか。
建造始まる前までだったもんね、イアベトゥス行ったの」
連邦との共同開発、という触れ込みだったから、建造設備の下見に行ったのだ。
過去の聖域を利用した施設だが、結構圧巻だった。
「そこでゆっくり過ごせばいいさ。
北だから、油麺が盛んだったか?」
「そうだね。まだ暑いけど、それもいいね。
最近じゃ、冷もあるらしいし」
「油麺のか?」
「うん、何種類かあるって、マリエッタが」
「それは楽しみだな。
しばらく連邦にも来ないだろうから、しっかり食べておこう」
「そうだね。でも麺や米自体は、また食べられるよ?」
「……農地、そこからにするのか?」
そりゃあもちろん。
割とボクらの間では人気だ。
芋と豆が不人気というわけではないんだが。
ボクとしても、欠食令嬢どもを早めに黙らせられるので、魅力的な選択肢になる。
何で芋の山盛りじゃ納得しねーんだろうか。うまいのに。
あと、作らないと連邦の麺屋を誘致できない。はよ進めたい。
「いろいろ作って、データとらないとだからね。
また作ってあげる」
「……それは楽しみだ」
よし、だいぶ水気は取れて来たな。
次はボクだけど……その前に。
そっと、彼女の頭を抱える。
ストックはベッド隅に座ってるので、ボクのみぞおちくらいに頭が来る。
「……どうした?ハイディ」
「ねぇストック」
少し、彼女が上を見る。
俯いて、目を覗き込む。
赤い光が、重なる。
「赤ちゃん、ほしい?」
ストックがすげー勢いで吹いた。
めっちゃむせてる。
あ、俯いて咳き込んでる。こりゃいかん。
そっと背中を撫でる。手を伸ばして、サイドテーブルからボトルをとって。
蓋を開けて、彼女の手に持たせる。
少し落ち着いたストックが、中身をあおる。
「――――っはぁ。ハイディ、今のは」
「何も考えずに、とりあえず答えてほしいかな?」
ストックが息を整えて、真っ直ぐにボクを見た。
「ほしい。お前と、私の子が」
「ん」
「まぁその」
そこで照れるんかい。
「養子でもいい。ずっと二人でもいいしな。気楽にやろう」
ちゃんと真に受けてくれてるところは、えらいぞ?ストック。
しかもその照れ方はあれだな?
自分が産む発想はなくて、めっちゃボクを孕ませる気だなー?
ストックのえっち。
彼女の隣に座り、髪に巻いたタオルをとる。
ストックが布を取りに立ち、彼女の熱の残るところに、座りなおす。
待っていると、髪に布を当てられた。
少し熱が増し、汗がにじむのを感じる。
空調は、効かせてるんだけど。
……いかんなぁ、これ。
とても見せられない顔になってる。
どうでもいいやって思ってたのに、なんでこんなに嬉しいんだろう。
君と二人でいいと思ってるのも、確かなのに。
いや、子ども自体を欲しく思ってるわけでは、たぶん、ない。
まだそんなにそのこと自体が、ボクに近くない、というか。
今までの人生から、ちょっと遠くて。
でも、君の子を授かるというのは、その。
魅力が、大きい。
自分の、執着というか。執念というか。
そういうものが、とても強くなるのを、感じる。
あ、しまった。
プロポーズより先は、よくなかったかな?
ひょっとしたらストック、今そうするつもりだったんじゃないか?
ストックが間が悪くて、機会が潰れるのは、まぁしょうがない。
ちゃんと、最後に何が何でも機会は作る気だし、いいんだ。
でもボクが潰しては悪い。
「ごめんね、もうちょっと待ってから聞いた方がよかったかな?」
「…………私がへたれなせいだろうに」
「ぷ。また言われたの?」
「言われた。ぐぅの音も出ない」
マリーめ。
あまり言って、ストックがそこ矯正しちゃったらどうするんだよ。
「ボクは――そこがたまらないのに」
「いやいや。さすがにそれはどうなんだ」
「ストックは間が悪いだけじゃないか。
いつも配慮して、準備して、ちゃんと機会を作ってる。
それが外的要因で潰されるだけ。
確かに、そこをおして敢行しないのは、意気地がないと言われるかもしれないね?
でもボクはね、ストック」
彼女が布を持つ手に、手をそっと重ねる。
「君が、何度失敗してもあきらめないのを知っている。
だからつい呑気に、またこのドキドキを味わえるって、期待してるんだよ。
もっとしてもらえるんだって、喜んでるんだ。
ちょっと欲張りかな?」
ストックのもう一方の手が、ボクの頬を、耳を撫でる。
ん。耳たぶ弄ぶなし。そういうのはまだ早いと思う。歳思い出せ。
…………自分がたまにストックにやってる点は、この際忘れる。
「もっと欲張ってもらってもいいくらいだが……。
私は、それに甘えてはいかんな。
この旅が終わった後、国王陛下と、王妃殿下にお会いしに行く。
新しい王都で」
「……うん」
「それまでに必ず、果たそう」
「うん」
耳をいじる手に頬を擦り付けるように、顔を上げる。
「んー。今はもう、ないの?」
「さっきので、打ち止めだ」
そりゃそうか。
もっとすごいこと、言っちゃったもんな。
ボクの問いに、真っ直ぐ答えてくれたもんな。
ならばボクもしかと、答えねばなるまい。
「ストック」
「ハイディ?」
「ちゃんと産んであげるからね」
いや、そこでめっちゃ吹くのはどうなの?ストック。
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