19-5.同。~破壊の令嬢の見る世界~
~~~~話してるだけでも、新しいテーマが見えてくる。いいねぇ。
あそうだ。聞きそびれてた。
「アリサ」
「なんだ?ハイディ」
「君もこういうの、すごい好きだったりする?
マリエッタとは別方面みたいだけど」
さっきの人に見せてはいけないお顔二号といい、熱心な取り組み具合といい。
この子の感性は、マリエッタに近いものに感じる。
「ん……そうだな。
目に見えない世界、というのが好きで。
精霊とか、魔導とか、憧れてたんだよ。
私はちょっとその辺は、向いてないみたいだが」
計測してみないとわからないけど、悪役令嬢だからな……。
魔力なしの可能性もある。
本人が向いてないと感じるということは、一定の魔導は試したんだろうし。
そして起動できなかったのだろう。
「アリサは充填式じゃない魔道具は起動できる?」
彼女は静かに首を振った。
そうかぁ……魔力過少、適性欠如、魔力なし……原因はまだいろいろあるが。
魔道具起動ができないとなると、どのみち魔導を使うこと自体には望み薄となる。
マリエッタがボクと、そしてアリサを気遣わしげに見ている。
「その、ハイディ」
「マリエッタ、その可能性はあるよ。
アリサ、パンドラには精密計測機器がある。
そこで君の魔力を測ってみよう。マドカもね」
「っ。それは……」
……なるほど。思ったより強く憧れがあるんだな。
白日の下にさらされるのは、怖かろう。
大丈夫。ちゃんとボクが、君に勇気をあげる。
「ボクやストック、エイミーと同じ魔力なしかどうかを調べる」
「あなたとストックもなんですか!?」
まぁマリエッタは、エイミーがそうなのはよく知ってるわな。
「そだよ。
ただ、一口に魔導が使えないと言っても、細部が違うんだ。
それによって、魔導との関わり方も変わる。
だからまず、計測してみよう、アリサ」
「関わり方って……使えないなら同じじゃ、ないのか?」
ふふん。かつてはボクも、そう思っていた時期がありました。
違うって教えてくれたのは……実はミスティなんだよね。
あの人は、自分で「向いてない」のを克服したんだ。
「違うよ。
魔力なしと、魔力が水準に満たないことの間には、越えられない壁がある。
後者なら補助によって、魔道具起動くらいはできる。
前者は充填式魔道具じゃないと使えない。
でもまったく使えないわけじゃないんだ」
「ほんとか!」
「ただし。それとは別に、適性欠乏ってのがある。
これだと、魔導の起動自体に難があって、魔導が使えないんだ。
難というか、実際には癖なんだけど。
だから魔力が足りない場合とは、ケア方法が違うんだよ。
もちろん、使えるようにする手段はあるし……。
場合によっては、普通より強い魔導師になることもある」
エイミーが、魔力がないだけで、魔導起動と制御に抜群の才能があるのと同じだ。
単に魔道具が起動しない、だけだとまだ情報が足りなすぎる。
ボクだって、ビリオンでカラミティコール使えば魔導をちゃんと起動できる。
神器車自体に起動させてるのとは、あれはまた別だ。超過駆動でもない。
だから必ず、道はあるんだ。
「魔力なしのエイミーは、魔力さえあればボクの知る限り最強の魔導師となる。
ストックだって、それに追随するものがあるよ。
我々は人間なんだから、足りなければ他の何かで補えばいいんだ」
「ほかの、なにかで……」
「そう。それが知識や技術ってやつだよ」
アリサが……手を握ったり開いたりしながら見つめている。
その目に、静かに炎が灯っていくのが、見えるようだ。
「ハイディは技術だけでなく……こう、まるでお医者様のようですね」
そうかねぇ。まぁかじっちゃいるが。
ちなみに医者という職は存在する。
以前は薬師と変わりなかったそうだが、今は厳密に分けられてる。
特に王国では。他の国も近い区分のはずだが、聖国と帝国はちょっと怪しかったはずだ。
医者とは、「人に刃物を入れても罰せられない者」だ。
もちろん医療分野も様々なものがあるが。
この半島では医者かどうかは外科手術に焦点を当てて定められてる。
医師資格のないものが人の体に刃を入れたら、処罰の対象となる。
毒を含めた薬の取り扱いは、薬師の資格になる。
医者で、薬師でないものが薬を処方すれば、これは当然処罰の対象となる。
で、ボクはというと。
「ボクは魔導に頼れないから、医師と薬師は持ってたよ。
ただ今の時間では資格取り直してないから、何もしないけど」
あれは未成年は取れないんだよ。
だから当分、そういう治療行為はできない。
「ほんとなんでもできますね……」
「逆だよマリエッタ。
前の時間のボクは、何でもやらなきゃいけなかったんだ。
でなきゃ生きていけなかった」
呪いの子のことはたびたび話題に出るので、説明済みだ。
その時のある程度の自身の背景も。
「そんなその、過酷だったのか?ハイディのいた船は」
「経営事情が最悪なのに、やってることが多くてね。
まぁボクのことはすまんが、今は置いておいてくれ。
どうする?アリサ」
アリサが顔を上げたので、聞いてみた。
悪役令嬢というには、まだ愛らしい子が。
確かに頷いた。
「ん。じゃあパンドラ行って落ち着いたらやるか。
必要なら魔導の指導もか」
「あ、それはありがたいし、是非やりたいんだが。
その。私は……ほら。
さっきやらせてもらったみたいな。
ああいうのが、割と好き、みたいなんだ。
見えないのに、そこで何か動いてて。
それが確かに感じられて」
あー。なるほど。
ごめんよ、話の腰折っちゃってたか。
「別の世界がそこにあるみたいで、いいよね」
アリサがこくこく頷いている。わかりみを示されている。
「そう、別の世界だ。
それを……見てみたいんだ」
「いいですね。技術の醍醐味ですよ」
「そうだよな!やっぱり、そうなんだよな」
ふふ。興奮するアリサも、深く同意するマリエッタも。
好ましいな。いい子たちだ。
次の投稿に続きます。




