19-7.同。~追放皇女の瞳に映るもの~
~~~~予言や正語りより、きっと解明容易だろう。君の道は拓ける。アリサ。
その後いろいろ話していたところに、エイミーとぐったりしたマドカが帰ってきて。
マドカはこう、興奮しまわった末に、知恵熱が出たみたい。
なのでこの工場についてる居住スペースにアリサが連れて行って、お休み中。
エイミーはさっそくゼリーを貪り、お茶をごくごく飲んでいる。
ボクはちょっと思いついたことがあるので、ひたすら紙に向かって書き出し中。
「とんでもない話聞いちゃった……」
エイミーがぽつりと漏らす。
落ち着いたのか、ボトル片手に椅子でぐでーっとしてる。
皇女みはやはりないな。帝国に捨てて来たのか。
「早速すごいもの見せられちゃったわね、ハイディ」
本当に……君の目はキラキラしてるね。
あんまりじっと見つめんなし。
「ま、お眼鏡にかなったようなら何よりだよ」
「ん。これからがとっても楽しみ」
楽しそうだからいいが……マリエッタの横でやんな。
さっきの笑顔がよぎるんじゃが。
「そういえばハイディ。
アウラというのは、どんな精霊なのですか?」
当のマリエッタが真面目な話に切り替えてくれた。
ありがたい。
一瞬、なぜか口元を拭うようなしぐさを見せたのは、忘れる。
「さぁ。何せ記録が少なくて。
金属を司る、ということくらいしかわかってない」
「なぜそんなことに……」
「アウラの属する王国南西領は、領主が分家に至るまで諸共滅ぼされていてね」
肩を竦める。そのせいか、ほとんど文献が残っていない。
場合によってはこの「滅ぼされた」のも、事件再現だ。
その場合……それこそアウラの失われた時代から、ずっとないんじゃないか?
「いきなりぶっこんで来たわね」
「領自体は、今はどうなっているのですか?」
少し顔を上げて、マリエッタの方を向き直る。
エイミーはぶっこむとか言うなし。
「どんな精霊使いもアウラと契約できず、王家が直轄で治めてる。
人が住んでないわけじゃないけど、豊かとはいえないし、さびれた領だよ」
「はぇ~。王国にもそんなところがあるのね」
鉱山資源の出土のみはたくさんするので、その近くの街だけは活気があるんだけどね。
「その精霊がなぜ……クルマに?」
「経緯はわからない。
ただ誰もアウラと契約できない理由は、はっきりしたね」
「霊体の精霊なら、魔力経由で交信ができる。
けど……クルマになっちゃったから、それができなかったってこと?」
さすがエイミー。理解が早い。
しかもさっき言及した通り、精霊種族が丸ごとだ。
精霊にも個体がある。
でも、魔法で一切呼び出せないということは、種がまるごと全部交信不能になったということ。
このサンライトビリオンには、アウラという精霊の種そのものが入っていると言っていいのだろう。
そしてみっちり詰まっちゃったから、外側から魔力で呼びかけても、まとも意思疎通ができない。
これも先の通りだ。
魔法や契約は、普通は成立しようがない。
ただ車両契約あたりを経由し、ボクとは契約状態にあるんじゃないかなぁ。
そこは確証はないけどね。その場合、ギンナやマリーだってそうだということになるし。
でもアウラが呼んだ名前は、ボクとストックだけ。契約者は、おそらくこの二人。
まだまだ、わからないことが多いな。
「そういうこと。
しかも、破壊不能の体を与えられてしまったから、元の霊体にも戻れないんだろう」
二人には周回のことを未説明なので触れないが。
やはりかなり前の時代に、この状態になったんじゃないかな。
最初は南西領のシルバ家および、貴族が滅亡しただけ。
その後、シルバ家は周回のたびに滅ぶようになり。
神器が出始めたどこかの時点で、アウラはこの体に受肉した。
以降の周回では精霊の加護を受けられなくなったはずだし、どうしてたんだろうな。
例えば、この周回の過去のシルバ家とか。
もしかすると、最初から王家直轄になってたり、するんだろうか。
ビリオンも、200年前のクルマと言われているが。
実際には「200年前に出土したクルマ」なのだろうな。
作られたというわけではなく、どこかに埋もれているのを、発見されただけなのだろう。
…………。
もう一台の、伝説のクルマ。
ダークネスマイナも、きっと何かあるな。
あれは今、ロイド家の預かりだ。
底面部のみと、制御結晶が残った状態で、保管されている。
他の部分は壊れてしまったが、残ったところは相変わらず壊れないんだと。
何かある、と思う。
調べてみたほうがいいかもしれない。
今度、ビオラ様に相談して、ヴァイオレット様にお願いしてみよう。
「ハイディは何をしてるの?」
ああ、ボクががりがり書いてるこれが、さすがに気になったか。
「あの波形を自動翻訳し、音声出力する魔導を作ってる」
紙で書き出して式を整理した上で、魔導使える人――ダリアとかに試してもらう。
その後は、ビリオンに詰めてもらえればいいかな。
それで、対話できるようになるはずだ。
「……魔導って、そんなお手製で作れるものでしたっけ」
お、そういえばここにも魔導師がいるじゃないか。
ちょっと見せて、行けそうならビリオンに入れてもらうか。
「やってること自体は、魔術師の魔術開発とそう変わりないはずだよ。
ほれ、どうかねマリエッタ」
何枚かの紙を、彼女に渡す。
受け取ったマリエッタが、内容を読み込んでいく。
「…………添削の必要がまったくないのですが」
おや、魔術の本場、連邦の姫にお誉めいただけるとは。
まぁ確かに、ダリアにも内容でいろいろ聞かれることはあるが。
式自体が間違っていると、言われたことはない。
「そりゃ、起動しない魔導なんて作らないもの。
使い勝手を調整したいから、後で手伝ってもらえる?」
「あー、はい。これは私も、そちらを優先でやってみたいですね」
ま、精霊の言葉を聞ける機会なんて、そうはないしね。
しかも前代未聞の、体をもった精霊。その体は不壊のクルマ。
わくわくが止まりませんよ?
こんな時に限って外出中とは、我が相棒はほんと、間が悪いな。
……この子、君のことも呼んでるんだから。早く帰っておいでよ。
次の投稿に続きます。




