4-4.同。~旅に出よう。君が隣に、いてくれるなら~
~~~~…………やっと帰ってきた。おかえり。
…………一応、落ち着いた。
時間を戻った時にいた、小型神器船の奥で見たあの車。
あの二台は、サンライトビリオンと、ダークネスマイナと呼ばれる特別な神器車だったらしい。
200年前の車両で、見た目は普通の神器車と変わらないんだが、二つほど現在の技術で再現できないものを搭載している。
一つは、魔石1つから削りだされた車両であるということ。
あんな巨大な魔石は現存していない。もっと小さいものを加工してくっつけてつくるものなんだ。
もう一つは核の結晶だ。出力が普通のものじゃない。
その核一つで、聖域が動かせる。
ただ、この核を扱える神器動力構造が存在しない。普通に設えると、内部から爆散するそうだ。
巨大な魔石で、恐ろしい出力の核結晶を覆ったのが、あの二台だ。
そしてこいつらは、能力がすごいということもあんまりなく……ただ、動かせない。
普通に動かそうとすると、人間があっという間に結晶化する。
そりゃそうだ。核が聖域相当なんだから。しかもそれを、一人で動かす「しかない」機構なんだよね。
聖域は、数十人で1つの神器動力機関を動かす構造になってるから、そんなことにはならないんだけど。
あの二台は、負担を一人で引き受けるしかない。つまりそいつが動かせる=聖域を一人で動かせる、だ。
……ボクの出自を考えると、絶対あり得ないと言い切れないあたりが、一番怖い。
そして、カーボンで誰か石になったりしなくて、ほんとによかったよ……。
前のとき、僅かな運転でエリアル様が深刻な結晶化をした理由も、よーくわかった。
だがしかし。
「っていやあり得んだろ。魔石の構造強度は、大きさに対して指数関数的に膨れ上がるんだぞ?
ダークネスマイナが、柱に潰されたくらいで壊れるわけねーだろ」
あの二台が一番オーパーツなのは、ある意味そこだ。
その巨大魔石を加工した方法がわからない。
もし同等の大きさのものが見つかっても、現代の技術では中をくりぬけない。傷一つつけられないだろう。
「車体は元々壊れていたらしいぞ。理由は不明だが」
「こわっ。あれが壊れるって……いや考えたくない。地上滅びかねない。
あとストック。この話……」
「王家に伝わった上で、機密。口外禁止となった。
幸いにも、あれは調べられてもすぐそうだとわかる代物ではない」
頭を抱える。
確かに、有象無象が調べたところで、その貴重さや、ボクの異常性はすぐにはわからないだろう。
だが、ちょっと情報が伝わりすぎてる。まずい事態だ。
「それ、ボクまた浚われるんじゃないか?」
「だからドーンに押し込むことになった、とも言える。
言っては難だが、王都より防備が固い」
「そこは同意する。前の時、この国が滅んだ原因は、あそこが落とされたからだ。
ドーンが無事なら、その後は平穏だったろうさ」
「そうだな。その場合ラリーアラウンドは、王国に入ることすらできなかっただろう」
あと言わないけど、ボクが浚われちゃうようなセキュリティだもんな、王都。
ストックも浚われてるけど、ドーンを滅ぼす勢いで帝国が強襲してきたときだから、そこは事情が違う。
あれは要塞都市ドーンを陥落させ、ついでにストックを浚っただけだろう。
まぁ……今の内からドーンに入れるのは、ある意味将来の備えに動けるということでもある。
タトル打倒を目指すには動きにくい身の上になるが、そこはある意味しょうがない、か。
「で……そうか。巫女なのは、カムフラージュか。
正直に言ったら、標的にされるもんな」
「そういうことだ」
正しく評価するなら、ビショップ位である。
国の元首になってしまう。
「うん。やっぱりやりすぎじゃないか、ストック。
よくそこに抑えたな」
「やりすぎはお前だ、ハイディ。
あんなもの見つけて、持ってきてたとは。
私は思わず、腹を抱えて笑ったぞ」
「そこで笑うあたり、君はほんとに大物だな」
ひとしきり、二人で笑い合って。
「ご褒美あげるよ、ストック。何がいい?」
「ん!褒美なら、もうもらったようなものだが……」
こいつ、そこまで言うってことは、ほんとに頑張ったな?
この短い期間で、よくやる。
しかもその言い様、ひょっとして……
…………落ち着けボク。
なんだこのにやけ顔は。自重しろ。ばれる。
ここはあれだ。前に出よう。守勢に回るとやられる。
「そういうなよ。これは、あげる方の気持ちの問題だ。
もらってくれないと、ボクはとても困る」
「……お前を困らせるのは、本意ではない。そうだな」
ストックが、穏やかな顔つきであれでもない、これでもないと悩んでいる。
そこはちゃんと悩むんだな?
再会してからの君を踏まえるに、四歳児にあるまじきことを、ねだってくると思ったんだけど。
「よし、決めた。
助手席を、貰い受けよう」
…………ふーん。まだお預けということかね。それは。
ならばしょうがあるまい。
望みの褒美を、くれてやるとしよう。
「わかった。もう他の人は座らせない」
……なんかだんだん、顔が熱くなってきた。弱った。ごまかせない。
どうしたハイディ。何がクリティカルヒットしたんだ。
今、目を覗きこまれたら、大変なことになるぞこれ。
よし。ごまかすのは諦めよう。前のめりに行こう。
「じゃあ支度をして、ドライブに行こう。ストック」
「急だな。どこまで?」
「準備はちゃんとするよ。行き先は――聖域『ドーン』」
それと……旅立ちの前に、これは言わなくては。
彼女は忘れてるみたいだから。
その瞳に、目を合わせて言う。
「あと。お帰り、ストック」
とても、抜けたような顔をしてから。
彼女はほっとしたように、笑った。
「ただいま、ハイディ」
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