19.イスターン郊外、神器船工場。
――――君を勝手に相棒と呼ぶと、彼女に怒られそうだが。そうだな……家族。そういうべきだろう。
先に言っておくと、無事ボクとストックは夜食にありつけた。
もうほぼ朝飯だったが。
その後休んで、さらに日をまたいでいろいろあって。
ストックは、エルピスでビオラ様たちをミマスへ迎えに行き。
ダリアとマリーは、ソラン王子と先の件で相談を重ねているらしい。
で。ボク、マドカとアリサ、エイミーとマリエッタは、郊外の神器船工場で作業の日々だ。
サンライトビリオンと、マリエッタの単車を弄りまわしている。
エイミーとマリエッタはたまに会談に行くけど、基本的にはここで機械いじりしてる。
「ハイディ、ちょっとわかんないんだけど」
マドカが紙束を持ってきたので、作業の手を止める。
ちょっと彼女の方に手のひらを向けてから、まず手袋を外した。
ついでなので、作業台の隅にかけておいた布で、額や首筋の汗を拭く。
あっちぃ。ボトルの水も飲んでおいてっと。
空調は回してるが、あまり魔力に余裕のある場所じゃないから、効きが緩いんだよね。
ぼんやり過ごす分には問題ないが、作業に集中してると汗が出る。
汗を拭き、横で結んでたリボンを一度解いてから、改めて高いところで髪をまとめる。
そういや、ほっといたら結構長くなったなぁ。たびたび切ってはいるんだけど。
ストックはいろいろ髪型をいじれるからと、肩下くらいでいつも整えてる。
ボクは……あれ、もう背中くらいまであるか?今度切ろうかな。
ストックはこれでいいって言うんだけどねぇ。ええんかよ。
というか、髪長いんだから、変なとこで一房だけ括らなくていいんじゃないの?これ。
あの子、たまに妙なとこにツボがあるよな……。
「ごめん、お待たせ。どこ?
波形は取れてるみたいだけど」
「あなたが言ってたところだと、信号の立ち上がりでトリガーがかからないのよ。
そこで引っかからないから、何枚か撮影しつつ見てみたわ」
彼女が持ってきたのは、ビリオンの制御結晶の波形計測結果だ。
魔力、電気、結晶出力……様々なものの波形を、制御結晶から採取している。
ビリオンが動いているとき、どんな状態なのかを細かく調べてるんだよね。
こいつは普通のクルマとは違う。明らかに神器ではない。
だから、クルマみたいに動いている様々な点について、本当は違うかもしれないと疑ってかからなくてはならない。
当たり前を見直すことで、きっと見えてくるものがある。
で、マドカが撮影したと言ってるのは、その波形の画像。
いくつか別々の波形を出していて、それがリアルタイムに流れているわけだが。
できれば、狙いの波形が出て来たところでとめて、その瞬間から前後を調べたいのだけど、うまくいっていないとのことだ。
だから彼女たちがやっているのは、ずっと流しながら適当なところで画像に残し、それを見つつ法則性等を見出すというチャレンジだ。
その結果を印刷して、ボクに見せに来てくれてる。
マドカもアリサも、覚えがいい。
教えたことをすぐ吸収し、必要なことに努めてくれる。
わからなかったら、すぐ聞きに来てくれて、楽でいい。
「ほほう。出てるけど……規則性がないね。
こりゃ、ほかんとこのノイズかな」
「つなぎ方、変だった?」
「いや、他は期待した波形だし、特におかしくない。
ピンが近いとこにあるわけでもないし。
計測機器側がどっかおかしいか?
ダリ……アたちはまだ帰ってこないか。
しょうがない」
ちょっと伸びをしてから、椅子から立ち上がる。
なんとなく、作業着の袖をまくる。
少し見渡す。
別の作業台にいる、作業着のエイミー、その向こうにマリエッタ。
反対の方にビリオン、その近くにはやはり作業着のアリサ。
うーん、作業できる人間が四人増えたから、服増やしたほうがいいかな。
麻の作業着は着心地はいいが、汗もかくし良く汚れるから、枚数が要る。
ここにもそれなりに用意があるはずだけど、子どもサイズが少ないはず。
まぁそれは後にしよう。
少し離れないとだから、次の指示をしておかないと。
作業台から、図面を一つ引っ掴む。
作業台の青い三つの腕輪は、ちょっと寄せてまとめておく。
「ごめん、エイミー。ちょっと見てくるから。
マリエッタの作業が終わったら……次こっちね」
近づいて、少し声を落として話しかけ、図面をエイミーに渡す。
マリエッタは細かい魔石神器にクリップをつけて、機器経由で魔導設定作業中だ。
間違えの元なので、本人には声をかけない。
彼女たちは、マリエッタの神器単車の改造作業中だ。
単車側のメンテナンスと、そっちの総神器機構への改修は終わった。
負担分散を実現するための、細かい魔石神器部品をこれにつけるわけだが。
実はこいつ、物理的に張り付けているわけじゃない。
魔導でごく短距離の無線的な接続をし、制御を行っている。
一度、周波数設定をしてくっつけられれば、後は大丈夫なんだけどね。
一度に設定できるようにしてないから、一つ一つやっていかないといけない。
最初はまとめて設定できるように作っていたんだが、ねぇ。
その時の通信仕様だと、無線ロスが大きくて使い物にならなかった。
通信の仕組みから見直して、運用時の通信維持と速度を重視。
やっと使用に耐えうる品質になった。
この通信方式での同時設定については、一応作ってはあってね。
最初から総神器機構で組んでるエルピスや、パンドラには実装されている。
あっちは同時設定できなかったら、設定作業だけで年が明ける勢いだから。やりたくない。
ただ、後からぶち込んでいるビリオンや、この単車向けの仕組みは作成はしてない。
意外に需要がありそうだから、半月くらい腰を据えて作っとこうかな。
いずれにせよ、パンドラを運用してからの話だけど。
エイミーが紙を受け取り、手を振ってボクを見送る。
マリエッタがだいぶ集中してるから、静かにやりとりしている。
さて。
マドカを伴って、少し離れたところで作業してる、アリサの元へ向かう。
アリサは計測器の制御端末陣を、いろいろ設定を変えながら操作し、様子を見ているようだ。
ちょっと面倒見てやるとするか。
次の投稿に続きます。
#本話は計13回(26000字↑)の投稿です。




