19-8.同。~それは尽くされる力。名を、勇気。刹那の閃光~
~~~~マリエッタはいい魔術師だが甘いな。ダリアならまだかなり添削が入る。あの子は容赦ない。
「そういえばハイディは」
エイミーが頬杖をつきながら、何か考えをまとめる様子で聞いてきた。
帝国で令嬢できてたのか、正直たまに心配になるんじゃが……。
「んー?」
「なんでこんなとんでもないもの作っちゃうの?
いや、ビリオンはハイディが作ったわけじゃないけど」
何でと申されましても。
「作りたいから作ったら、とんでもないものになるだけ。
でも、質問の意図はそうじゃないね?エイミー」
言葉を返すと、エイミーは作業台の上に頬を乗せてぐでっとしだした。
そこは使ってはないし細かいものも置いてないし、なんなら拭いてはあるんだけどさ。
さすがにそう、お顔を擦り付けるところではないと思うの。
「ん、んー……そうね。
帝国貴族はね、権力に力が伴ってないと、大変なの」
それは……メリアにも聞いたことがある話だな。
だからかえって、ほどほどの権力で、胡坐をかいてるダメ貴族が多いんだと。
エイミーんとこは、それを良しとはしなかったのだな。
まぁ側妃として見初められたなら。
皇女として生まれてしまったなら。
その権力に見合う力を、求めるしかなかっただろう。
「だからお母さまは、魔力なしの私に、力を得る道を必死で模索してくださった」
「そのお力添えがあったから、魔力がなくても、魔道具の研究ができていた、と」
「そう。自身に魔力がなくても、魔導に関われる唯一の道だからって。
私はお母さまが大好きだし、その期待に応えたかった。
応えられていたと、思う。お母さまは、いつだって笑顔だったから。
でも……間に合わなかった」
すごい苦難を伴う、スパルタ環境のようにも思うが、それでも良い親子関係だったのか。
娘の資質に腐らず、困難を背負わせず、親子二人で高みを目指したんだな。
エイミーの挫けず、真っ直ぐな心根は、だからこそ培われたのだろう。
「だからって、諦めない。
死んじゃったから、何だって言うのよ。
私は必ずお母さまに、ありったけの感謝と成果を伝えるんだから!」
なんだろう。
ボクもビオラ様や、エリアル様に、大事なことをたくさん教わってる。
それでもここまで情熱をもって、その期待に応えようとしているだろうか。
エイミーが、少し眩しい。
ボクはこんなにも、輝くような涙を流す人を、他に知らない。
彼女が涙を拭って、続ける。
「でもね。
ハイディの腕輪を見せてもらったとき。
あ、私この子には敵わないわって、そう思ったの」
え?
「これでも、才能はある方だと思うのよ?私。
勉強だって、とってもできるんだから。
偉大な魔導師になるって、ハイディだって褒めてくれたしね。
それでも……比較して負けたとか、そういうんじゃなくて。
なんていえばいいのかな」
エイミーが立ち上がって、回りながら言葉を探している。
だいぶテンションが上がってきてるみたいだ。
「あの腕輪は夢とロマンと、希望がたっぷり詰まった、星のようで。
うん、星。彼方から届く、閃光。
こんなすごいもの作れる人がいるんだ!って、嬉しくなった。
もちろん、どうやったらそんなものが作れるんだろう?ってずっと気になってる。
でもあなたとしばらく一緒にいて、それからさっきの答えで、何となくわかったわ」
はて。
あんな申し訳なくなるくらい、適当な答えで??
「あなたはいつだって全力。
戦うのも、開発も、お料理も、運転も、人と向き合って話すのも。
なんだって眩しいくらいに、全力で。
だから、作ったものが、すごいものになっちゃうのね。
でもその……どうしていつも、そんなに力を尽くせるの?」
……………………。
この子の知らない、ボクの、ボクたちの最期。
あのときぶちまけた後悔に、ボクはまだ囚われている。
あるいは、怯えている。
力を尽くさなかったら、大事なものを失うんじゃないか、と。
力を出し切ってすら、天運に見放されれば、ストックを失うことになるんじゃないか、と。
それが怖くてたまらない。それだけなんだけどね。
「そりゃあ、ボクの隣に、ボクのすべてがあるからさ。
今、ちょっと留守にしてるけどね?」
でも、前に進むしかないんだ。
怖いのなら。
ほんの一瞬、勇気を振り絞って。
閃光のように。
ボクの心を――どこか見透かしたかのような目をして。
それでもエイミーは、とても嬉しそうで。
「この流れで振るけど、マリエッタはどうなの?」
「え、えぇえっぇ、私ぃ!?
ほんとなんでこの流れで振るんですかハイディ!!??」
すっごい動揺してる。
いいリアクション過ぎて、申し訳ないけど吹きそう。
エイミーは撃沈した。
さすがにちょっと、褒められ過ぎて恥ずかしかったんです。ごめんよ。
ボクのシリアスさんは限界じゃった。
次の投稿に続きます。




