19-3.同。~その応えは、陽光に宿る魂の名~
~~~~ボク一人では、なかなか辿り着かなかっただろう。素晴らしい閃きの連鎖だった。
「っ、波形が変わった!」
マドカが声を上げる。
ああ――――やっぱり。
今まで放っておいて、ごめんね。
アリサを見る。彼女が頷いた。
「ありがとう」
もう一度、ビリオンに声をかけてから。
アリサの隣まで戻り、保存された波形を見る。
…………こんなところに、いたんだね。
「なんて、言ってるの?」
「最初のは、ハイディ、ストック、の繰り返し」
「「「「っ!」」」」
おお?
なんか多いなと思ったら、いつの間にかエイミーとマリエッタも来てた。
息を呑む彼女たちに続ける。
「そしてこの子の名前は――――アウラ。
王国の失われた精霊。
金の精霊アウラで、間違いない」
サインライトビリオンは、神器ではない。
魔石、魔結晶、魔導機構。それらが組み込まれた、体。
このクルマは、受肉した精霊だ。
なんか。
エイミーとマドカの二人がうおおおおおお!って淑女にあるまじき雄叫びをあげて出て行った。
興奮具合は、わかる。だが自重しろ。どこに行く気だ。
マリエッタとアリサがめっちゃ困惑して……。
…………。
「二人とも、ゆっくり休憩にしよう。
お茶とお菓子出すよ」
「「えっ」」
ものすごいお顔だったのが、虚を突かれたのか元に戻ってしまった。
名状しがたい笑顔だった……。ちょっと怖かった。
お茶は冷たいのでいいか。冷やしてるボトル持って来よ。
おやつは……ああ。冷菓子はないけど、髄質寄せがあったか。
ゼリーって言った方がわかりやすいかな?
連邦では普通にゼリーって言うはず。
王国では珍しいせいもあるのか、髄質寄せって言う。
動物性の脊髄たんぱく由来だから、そもそもほとんど王国では作られない。
二人と前に冷蔵庫から出したガラス製の器を出す。
ほんのり色づいたゼリーが何種か乗せてある。
「ほいゼリー。っていって……アリサは通じる?」
「ん、あぁわかる」
「いつの間に用意してたんですか?」
「いつだってそれなりにいろいろ、用意してるよ。
エイミーとマドカのは後で出すから、二人は食べちゃって」
スプーンとお茶のボトルを渡し。
自分の分も用意。
ボクも座って、お茶を一口。
「えっと。ハイディ?」
「ん。すごい顔してたし、二人とも。
こう、お喋りしたい感じなんでしょ?」
マリエッタとアリサが顔を見合わせる。
そんなだったか?って視線のやり取りかね、それは。
そんなだったよ。すっごいにやにやしてた。
きもちわ……きも……いややっぱ気持ち悪かったわ。
ぞくっとするくらい、興奮の伝わるお顔でした。
んー……うまく言葉にならないんってんなら。
こっちから、聞いてってみようか。
まずは軽く。
「まぁマリエッタが興奮するのは、多少わかる。
経験のある技術屋さんだし。
こう、いろいろ想像しちゃうよね?
『誰がどんな思いで、精霊の体を作ったのか』
とか」
「はい。はい」
すごい深々と頷かれた。
「調べたいけど、難しいんだよね……」
「文献とかは、残ってないのですか?」
「ない。事情があってね。それは存在しない」
二人にはこの「事情」はまだ説明してない。
ややこしいから、他の人に説明してほしいんだけどね……。
この世界が、ずっと同じ歴史を繰り返してるとか、そういうあたりのこと。
実にめんどくさい。
あ、ビオラ様がいるじゃんか。
あの人ならノリノリで語ってくれるわ。
なんたって論文『魔素結晶化周期と世界の螺旋循環』の執筆者だからな。
パンドラ入りする子への説明は、今度からビオラ様にお願いしようそうしよう。
捕捉するが。
ビリオンが作られたのは、それこそ何万年も前の話だからだ。
そこから現在までの間に、幾度かは文明が滅びているはずである。
ミスティの話では、神器の登場は比較的近代らしいけれども。
それでも数十万年前とかじゃないかな……。
全体は想像しかできないけど、それこそ億を超える話だろうし。
知ってるやつがいるんだけど、数えてないみたいで「忘れた」とか言いよるんだよね……。
「ということはハイディ、精霊に直接その、聞くしかないのか?」
正解だアリサ。
「そうだね。
ただ、あの中にはおそらく精霊種が丸ごと入っている。
精霊にも個があるから……その中から、正解を知るものを見つけ出さないと」
「王とか、ですか?」
「うん。長い名を持つアウラの王がいるはずだ。
だが、あの中からそれを探すのは、あまり現実的ではないだろうね」
さっきの波形だと「どの精霊が喋っているのか」はちょっとわからない。
そして精霊は、契約者相手以外には名乗らない。
人間の側も、聞ける精霊の名はどう最大限見繕っても、精霊一種につき一つだけだ。
もちろん、名前自体を知ることはできる。
でも教えてもらった名前の精霊以外とは、意思の疎通はできない。
例えばボクは、砂の精霊王サンディ四世こと「サンディ・ザ・フォース」の囁きは聞ける。
もしボクに十分な魔力があれば、召喚に応えてくれるだろう。
でもサンディ三世とその夫人「サンディ・ザ・サード」「サンド・サリー・サドマーヌ」は無理。
一方メリアは、この三体すべてと意思を交わせる。
次の投稿に続きます。




