20-6.同。~どうか王と王妃が、仲睦まじくありますように~
~~~~何かこう、いやに急に未来が具体的になってきた、気がする。
「焦りすぎだばかもの。
あの乙女状態のビオラ様相手に、そんな詰め寄ってどうする」
「押してダメだから引いたけど、それでもだめだったのよ!?」
アウトおおおおおお!!
誰だその中途半端な恋愛指南を、ボクの妹に吹き込んだやつは!?
「なお悪いわ!」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「そばにいろや。何かせんでもいいから」
「…………そんなんでいいの?」
重症じゃのう。
永い時を経て、やっと会えた仲じゃろうに、君たち。
それこそが、黄金よりも価値のある、大切なことだろう。
「そうだよ。一日中、一年中、一生。ずっとずっとそばにいろ。
というか、今の時点で、それなりの時間べったり一緒にいるんだろ?
具体的には、どのくらいだ?」
「それはまぁ、うん。丸一日中。ここにくるまでは、ずっと」
数日ずっとか。なら問題ないじゃねーか。
人と一緒にいるってのは、案外ストレスになる。どんな些細なことでもだ。
伴侶となる相手との間で、そこが少ないかないというのは、とても大事なことだ。
それは性的な生理的嫌悪の有無に近いものがあると、ボクは考える。
なお、ボクは今のところ、丸三年べったり一緒にいても特に問題はない。
そばにいても、離れても。不安も、不満も、不快もない。
不満がないのは、ストックの努力のおかげだろうけどな?結構、気を遣ってもらってる。
ストックも穏やかに過ごせていると……そういう自負もある。
その努力も怠ってはいない。
完全に余談だが。近めの接触も、今のところまったく嫌ではない。
性徴につれて、変わってくるのかもしれないが。
「風呂とかまで一緒じゃなくていいが、とにかく一緒にいられる時間を増やせ。
耐えられなくなるまで一緒に生活して、仕事しろ。
沈黙が、あるいは会話が、何かするのが。
苦痛になってきたら、そこが限界だから。
その限界から、付き合い方を考えればいい。
ビオラ様と一緒にいて、何かつらいのか?」
「何も」
何も、と来たか。しかも即答かよ。
さすが、精霊の認める番だ。
「そうか。なら何したっていいんだ。
何したって君たちは幸せだ。
君はビオラ様と一緒にいて、そうは感じてないのか?」
「いえ、とても幸福よ。でもビオラは……」
これは……あれかな?関係性の問題かな?
この二人は、ビオラ様の方が求めて辿り着いた形だ。
もちろん、スノーの方も努めて迎え入れたわけではあるが。
そこの重みと認識に、差があるのだろう。
「同じだよ。君は忘れてるかもしれないがな?
ビオラ様めっちゃお年だし、子どももいるし、旦那もいたんだぞ?
無数にその経験があるんだぞ?
それがあんな初々しい顔してるの見て、何とも思わんのか?」
「そりゃかわいいなって……ああ、そういう」
ちょっとは納得したようだ。
「彼女はそれだけの経験があってなお、初めての気持ちと幸福を味わってるんだよ。
だからそばにいろ。好いてるなら、相手のその幸せを奪うな。
他に必要なことなんて、何もない」
「私かビオラが耐えられなくなるまで、ね?」
「それが永遠だってかまわないぞ。挑戦してみるといいさ」
スノーがいい顔で笑って――立ち上がった。
そうだ。我が妹よ。
君はそうやって、高く在っていい。
互いの長き苦難が、いっそすべて幸福に塗り替わるくらいに。
お姉ちゃんはな。
遠い約束を果たしたっていう、君の誇り高さが。
結構気に入ったんだよ。
◇ ◇ ◇
スノーたちが予定通り、ソラン王子との会合に向かった。
やることは終わったし、出港への荷の積み込みもだいぶ済んでいる。
今日の会合で問題が出なければ、あとはチェックして明日には出ることになる。
貴族令嬢どもがそろって会合に向かったので、ボクはちょっと暇だ。
ここ数日で使ってた工場の後片付けも、終わってしまった。
しかし貴族多いなぁ。ビオラ様とスノー、マリエッタとエイミーはもちろん。
マリーはソラン王子の知己だし、彼女もダリアと一緒に王城へ行っている。
ストックまで行く必要性はないと思うんだけどなー?何で呼んだし王子。ぶー。
せっかく、ちょっと一緒に暇しようと思ってたのに。
そうすりゃアウラともゆっくりお話しさせてあげられたしさぁ。
仕様の説明もあったんだけどなー。
ま、いいか。早々使うこともなかろ。
あれだけ、いつでも渡せるようにしておくか。
……今なら人が少ないから、いい機会だと思ったのに。
ままならないね。ストック。
君の選んだものを、早く見たいんだけどなぁ。
あれでもひょっとして。
あの子、隠蔽機能とかまでつけてないよな?
だとまずいな。さすがに後からつけられるような代物じゃないぞ。
確か、学園は持ち込み御法度。
お相手がいるっていうのを、ある程度隠すのがマナーだとか。
成婚後ならいいんだけど、婚約は隠す方針らしいんだよね。
学園内で割と、婚約の解消とかに発展するケースがあるらしくてだね。
もめ事を蒸し返しやすくなるから、学園では婚約関係の話はタブーなんだと。
地球でいうところの、政治とか、宗教とか、そういうのと同じ扱いなんだ。
子どもが勝手に話したり変えようとしちゃダメ、という戒めでもあるね。
次の投稿に続きます。




