19-10.同。~魔女姫の人物評~
~~~~つまりボクがいたからソラン様は振られたわけで。まぁ諦めてもらおう。もう一度会えただけ、僥倖というものだ。
「そしてそのためなら、デクレスの姫にも手を伸ばすだろうね?
マリエッタは弟妹がたくさんいて、王位継承からは距離を置いてるんでしょ?」
「お詳しいですね……」
ダリアっていう、知り合いたっぷりの友達がいるからね。
飯食ったり、開発で煮詰まったときにいろいろ聞いてる。
「言い方は悪いけど。
この状況なら連邦やデクレスは、二人セットで王国に売った方が儲かると考えるよ。
連邦側で君らを活かすのは少々大変だが、エングレイブ王国はそうではない。
取引は政治的なバランスを鑑みながら行われるだろうけど、君らにとっての結果は変わらないだろうね」
気質や関係性などを無視して、王侯貴族の倣いとしてマリエッタを嫁に出すのは、まぁ普通だろう。
だが、それ以上に高く買ってくれるところがあるなら、そっちに出したほうがいい。
バイクの一件を見るに、娘がその方が幸せだというなら……なおのこと、そうするだろう。
正直二人の関係は、帝国を無視していいので、連邦と王国だけの問題。
平易な方だ。
同じ問題を抱える魔女姫の方は……マリーがウィスタリア聖国に紐づいてるからなぁ。
事実上の追放だけど、それはそれとして他所の国が取りにきたら、難癖つけるのが聖国だ。
ウィスタリア聖教と関係が深い、ファイア大公家に押し付けるのが楽なんだけど。手強そうだ。
「う……いいのかしら」
「王国の子になるって言ってたろ?エイミー」
「ん。ハイディがご飯作ってくれるなら……」
「そこは自分かマリエッタか、というか使用人雇って作ってもらえ」
「「えぇ~……」」
なぜ二人そろって不満の声を上げるのだ。
仲良しさんめ。
というか、ばれたからって微笑みあって机の下で手をつなぎ合うなし。
遠慮しろ。むしろストックを早く連れてこい。
◇ ◇ ◇
暖色ペアが工場にきた。
「ただい……あら、ハイディだけ?」
ダリアとマリーだ。
けどいいんかダリア、君はここがただいまで。
二人とも、ドレスのままだ。
橙と白がベースのダリア。
緑地に赤のマリー。
この連邦で、ほんと隠す気もない恰好だな?
そういやダリアもこの三年で成長期を迎え……一応マリーと並んでいる。
マリーがそんなに大きくないからなぁ。
でもなんか、こないだまた背が伸び始めたって言ってたような?
マリーは聖国出身だから、こっち来て食事事情が改善しただろうからね。
そのせいかな。
前のときは、今くらいで止まってたはずだけど。
「お帰り、ダリア、マリー。
四人とも休憩中なんだよ」
エイミーとマリエッタは、ちょっと単車でドライブ中だ。
まだ戦車化は終わってないけど、急ぎでもないしね。
「そうなんですか。それでハイディもごはん中と」
「ボクは反省した。食べられるときに、食べておくべきだ。
よければどうぞ。着替えて、手を洗ってからね」
テーブルの上の、皿の一つを少し向こうに押し出し、勧める。
イスターン連邦の主食の一つ、米を使ったおにぎりだ。
河向うの食文化だが、中央西部が米どころなせいか、首都イスターンでは比較的食べられている。
大量に炊いて、具材をぶち込んで塩振って握っておいた。海苔も巻いてある。
なおこっちは、食事用にキレイにしているテーブルだ。作業台ではない。
そして食料を出すこともあるので、こちら側には空調がほどよく効いている。
「ああ、おにぎり!紅水魚のはどれですか?」
「そりゃこっちだ。皿分けといたよ」
君の好物だからね。
大皿にも混ざってるが、割と人気の具だから好きな人向けには別皿を用意する。
ボクは卵油を使った各種魚介握りが大好きなので、目の前の皿は全部それである。
マリーがもろ手を挙げて、急いでお着替えにいった。
君、まだドレス一人で着替えられないんじゃなかったっけ?
それ、結構ちゃんとしたやつだけど。
「昆布」
「そりゃこっちだ」
「ありがとう。紅水って何かと思ったら、鮭か。
馴染まないわね……」
ダリアは水藻類がお好き。
紅水魚は連邦、特に西よりでは鮭、この辺ではどっちでも呼ばれるみたいだ。
ダリアは幼少期を河向うで育ったらしく、あっちの文化になじみが深い。
っていうかもう戻ってきたのかよ、早いよ!?
勧めた皿に手を伸ばす彼女を置いて、更衣室に向かう。
案の定、マリーは背中に手が回っていなかった。
彼女の着替えを手伝ってきて。
二人で戻ると、すでにご飯粒をほっぺにつけたダリアの姿が。
「……これ、大皿の意味、あるの?」
君やっぱ、割とお米好きだな。
昆布皿、もう空だし。
「マドカとアリサは雑食だから」
「「ああ……」」
あの二人は何でもよく食べる。
おいしく食べてくれるので、ついいろいろ出してしまう。
「あんた、結構気に入って世話焼いてるのね?」
んー。そうだねぇ。あれは伸びる。
しっかり学び、育っていただきたい。
「素直ないい子過ぎてつい。覚えもいいし。
ダリアは気に食わんのか?」
「まだその段階ではないわね。
教え甲斐はあるわ。マリーよりだいぶ」
お、保留にするとは好感触だな。
ダリアは根は真っ直ぐだが、表面がねじくれているので。
もし気に入らなかったら、この時点でばっさりだ。
保留にするとは、彼女たちに真剣に向き合う気なのだ。
もちろん、ダリアはそう簡単には、素直に言ったりしない。
次の投稿に続きます。




