20-9.同。~そして閃光はつながった~
~~~~影響力が大きくなってる。まだ遠いが……いずれあれと、邂逅するのか。
マドカが席を立った。
ボクとアリサが見る前で、マドカが腕を振りながら熱く言葉を発する。
「あんな未来に帰っても!私たちは一緒にいられないの!
私とアリサが傍にいられるのは、ここしかないのよ!!」
「マドカ……」
ボクの頭には、3の展開はほとんど入ってないから、詳細はわからない。
けどまぁ、あのゲームのヒロインと悪役令嬢だからな。
1を踏襲するなら、最後は刺し違えるのだろう。
マドカが、目に涙を溜めながら、拳を握り、上を見上げる。
「私が……私が!あんなの、ぶっ飛ばして!」
会って数日。
最初なら「アリサやっちゃえ!」だったはずの、この子が。
もう、自分の矜持を持って立っている。
ただ大人に振り回されるだけだった、マドカが。
「……私、許されないことを、するところだった。
ハイディたちが、止めてくれなかったら、大変なことに、なってた。
マリエッタも、エイミーも、許して、くれたけど。
私は、私が、許せない。
アリサは気を付けてって言ってくれたのに、悪い大人を信じてだまされたのも。
ご飯くれるからって、怪しいのに見ないふりしてたのも」
そうか。
そんなに、困窮してたんだね。
君たち、結構食べるもんね?
きっとアリサが、とてもおなかを空かせて、我慢していたんだね。
それを……いいように利用しやがったのか。奴らは。
こんなに素直で、聡明な子を。
「何よりも!」
髪を振り乱し。泣きじゃくり。
マドカはそれでも。
前を見た。
「役を被せることを!軽く考えてた私を許せない!
みんな生きてるのよ!?何がゲームよ!!
ふざけんじゃないわよ!!」
彼女が、足を踏みしめた。
思ったより、大きな音が響き渡る。
「よりにもよって!それをハイディにしろっていうの!?
この人はハイディよ!ウィスタリアじゃないわよ!
全然違うじゃないの!!元になんて戻らないわよ!!!」
そんなにかなぁ?
でも指さすのは今度改めようね。
「ヒロインなんて!私みたいにぼーっとしてて!
かわいいのを取り得に、色恋沙汰に現を抜かして!
そんな普通の女が!」
マドカ、テンション上がってきたのか、思いっきり息を吸ってる。
「地獄の底から戻ってきたみたいな顔してるハイディと!
一緒なわけ!!
ないでしょうが!!!」
「ボクはそんな悪鬼羅刹に見えとるの??おっと」
思わず突っ込んだら、すごい勢いで抱き着かれた。
危うく支え損ねるところだったぞ。
「違うわよっ。
こんな……私じゃ絶対治せないような、すごい傷がたくさんあるのに。
魂の奥深くまで、癒せない疲れと、絶望が、拭えないくらいこびりついてるのに。
あなたは何で笑ってられるの?
どうしてこんなに優しいの?
どうして……こんなにも、幸福で溢れて、暖かいの?」
あー。祈りの力の関係か?そういうのわかるんか。大変だなぁ。
古傷はさすがに今の体にはついてないと思うけど、魂にはついてるんかね。
ごめんね。それはちょっと、ボクの前にいるのはしんどかったろう。
ボクはボクの人生が概ね普通だと思ってたけど。
人から見るとそうじゃないらしいしね。
傷とか、疲れとか、絶望とか。もう、よくわかんないんだよ。
ただ。
「希望の光を、見てしまったんだよ」
「希望?」
そう。そこに、ボクのすべてがある。
あの山で。
救いと絶望を同時にくれた君。
ボクがもう一度立ち上がる力をくれた、大事な人。
少し身を離し、ボクを覗き込むマドカの頬を、そっと撫でる。
涙を拭うように。ゆっくりと、やさしく。
「うん。そしてそれをなくすのが、本当に怖いんだ」
「怖い、のに?」
「怖いから。
不敵に笑って、前に進むしかないんだ」
そういや、エイミーたちともこんな話、したばっかりじゃないか。
あれか。ボクは結構、ストックの助けになれたことで、舞い上がってるな?これ。
こないだは我慢したけど、これは言っちゃう流れじゃないか。
言ってしまうのは、怖かったけど。
調子に乗ってたら、光が届く前に、希望の星が潰えてしまう……そんな不安があって。
でも。それなら、なおのこと。
前を、向いて。
「ほんの一瞬、勇気を振り絞って」
口角を上げ、マドカの目をしかと見る。
「閃光のように」
…………おや?
なんかマドカが口元を押さえて、すごい勢いで離れた。
今度はなぜかアリサに抱き着いて、もごもご言ってる。
「ちが、違うからこれは!
そういうんじゃないから!違うから!」
耳まで真っ赤やで。
「はぁ。悪いがボクは売約済みだぞ?」
「違うっていってんでしょ!!あーもー!!」
おもろい子じゃのう。
アリサからは離れて、でも顔は赤いし、こっちも見ないんじゃが。
まぁ違うってのは何となくわかるよ?
ちょっと刺激強かっただけだよね。
「同じ、よ」
「同じ、とは」
「その希望ってのが、よくわかったのよ」
…………ちょっと、虚を突かれた。
そうか。
そういうことも、あるのか。
月が陽光を受けて、輝くように。
人の輝きを受けて、別の誰かがそれを見ることが。
希望は、受け継がれるんだ。
「そうか。じゃあせっかくだし。
ボクが、その具体的なところをお見せしようか」
「具体的って、なによ?」
「元の話題忘れてるね?マドカ」
北東の方角を手で示す。
その先にはきっと、あの天にそびえる根があるだろう。
「アレを倒せばいいんだろ?」
二人がきょとんとしている。
別に冗談のつもりはないんじゃが?
「まぁアリサが不安なら、もう少し検討するが」
「……不安は、ある。けど、やってくれ」
「わかった。一応警告しとくけど、あれ触れたら人間が消滅するかもだから。
行くなよ?」
アリサの力なら打撃は与えられるだろうが、たぶんそれ以前だしな。
「ゲームでもそういう特性が描かれてる。行かない」
「そうか。マドカは?ボクが倒しちゃってもいいね?
まぁ確実な方法をとるから、ボクというより、ボクたちが、だけど」
「いいわよ。ぜひ、見せてほしい。
かっこいいところ、期待してるから」
共同作業だから、それは難しいなー?
「その代わり……私、今支払えるものとか、ないけど。
なんでもするから」
こら。
「なんでもするというなら、まず君には淑女の教育からだな?
そういうのは――」
口元に立てた人差し指を当てて、続ける。
「意中の相手をベッドに誘うとき以外、口にしちゃだめだ」
「んぐっ」
「ハイディはたまに、信じられないくらいに女性らしいな……。
いや、なんというか、大人というか」
「ボクこれでも、中身は26くらいやぞ?
ま、あまり八歳児がしてたら変だから、砕いてるけどね。
けどせっかくだから、飲み頃のお茶で作法でも見せようか?」
アリサが用意してくれた、お茶とお茶菓子を示す。
二人がせっかくだし、と頷いた。
おっとそうだ。
ついでに、作りたいアレの説明もしながらにしようか。
なんでもするというなら、もちょっと手伝ってもらっても、罰は当たらなかろう。
次投稿をもって、本話は完了です。




