20-5.同。~君と二人、この国で立つとき~
~~~~……実感がいまいち沸かない。無意識に、ないものだと、思っていたけど。
「他の人はやだよ。ストックがいい」
「…………ストックは、その。
こう、いずれ家を出るでしょうけど、貴族の務めもあるし。
辛い別れを、するかもしれないわよ?」
妹は妙に心配するなぁ……。
別れってまぁ、魔物と戦ってりゃそりゃあるだろうしさ。
ボクらは無敵の存在じゃない。
不死の神器があってもそうだったんだ。その覚悟は、必要だ。
でもなんだろう。この子が言及してるのは、別のことな気もするな……。
「いいよ。その時は共に果てる」
「間髪入れずに答えたわね姉上……。
妹としてはちょっと納得はいかないけど。
わかった。もう野暮は言わない」
んむ。
…………いやまって。もっと大事なことない?この話。
貴族の、勤め。
「というかだなスノーよ。
その話を踏まえると、ボクらは南西領の領主やらなきゃいかんのでは?」
「気づいてしまわれましたか、姉上……」
「あ”。さっきのじゃなくて、それで悩んでたのかよスノー」
「王国の中核に関する話だし、現段階ではちょっと人に相談もしづらいわ……」
スノーがため息をついておる。
まぁ、なかった領地がいきなり復活だもんね……。
「ビオラ様に話すと、負担が大きいと思ったのか」
「まぁね。どのみち話すことにはなると思うけど。
まずは自分で整理した上で、姉上と、と思ってた。
怒涛の勢いで抉り込まれたけど」
「そこは非常に申し訳ない。
それで。シルバ家を再興することになるのか?」
「なるわね。爵位は悩むところだけど、姉上をつけるなら公爵になる」
公爵?いきなり?
こういうのって、確か割と下がるんじゃなかったっけ??
「王族だし、失われた精霊と家の再興を功績と考えて、か?」
「パンドラ、王都聖域、その後も広がりそうだし……。
多少の先払いで上げたほうが楽だわ。
どのみち、当面は王家が後見につくけど」
「そりゃそうか。いきなりもらっても、領地経営できないしな」
爵位なんてもらっても、勝手もわからん。
王族に戻るかと思ったら、一足飛びに大貴族になれとか、ちょっと難しいわ。
「……姉上としては、一応前向きなの?」
「ストックは否とは言わないだろうしね。
まぁボクとしては、気分的にはロイド入りがいいんだけど」
「そうなの?」
「お嫁さんの方がいい」
「ああ、そういう……」
「ただ、女公爵も捨てがたい。前の時間のストックは、かっこよかったからね」
前の時、学園に来ていたストックは「タトル公爵」だったから。
その振る舞いはとても素敵で、今でも印象に残ってる。
「紐解いてみないとわからないけど、アウラの爵位は夫婦双方になるかもしれないわよ?」
なんぞそれ。初耳やぞ。
「そんなことってあるの?」
「王家は厳密にはそうなのよ。
だから、番で継承の家なら、同じになる可能性が高い。
王国法次第のところはあるけど」
ほほー。
「まぁ……どのみち、当面は姉上だけね」
?なんだそのお顔は、何か悩ましげだが。
妹のその表情は、すぐに消えて。
むしろすっきりした様子になった。
しかし……先々は気が重いが、なんだ。
スノーはどこに悩んでたんだ?
話してみた感じ、そう突っかかりがありそうには見えないが。
「それで。スノーはどの点を悩んでるのさ??」
「えっと……」
何か、妙に言い淀んでいる。
「ん……言ってしまうと、その。
関連はあるんだけど、別のことで。
女同士って、思ったより難しいのね、と思ったから」
そりゃ簡単ではあるまい。男女でも難しかろうに。
その上、スノーとビオラ様はストレート同士だ。本来はかみ合わない。
場合によっては……一定以上の接触が、嫌悪につながる間のはずだ。
そしてこの言い方だと、自分のとこが難しいから、こっちを心配したってことかな?
子どもを設けられるとなれば、なおのこと家のため、深く繋がりを持つことになる。
貴族として、しかも大貴族の家を復興して立つとなれば、それは避けられない。
この国は精霊前提で貴族社会が成り立っているから、血統は絶対ではない。
例えば、ロイド家はヴァイオレット様が王族から出た元王女で、養子。
そしてキース様も婿だ。実は先代と血が繋がっていない。
だが貴族は最前線に立ち……残念ながら亡くなることが多い。
ゆえ、まず血統。次に精霊との契約で、家を継承している。
血統は絶対ではないが、軽んじられているわけでもないのだ。
だから当然、貴族になるなら世継ぎを求められる。
養子は次善であって、まずは実子を考えねばならない。
普通に女同士なら、これは除外されるが。
精霊の加護でそれを乗り越えられるなら……必ず社会に求められるだろう。
ボクとストックの子を、次のシルバ家の当主にすることを。
注目度も高いだろうし、そこは基本、逃げらんねぇだろうな。
ボクは別にいいが、たぶんストックは飲むだろう。
むしろ、積極的に欲しがっても、おかしくはないように思う。
で。スノーが心配しているのは。
それは負担になるのではないか、と。そういうことか。
しかし難しい、ねぇ。この子とビオラ様、ミマスでは思わしくなかったのかな。
「なんかあったの?」
「何もないからよ……」
ざっこ。
なんということだ。我が妹は恋愛雑魚系だ。
次の投稿に続きます。




