19-11.同。~勇者の人物評~
~~~~首都は米が比較的安く手に入る。実にいい。
「ほほーう?」
マリーがにじり寄り、素早くダリアのほっぺの米粒をひょいぱくした。
「んぐ!?油断した……」
「んっふっふっふ」
ダリアが真っ赤になっている。
仲の良いやつらめ。
なおマリーについて「教え甲斐がない」のは、この子は予言の力がなくても頭がいいからである。
抜けているように見えるが、勉強はとてーもできる。
それはもう、すでに魔女姫の助手が務まるくらいには。
1教えたら、予言抜きで100くらい調べてくるので、教えることがほとんどない。
今は、成績がとってもよかったので、マリーと一緒に王立魔導学園に通っている。
年齢的にはもう卒業の頃だが、あそこは試験の点さえ取れれば入れるし、出られる。
制限は確か、生徒としては20歳までしかいられない、って点くらいだったはずだ。
あと三年ほどいられるし、その間に勉強を重ね、可能なら講師資格を取ってしまえばいい。
そうすれば、その後は自由に出入りできるし、雇ってももらえる。
今のところ、二人はあまり高等部には用がないだろうから、そんな長くは通わないだろうけど。
初等部や高等部、学年で異なるのは、どちらかというと座学ではなく実技の方。
まぁ経営戦略科――俗にいう普通科は実技ないから、二人は関係ないんだけどね。
座学を目いっぱいやりたいなら経営戦略科なので、ダリアも魔術科ではなくそっちだ。
「マリーとしてはどうなの?二人は」
「んー?運のいいやつらめ、って感じですかね」
「高評価ね……」
「ほんとだね……」
マリーは、下水と汚泥で育った美しい花みたいな女である。
外面がいいとかじゃなくて、その性根で真っ直ぐ生きてるのが不思議、という生態だ。
とても生きづらそうな子だなぁと時々思う。そして、人物評にはよく毒が混じる。
なので、何もマイナスがないというのは、かなり良い印象ということだ。
素直に褒めるのは、お世話になった枢機卿、ダリア……あとボクくらいか?
ストックを真っ向から「へたれ」呼ばわりするのは、この子くらいだ。
「メリー王女……マリエッタはどうなの?」
「今回初めてお会いしましたけど、運転で性格変わりそうな人ですね。
趣味が合いません」
おや、あまり悪くは言わないか。
クルマについてはまぁしょうがない。好みの別れ方が激しいしね。
ついでに言うと、性格が変わるのはまったくもってその通りだ。
マリーはクルマの趣味は正統派寄りで、ボクに近い。これは前の時間からだが。
「アームつけるとか、クルマに対する侮辱です」とか平気で言いだすので、ミスティとは趣味が合わなかった。
今は、ミスティの方の趣味が変わったので、そういう衝突はないが。
ちなみに単車に対する評は「神器車のコンセプト投げ捨てたんですか?」である。
もちろん、これを言ったらマリエッタとは戦争なので。
マリーとしてはそうした争いは控える気ということだな。
なお、アームは大っ嫌いだがギミックは神器使いらしく好きだそうで。
ビリオンの改造はいたくお気に召していた。
そのせいもあって、マリー向けの神器車は、凝りに凝ってまだ納車できてないんだよね……。
ビリオンでハードル上がっちゃったから。
我が愛車と同等……あるいはそれを超えるものにしたいところだ。
最高の一台を贈りたい。
「ほーん。そういえば二人とも、エイミーとは知り合いだったんだね?
あっちはどうなのさ、マリー」
……え。なぜうれしそうなの。何その顔。
「エイミーは、お友達、です」
!!??
「エイミーは君みたいな汚濁じゃないよ!?」
「何言ってるんですか、同類とは気が合わないですよ私。
正反対のダリアさんは大好きで。
ねじくれてこんがらがってるハイディも好きですよ?
エイミーはこう、裏返ってる感じが」
「不吉な人物評はやめていただきたい。
あー……ひょっとして、あれか?
あそこ、お母さま以外の環境が良くなかったのか?」
お母さまが没して、即派閥解体。
エイミーが逃げ出し、刺客も放たれるくらいだしな。
「みたいです。反骨心でできた、宝石みたい
透き通るような」
「素敵な表現だな。ちなみにボクは?」
「解けないからくり箱。中にストックしか入ってない」
…………なるほど。
「ダリアさんは、私の金剛石、ですね」
そうなの?磨くとめっちゃ光るの??
あ、これ私のって方が肝か。汚濁の抱える金剛石とは。
まぁいいか。そこ深く聞くのは、野暮ってもんだろう。
ダリアが赤くなっておにぎりをほおばりだしたので、冷やした茶を置いておく。
落ち着いて食べないと、またひょいぱくされんぞ。
「話変わるけど、次期武王はソラン様で固まりそうなの?」
イスターン武王は名誉職面が強い。外交はするが、内政は各国王や貴族がやる。
だから、連邦参加三国の王座は氏族が割と本気で奪い合うが、武王はむしろ譲られる。
そこに座ったら、他の王にはなれないからだ。
とはいえ、それを代々引き受けるアーサー氏族だって強かなものだ。
王国のキース宰相と、今回のパンドラ共同開発を早々にまとめたのは、今代武王のジック様だ。
外に顔も利くし、実権はなくとも政治力は十分にお持ちだ。
次の投稿に続きます。




