20-7.同。~呪いの根が破滅を求める~
~~~~ただそばにいる。それは言うほど、簡単ではない。得られる幸福の大きさから、ボクはそのように思う。
で、だ。
ボクらは13になる年、およそ四年後に初等部から通うって話してるんだよね……。
通ってる間、わざわざ外したくないなぁ。
せっかくの、彼女がくれる大事な証だ。ずっとしていたい。
ただでさえ婚約用の代物だぞ?結婚のそれとは違うんだぞ?
してる時間が限られるのに、それがさらに減るとか噴飯ものだ。
どうしたもんか。
そもそも、日常的にするもんじゃないかもしんないけどね?
でもせっかくだから長く……あと七年。楽しみたい。
お、そうだ。
ここはひとつ、台座の輪を作ってみようかな。
そこに本体をはめ込めるようにする。
機構は録音のやつと同じでいいだろう。
あとは物体隠蔽をどこにこめるか、だ。
魔導自体は、以前作った疑似手袋の魔道具の流用でいいだろう。
いっそあれか、二つの輪を作って、一つは収束充填用。もう一つは魔導用。
これをつなげて台座にしておく。
この台座に指輪を組み込むと、伝導して役を果たすようにしてはどうか。
そうすれば、ストックの指輪がどんなものであっても使えるだろう。
指輪を回してのON/OFF切り替えだけ、ちょっと課題が残るな。
あそっか。やってみりゃいいんだ。
よぅしざっと作って見るか。暇だしな。
片づけたばっかだけど、工具とか出して~。
工材は余りから見繕うかぁ。ちっちゃいしな。
……って、魔石神器の細かいやつしかねぇ。ほかは使ったかぁ。
これは単車で使い損ねたやつだな。すごい細かいの。
いっそこれで作るか?
超過駆動の稼働質量には足りないけど、魔導ならいける。
それに、そうすれば入れる魔導の種類はある程度贅沢にできるな。
作業が大変だけど、やっちまおう。思い立ったが吉日だ。
……………………。
あああああああ!!!!
これじゃんか、これやってあげればよかったんだよそもそも!!
ストックに!ボクが!やってあげられること!!
何つい思いついた風で手を付けようとしてるんだよ!
大事なことだろハイディ!!
ボクも指輪をあげればいいんだ!!!!
くああああああああああああああああ。
何で気づかなかったし……そうだよ。別にボクだけしてもらう必要、ないじゃん。
しかもついさっきボクがシルバ家の貴族になるかもって、出たばっかりやで?
ボクがストック娶るかもしれないんやで?
準備しておかないとだめやんけあほかぁ!!
台座だけじゃねぇ。いっそこれで指輪まで作っちまおう。
ストックの分に関しては、台座にはめ込めるようにこのまま。
ボクからストックにあげる方に関しては、指輪本体も作成だ。
よし!やったらぁ!
……そういや、マドカとアリサはどこ行ったかな?
荷の積み込みが一通り済んだ後、暇を出したけど。
街の方には行かないと思うから……はて。
手伝ってもらえると楽だったんだけどなぁ。
あの子たち、数日でずいぶん仕事を覚えて、頼りになるし。
「ハイディ!!」
おおっと。急にたぶん、アリサが来た。
だがこのボク、ハイディは慌てない。
落ち着いて工具を置いて。
工材を飛ばないようにしまって。
よし。
「どしたのアリサ」
「来て!!」
手を掴んで引っ張られる。
分かってたけど、この子力強っ。
急いでるみたいなので、邪魔しないように歩調を合わせて走る。
アリサは工場の外まで出ると、ボクの手を離して上に跳んだ。
……工場の屋根まで来いってか。そんなとこにいたのかよ君たち。
この高さは三年前なら厳しかったが、ボクもちょっとは成長した。
魔素を制御し、跳び上がる。
屋根に登ると。
ボクの前には、へたり込んで震えてるマドカが。
アリサは彼女に寄り添ってる。
ここあんま掃除はしてないんだけどなぁ。
ボクがジャンプ練習にたまに上がってたから、ついでにやってはいたけど。
あまり座るのはよろしくないぞぉ。
んで……マドカが指さす向こうは。
……また、あれか。
しかも、僅かに雲の残る夕暮れ時、その雲の上まで伸びた姿を見せている。
おまけに……明らかに、ほんの少しずつ動いてる。
夕日の沈む方に向かって。
……間違いなく、動いている。
「数日前に見たときは、もう少し控えめな大きさだったんだけどねぇ」
エイミーとマリエッタの話を踏まえるなら。
クストの根は、ゲームにおいては2の裏ボス。
現実においては、伝承をそのまま受け取るなら、赤子を食って願いを叶える、魔物を呪う存在。
地上から地下に潜り込むものらしく、いずれはダンジョンにまで到達するとかなんとか。
魔物災害の引鉄ともなり、そして未来から過去へ進むという。
わからないことだらけの、謎の代物。
この二人が顔色を変えるということは。さては3が本番だな?
「二人とも、あれを知ってるんだね?クストの根を」
「ああ。直接見たわけじゃなくて……」
「ゲームの情報」
「そうだ。ラスボスってやつみたいで。
奴は魔力を吸い、魔物を消し、すべて消し去ると前の時代に遡るらしい」
おい、思ったよりおおごとだぞ。
人類にとっても完全に宿敵じゃないか。
「あいつが、いうの」
「マドカ?」
マドカが目に涙を溜め、震えた声で訴える。
「『ウィスタリアを元に戻せ』って、ずっと喚いてる!」
次の投稿に続きます。




