19-9.同。~その光が、新たな導きをもたらす。そして挟まる王子はいなかった~
~~~~君だって全力で、とても輝かしいと思うんだがね。ボクは。
「いや気になってるし。
君の単車、それお手製でしょ?
魔道具科初等部のレベルじゃないよ」
「……私では、ないです。
お手製ですが、祖父の作です」
「ん?先代デクレス王のキージィ・ファン様??」
「はい」
確か、ファン家がデクレス王位についたのは、その人の代から。
息子さんも優秀で王位を継げたそうだが、キージィ様はかなり破天荒な方だったと聞く。
ボクは単車がその方譲りだと聞いて、マリエッタを見て、正直納得した。
なお、確かまだご存命……というかある種の現役で。
単車で魔境旅をしておられると、聞いたことがある。
神器単車乗りの間では、伝説のような人……らしいよ?
しかしだね。ボクの目は誤魔化せんぞ、マリエッタ。
「それはそれとして、ほぼ丸改造した跡があるけど?」
「っ。それは私が、やらかしましたけど」
ははーん。なんかあって大破させて、そんで自力で直したな?
クレイジーなやつめ。
「その。勝手に乗り回して事故って大けがして。
それでもう一度乗る条件として、自力で修復しただけです」
だけじゃねぇよそれ。
「いや、すごいこと聞いたぞ?
よくそれでもう一度乗ろうと思ったな??」
そりゃあ傷は魔導で治るだろうさ。
けど正直、神器車の事故は怖い。いろいろと。
ボクも何度かやった。ただの物損でも慣れない。
結構なケガをしたこともあって。
治ってからもしばらく、ちょっと乗るのが怖かったことがある。
「……かっこいいと、言ってもらえまして」
そこでエイミーを見るんかい。
「その。マリエッタがケガしたの、私を助けに来てくれたからなの。
それで大事な単車もバラバラになっちゃって。
大けがまでして。
落ち込んでたし、いろいろまぁ励ます感じで、こう」
なぜさっきあれだけのことをボクに言いながら、そこは照れるんだね皇女。
「そこまで言われては女が廃る、と奮起しまして。
こうガッっとやったら直ったんです」
そこでチョップのジェスチャーするなや。
そんなんで直るかボケェ。
よぉし。そこでボケんなら突っ込んでやるわ。
「で。ソラン王子への御用事はなんだったの?」
二人してブフォとか吹くな。
「…………ハイディ、わかってて聞いてるんでしょう」
「何のことやら。仔細はわからんから聞いてるんやが?」
「はぁ。もう。
用自体はね、学園絡み。
同じ科で、物のやり取りとかしてたから。
でも私、学園に居続けるのは難しくなったから、それで」
「ほうほうなるほど。
まぁ学園は続けて通いなよ。あっちの施設だって十分いいしさ」
「え、お金は?」
「当然、君の稼ぎから出る。
どうせ学費にぶっこんでも余るから、大丈夫だよ。
それで?わかってて聞いてる、とやらは?」
「…………振ってきた」
思い切ったことするな??
「それは職が決まったからかね?」
「そ。あと、あなたが希望を見せてくれたから。
私、王族やってる場合じゃないの。
だから、せっかく声をかけてくださってたんだけど、お断りしてきたわ」
「気質としても無理だからって?」
「ん”。まぁ、そうだけど」
「好きな人いるから無理ですって?」
だから二人して吹くな。
「そんなにわかりやすかったでしょうか……」
「私が話しすぎたかしら」
「何言ってんだよ二人とも。
マリエッタ……メリー・ファンは礼法にうるさい連邦の王女。
特にデクレスは、旧態と格式がかえってロックしてる国だろ?
意地と見栄でできてる国の王女が、人前で何でもない他人の肩を抱くわけないでしょ」
「「あぁ~……」」
蛇の海が出たときの、エルピスでのアレである。
単車で屋根を跳びまわったり、壁をぶち破るのはいいのか?っていうと、それはそれらしい。
空気というかTPOと言ったらいいのか、とにかくそういうのを大事にする。
だから、ロマンティックな場面で、想い人が相手なら、肩を抱こうが腰を抱こうが口づけをしようが「良し」となる。
むしろ、そういう関係の場合は「しなくてはダメ」と躾けられてるんじゃないかなぁ。
「内緒にしておいてね?連邦は同性は……」
連邦は同性婚は認められていない。あまり肝要な方とも言えない。
この半島でそれが認められているのは、王国と共和国の二か所だけ。
「そうだね。ところでエイミー。
君は帝国は出る気だとして、どの国に行く気なの?」
「え。そうね。国としてはやっぱり、連邦にお世話に……」
「たぶん、モンストン侯爵が逃がさないと思うけど」
びしっって音が出そうな感じで、エイミーが固まった。
ぶっちゃけ、ボクを自由にさせてまで囲ったあの人が、こんなやばい子を逃すとは思えない。
ストックは、魔導制御能力ならミスティに迫る。起動は苦手だが、制御だけならダリアを上回る。
そのストックを遥かに超える魔導制御。エイミーは今ボクの中で、最強の魔導師レース独走状態だ。
その上で、攻撃性魔道具の生みの親となるかもしれない人。
ヴァイオレット様は何としてでもエイミーを取りに来ると、ボクは予想している。
いかに相手が友好国の連邦であっても、遠慮はすまい。
まぁ問題は、この子が魔力なしなことだな。
直接、貴族の家に養子として取り込むことは難しい。
元々継がせる気はないとしても、体面とかあるしね。
それでも、なんとかするんだろうけど。
次の投稿に続きます。




