19-12.同。~ようやくできる、二人の未来の話~
~~~~綺麗な言葉だけど、マリーが言ったということは……よそう。あまり考えるとエイミーのヤバイ度が上がる。
「みたいですよ。対抗もいないし、本人も資格やる気ともに十分。
ジュノーの危機を救った英雄ってことにして、実績もありとなるようです」
「そりゃ大変結構。じゃあダリアは自由になる、か。
とはいえ……」
王位に関係がなくなったとするなら、次は嫁の行き先の話になるだろう。
ダリアはもう13。婚約相手くらいは、いる歳だ。
早ければ、10歳ですぐ決まるからな。そういうのは。
「ん。ま、言われるでしょうね。お父さまは理解はしてくださるけど。
手伝ってはくださらないから」
米を飲み込んで喋るダリアに、手拭きを出しておく。
「ならやはり、マリーをファイア大公経由でなんとかして。
君が王国に嫁にでるしかないだろうね。
……なぜマリーは苦い顔をしているのだね」
「ギンナちゃんがちょっと苦手だから、お姉ちゃんになるのはやだなぁ、と」
そんな理由かよ。
「性格苦手?」
「そうでもないです。単に、目の前にいると萎縮するだけで。
オーラみたいなのが、すごいので」
君そういや結構小心者だったな。
「すごいわね……ハイディはなんで気圧されないのよ」
え?ダリアも?
そんなこと言われてもなぁ。
「修羅場のくぐりすぎぃ……かなぁ」
「「あぁ~……」」
納得された。
なおマリーが貴族相手にだいぶ砕けているが、もちろん非公式で身内なら、というところだ。
公式の場や、それに準ずる人目につくところなら、この子はちゃんとする。
先のとおり、小心者なので。
「真面目な話、私を王国に帰化させるとなると、聖国とかなり揉めますよ?」
「そうだねぇ。
ファイア大公がそこで全面的に協力してくれるか?っていうと、してくれないだろうし」
「ほかになんか伝手はないの?ハイディ」
「ボクにはないから……ビオラ様に相談するか」
あの人、前にクレッセントに人を集めたときもそうだけど、謎の人脈を持ってる。
そこと……あとは王太子妃としてのあれやこれやを期待したいところだ。
ファイア家はともかく。
ロイド家……モンストン侯爵と王家ならば。
パンドラに所属することになるこの子らの面倒を見ることを、否とは言わないだろう。
あとの問題は、どれくらい面倒を見られるか?と。
聖国と縁の深いところから、横やりを入れられないようにできるか?だな。
エイミーとマリエッタのことなら、多少は手伝うこともできる。
でもダリアとマリーの事情は、これ以上はボクの手に余るな。
あとはなんとかできる、大人に任せよう。
「やっとこういう相談が落ち着いてできるね、ダリア」
「んっ……そう、ね。ほんとそう」
マリーが不思議そうな顔をしている。
まだ前に二人の間であったことは、正確には勘づかれていないらしい。
ダリアはマリーに対し、連邦を滅ぼしたのではないか?と詰め寄ったことがあるそうだ。
ボクがマリーに喋っているのは、ダリアがそう疑っていた、という点まで。
「大したことじゃないわ、マリー。
私が馬鹿だった、って話よ」
「?ダリアさんは頭のいいおバカじゃないですか。
よく知ってますよ??」
「そういう話じゃ……いえ、そういう話ね」
マリーが笑顔どころか、えぐいお顔をしとるんじゃが。
「ダリアさんがいい笑顔過ぎて気持ち悪い……。
今度は何をやったんですか?」
「連邦を救ったんだよ。なぁダリア?」
「ええ」
「なんですかもう、二人して。
仲良くって、妬けちゃいます」
少し笑って、マリーがおにぎりを頬張る。
まぁ、この子にしては素直に笑顔を見せたほうか。
ダリアも、満足そうだ。
「あと相談と言えば、振るだけ振っておくけどさ。
聖域の魔力流に魔導をぶつけると、大変なことにならない?」
「…………ならない、はずよ。
細かい確認は必要ね」
やっぱそうだよねぇ。ボクと同じ見解だ。
「言われて見ればなりそうですけど、ならないんですか?」
「必要なのは出力だけじゃないのよ。
あなたのそれは、波長自体が特別なの」
「へー」
正しく言うなら、マリーの方が自然物で、聖域の方が人工物という感じだ。
なお、カラミティコールや重魔力収束鏡による魔導拡大は、これを意図して起こしているものである。
ただ、聖域の魔力流にその「特定の波長」が混じっていないという保証は、まだないのだ。
我々は今稼働している聖域の方を調べたことは、ほぼない。
ユリシーズのメンテナンスを手伝ったくらい。
「これはちょっと、すぐ取り掛かるわね。あんたはなんか忙しそうだし」
「そうしてくれると助かるよ。魔力流そのものとなると、君の方が詳しい。
ロイド家に相談の上、とりかかってほしい。
最初はボクからも話すよ」
「わかったわ。だいぶ、暇になりそうだしね」
彼女が必死になって取り組んできた、滅亡の夜の回避手段は、もう必要がない。
引き受けてくれるなら、ほんと助かるわ。
「そういえば、こっちはともかく、あんたたちのとこは何とかなりそうなの?」
おお。周りを気にする余裕まで出て来たか、ダリア。
「内緒。ストックが頑張ってるから。
この旅の終わった……あとくらいで教えてあげる」
「すごい気になるんですけど!?」
「予言で調べちゃだめだよ、マリー。まだ知らないほうがいい。
お楽しみってやつだ」
「えぇ~」
そういやこのこともだけど、まだスノーとビオラ様のことも話しちゃダメだったな。
言っても構わないだろうけど、スノーが来たら自分で言うだろうし。
次投稿をもって、本話は完了です。




